第53章 火星の癌②
「ボス、地球から通信がきています」
別室から若い男が出てきて報告してきた。
それを耳にするや、ホラップは怒り顔から青ざめた顔に変え、別室にすっ飛んだ。
「ザイオン様。いまこちらのほうから、ご連絡を入れようとしていたところです」
ホラップは借りてきた猫かのように低姿勢になり、モニターに映る怪物面の人物にひれ伏した。
「計画は失敗したようだな」
怪物面が冷たい視線を浴びせてきた。
「申し訳ございません。思わぬ邪魔が入りまして。ですが、計画は必ず阻止します」
ホラップは体を丸め、平身低頭で答えた。
「次の失敗は、絶対に許されないぞ。この俺が許したとしても、ガイガー様は失敗を絶対に許さないお方だ」
ザイオンが顔色一つ変えず、冷徹な口調を投げてきた。
「はい、お、お任せください。か、必ず阻止してみせます」
ホラップは顔面蒼白になった頭を、床に擦り付けるようにして、震え声で誓った。
「期待を裏切るな。失敗したら、どうなるかわかっているな」
ザイオンが念を押すように命令してきた。
「はい、わかっております。お任せください」
ホラップは視線を合わせぬよう、顔を床の中に隠すようなありさまで答えた。それから恐る恐る顔を上げると、ザイオンは画面から消えていた。
それを眼にしたホラップは、少しふらつくようにして腰を上げ立ち上がった。顔には、怯えが残っていた。それから少しして、怯え顔は次第に怒り顔に変わっていった。
「いいか、あの男を必ず殺せ」
ホラップは八つ当たり気味に、周りに吠えた。
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