第51章 暗雲①

 風俗街が視界から消えた後も、俺の怒りの虫は収まらなかった。


「あの車は?」

 風俗街から離れた丘の上に止まっている車を眼で指さし、火星の観光案内をしてくれたレオナードに訊ねた。


「さあ? わかりません」

 レオナードが首をすくめるような仕草で答えてきた。


「ここにある車は、全部登録されていないのか?」

 俺はすぐに質問を変えた。


 その車が、自分たちの行動をずっと監視しているように思えたからだ。


「はい。大部分の車は登録されていますが、さっきの風俗街の男たちが使っている車の中には、未登録のものもあります。届け出るように要請してはいるのですが」

 レオナードが不快な顔をして答えてきた。


 火星の住民たちは、一致団結して互いに助け合いながら生活しているものと思ったが、レオナードの曇った顔からして、どうやらそうではないようだ。人口が増加すれば、欲の強い面々が必ず出てくるということか。


 地球では、いまも死と隣り合わせの生活を強いられている人々が大勢いるというのに。俺は納得できない腹立たしさを胸に、視界から消えた風俗街の方角に振り向いた。


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