第47章 墓参り②
辛い墓参りを終えると、その帰りに車を運転するレオナードという名の案内役の若い男が、俺と恵美の傷心を癒そうとでも思ったのか、機転を利かせてくれて、少し火星の観光案内をしてくれた。
俺たちは、オリンポス火山の裾野にやってきた。
「お父、山の頂上はどこにあるの?」
初めて来たという幸恵が、そそり立つ崖の上を見渡しながら訊いてきた。
山の頂を探せないのも当然だ。標高が27キロと、エベレストの約3倍もの高さがある超巨大火山なのに、なだらかすぎてその高さをまったく実感できなかった。地平線からの眺める姿は、どっちかというと超巨大な丘陵という感じだ。山頂の火口縁に立てば高さを実感できるかもしれないが、登頂は衝突回避を成功させた記念に、実行するつもりだ。
「この山は高さが2万7千メートルもあるが、裾野が600キロ近くもある。東京、大阪間でも400キロだ。だから近くまで来ても、あの巨大山脈のような崖だけしか見えないんだよ」
俺は説明しながら、高さが5千メートル以上もある巨大な崖を指さした。
それからしばらくの間、オリンポス山の外周の一部を巡った後、地球のような他に見るべき景観もないので帰路についた。その帰り際だった。
「あれは?」
やけにけばけばしいネオンが目に付くコロニーを指さし、レオナードに訊ねた。
「あれですか? 風俗街ですよ」
レオナードが反吐を吐き捨てるように答えた。
「なんだって! 風俗街?」
耳を疑うように、驚いた声で訊き返した。
「ええ、そうです」
まさか、火星に風俗街ができているとは? 怒りが湧いてきた。地球では、いまも死の恐怖に怯え、飢餓に苦しんでいる大勢の人々がいるというのに、火星にまさかの風俗店がある。俺は、風俗店を経営する連中の首を絞め上げたい思いだった。
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