第47章 墓参り①

 俺は話し合いを終えると、恵美に連れられて、ある場所に向かった。


 恵美の母、別れた女房が埋葬された場所だ。手を合わせて、墓碑を見ているうちに目頭が熱くなった。喧嘩別れをしたとはいえ、互いに愛し合って結婚した女性だ。様々な思い出が、頭の中を駆け巡っていた。妻には、いろいろ不満な点があったが、それ以上に、俺の問題のほうがはるかに大きい。


 眼の奥に涙を溜め、すまない、と心の中で詫びた。言いそびれて生前にはまったく言えなかった、謝罪の言葉を吐いた。そして、いつか地球に連れて帰り、故郷に埋葬してあげることを誓った。


「お母、見て。お父(とう)ったら、お爺なのに、こんな顔に整形して、また若い女にもてようとしているわ」

 手を合わせていた恵美が、重くなった気持ちを明るくしようとでもしたのか、涙を拭いて軽口を吐いてきた。


「あのな~、恵美。これは、俺が自分で整形をしたんじゃないぞ。AIたちが勝手にやったことだ。それに、この顔は、おまえたちが学生の頃の本来の顔だ。整形なんかじゃない。おまえこそ、前より綺麗に整形させたんじゃないか?」

 俺も悲しい気持ちを切り替えて、軽口で返した。


「何言ってるの! もっとわたしは綺麗だったわ。それよりさ、あんな綺麗な女性と二人っきりで火星にやってきて、なんか怪しいわ~」

 さっきより強い口調で切り返すと、変に勘ぐっているような目を向けてきた。


「彼女は、ガーピスが選んだ、ただのパイロットだ。変な関係ではない」

 幸恵の表情からして、その言葉には半分冗談も混ざっているのだろうと思ったが、俺は思わず嘘を吐いてしまった。


 だが嘘も方便だと思った。彼女の、元の正体を明かしたら、余計にややこしいことになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る