第45章 父娘再会②

 俺は親子の会話を中断し、マルコフと宋憲の顔に眼をやった。


「この火星に、巨大彗星が衝突する」

 アリーナと談笑している人たちには聞こえないよう、二人に小声で告げた。


「火星に巨大彗星が衝突? それは本当ですか?」

 マルコフがひどく驚いた声で訊き返してきた。


 横にいる宋憲も、ひどく驚いた顔になった。マルコフの驚く声が少し大きかったので、周りに聞こえていなかったか眼をやったが、どうやら誰の耳にも入らなかったようで安心した。ここで騒ぎになったら大変だ。住民に知らせるのは、計画が進んでからだ。俺は人差し指を口にあて、もっと小声では話せ、とシグナルを送った。


「ああ、そうだ。間違いない。それを防がないと、火星にいる人たちは全滅だ」

 そして周りに注意を払いながら、さらに小声で答えた。


「防ぐって、いったいどうやって?」

 今度は宋憲が、マルコフの口が開く前に小声で訊いてきた。


「わかりました。ここではなんですから、場所を移して聞きましょう」

 平静を取り戻したマルコフが、責任者らしく機転を利かしてきた。


「お父、いまの話は本当なの?」

 傍で聞いていた恵美も、ひどく驚いた顔で訊いてきた。


「ああ、そうだ。おまえたちを守るために、だからここに来た。いまの話は、みんなには言わないでくれ。話が伝わると、パニックが起きる」

 恵美に答えると、改めで周りの人々を見渡した。

 どうやらここには、竜司と一緒に研究していた科学者たちは誰もいないようだ。


「マルコフさん、竜司と一緒に研究をしていた科学者、技術者たち全員も呼んでくれ」

 青ざめたマルコフの眼をまっすぐ見て要請した。


「わかりました。宋憲、急いでみんなに連絡してくれ。宮島さん、どうぞこちらへ。恵美さんも、どうぞご一緒に」

 マルコフの顔は強張ったままだったが、柔らかい口調で促してきた。


 俺たちの話が終わったのを待っていたかのように、アリーナが話に夢中の男たちの囲みを離れてやってきた。どうやら、俺たちの話が聞こえないようにするために、あえて距離をとって話をしていたようだ。

 アリーナが合流すると、俺たちはマルコフに案内され、別の棟に向かった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る