第45章 父娘再会①
この男は本当に宮島竜司の父親なのか? という周りの半信半疑の心を消し飛ばす声が聞こえてきた。
「お父(おとう)!」
娘の恵美の声だ。
しかし、人前では、お父様とか、せめて、お父さん、パパ~とか呼べよ。
まったく、この俺が、まるで昭和のド田舎の古い親父のようじゃないか。いや確かに、昭和親父ではあるが。
ただ呼び方は相変わらず同じだったが、その顔は違っていた。眼をウルウルさせ、涙目になりそうな顔だった。俺も「幸恵!」と呼びかけると、こちらに向かって走ってきた。俺は、抱きとめる準備をした。幸恵が園児以来の抱擁だ。だが、幸恵は目の前に来ると、足にブレーキがかかったように足を止めた。
「お父、まだ生きていたのね。本当に良かった。でもその顔、どうしたの?」
幸恵は眼元の涙を拭い取ると、相変わらずの物言いで訊いてきた。
まだとはなんだ! まるで死んでほしいような言いぐさじゃないか。まあ、幸恵なりの愛情表現なのはわかっているが。
「ああ、この顔か。棺桶から目覚めるときに、AIたちが施術してくれていた。おまえも最後に眼にしたときよりも、10歳以上若返っているが。まるで、息子のジュンと姉弟のようだぞ」
俺は大切な娘と再会できた嬉しさのあまり、軽口で応酬した。
「いまは、みんな若返りの施術をしているわ。それよりジュンは? ジュンはどうして? 一緒に来てないの?」
ジュンがいないことに、幸恵は眼をきょろきょろさせて訊いてきた。
俺はジュンが一緒に来なかった理由を説明した。聞いていた幸恵は、泣き出しそうな顔になった。無理もない。たった一人の大切な息子だ。
「心配ない。ジュンは元気にしている。あそこの施設にいれば安全だ」
俺は落ち込む幸恵を励まそうと、明るい声を上げ、両肩を掴んだ。
すると、それが合図だったかのように、幸恵がいきなり胸に飛び込んできた。俺は少し驚いたが、大切な娘を愛おしむように抱きしめた。
「ジュンは大丈夫よね。あの子に、もしものことがあったら」
幸恵は涙ぐみ、確かめるように言ってきた。
「大丈夫、あの子は、おまえが考えている以上に、しっかりしている」
俺は抱擁を解き、声を返すと安心させようと微笑んだ。
「親子の対面に割って入って申し訳ないですが、私たちを助けにきたとは、いったいどういうことですか?」
マルコフが申し訳なさそうに口を挟んできた。
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