第44章 火星到着⑤
俺は、周りの眼が、疑心になっているのを感じていた。みんなの前に立っているのは、竜司とさほど変わらない中年男だ。目の前の男は、竜司の父親の名前を騙って、地球から逃げてきたと思っているかのような顔だ。
「ああ竜司の父親だ。末期がんだった俺は、人体保存カプセルで眠っていたが、眼が覚めたら顔も若返っていた。火星にも、実年齢より若い人がいるだろう。まそういうことだ。首から下は、事情があって筋肉質の体になっているけど。竜司の父親だよ」
俺は疑心を晴らそうと、みんなに聞こえるように少し大きな声で説明した。
説明したが、どうやら完全に晴れたとは言えないような雰囲気だった。なにせ、顔だけでなく、体もアスリートのような体形だ。体が変わった理由は、逃走するときに人間の足では逃げ切れないため、アマールが改造させたのだ。
「なるほど、そういうことでしたか。たしかに面影は、竜司さんに似ている。いや、竜司さんが、お父さんに似ていると、言うべきですね」
他の面々と違って、マルコフは納得した顔で口を吐いてきた。
一方、迎えにきた4人の男たちの関心は、別の相手に移っていた。盛んにアリーナに声をかけていた。それに対し、アリーナはにこにこした顔で応じていた。
「すると火星に来たのは、娘さんに合うためですか? それにしても、これだけの大きな船なのに、避難してきたのは二人だけとは」
マルコフが首を傾げるような口調で訊いてきた。
「いや、俺たちは火星に避難しに来たのではない」
俺は、マルコフと宋憲の顔に眼をやりながら答えた。
「火星に避難するために来たのではない?」
マルコフが訊き返してきた。
「ああ、そうだ。君たちを助けるために来た」
二人の顔に眼をやりながら答えると、アリーナと熱心に話し込んでいる人たちに、眼を移した。
「助けるためとは、いったいどういうことですか?」
宋憲が横から口を挟んできた。
二人は意味が呑み込めないという顔で、俺の顔を見ていた。
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