第43章 小惑星②

 俺たちの船は小惑星に着陸した。宇宙服を身にまとい船外へ出た。俺たちは船の残骸に向かって歩き出した。だが星の重力が想像以上に軽すぎて、体がなじめない。うっかり、へまでもしてコケたりしたら、宇宙の彼方に弾かれそうだ。ま、重力がないわけではないので、数メートル上空まで遊泳した後に落下するだろうけど。問題は地面に落ちたときのダメージだ。落ちる場所が悪ければ、宇宙服が破けて、お陀仏ということもありえる。


 残骸に近づくにつれ、胸の鼓動が鳴った。娘の乗った船ではないことを強く念じ、祈りながら近づいた。


 現場に着くと、俺は思わず息をのみこんだ。残骸船の周りには10数体の遺体が無残に転がっていた。中には、手足がない遺体もあった。青ざめた顔で、近くに横たわっている亡骸の顔に眼をやった。どの顔も眼を背けたくなる、見られたものではなかった。海上に引き上げられた深海魚と似ていた。眼が、飛び出していた。


「この残骸は、火星行き始めた頃の船のようです。人間が製造した宇宙船です。ガーピスが製造した宇宙船ではありません」

 アリーナが俺の胸の内を察したのか、残骸を調べながら説明してきた。


 その説明を聞いて、頭がおかしくなりそうな俺の不安は一変に消し飛んだ、代わりに、哀れむ心が俺の頭を占めた。毎日飢えに苦しむ地獄のような地球での生活から、火星での新たな生活を目指した、夢を打ち砕かれて死んでいった乗船者たち。


「アリーナ、この人たちを弔ってあげたい。いいかな」

 調査を続けるアリーナの背中に声を上げた。


「はい。わたしも、そのほうがいいと思います。ブラックボックスを探しましたが、船内の損傷がひどくて見つかりませんでした。急いで埋葬しましょう」

 見落としがないか、アリーナが周りを注視しながら答えてきた。


 俺たちは、見つけることができた14人を丁寧に埋葬した。中には、幼い子供が3人もいた。子供たちを埋葬するときは、涙が零れそうになった。


 世界の富を独占し、贅沢三昧の限りを貪る一方で、飢餓に苦しむ人たちを容赦なく殺戮した、火星に追いやった連中に、改めて強い怒りを覚えた。


 手を合わせ、黙祷を捧げると、後ろ髪を引かれる思いを抱きながら小惑星を離れた。

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