第42章 火星へ①
俺は、弟を引き連れてマリアと話をしているジュンを、愛おしむように見ていた。俺にとっては、たった一人の大切な孫だ。平和な時代なら若い祖父として、もっと仲睦まじく接せすることができるのだが、いまはのんびりとはしていられない。この間にも、火星を破壊しようと巨大彗星が向かっている。いまは一刻も早く火星に行って、衝突の回避策を構築しなければならない。
「ジュン」
俺は二人の時折はずむ会話に、首を突っ込むようにジュンを呼んだ。
「彼女に火星行きを話したのですが、ここに残るそうです。弟の記憶が戻るまでは、火星に行けないと。それで、僕もここに残ります。彼女の側にいてあげたい」
ジュンが予想外の言葉を吐いてきた。
当初、火星行きの説明をしたときは、ジュンはすごく喜んだ顔をして彼女も連れていくと話していたのに。俺は思わぬ展開に面食らい、思考が一瞬停止した。
「火星では、おまえの母さんが待ちわびているぞ。母さんに、会いたくないのか?」
思考が戻ると、俺はつい感情的な口調で訊き返した。
おそらく自分の命より大切な息子が来るのを毎日、指折り数えて待ちわびているに違いない娘の気持ちを思うと、つい強い言い方になってしまった。
「はい、それはわかっています。母さんには、もちろんすごく会いたいです。でも彼女も守ってあげたい。僕はこれまで、彼女に何度か助けてもらった恩もあります。そんな彼女を置いて火星に行くわけにはいきません」
マリアたちの方に視線が送りながら、理由を話してきた。
「それに火星に行くときは、ゲバラも一緒に連れて行きたい」
続けて自分の思いを吐いてきた。
俺はその言葉を聞いて、ジュンがゲバラに特別な感情を抱いていることを、改めて思い知った。やはり、亡くなった父親と、重なって見えているようだ。
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