第39章 アリーナ誕生①
そこに、到着したばかりのジュンがやってきた。ジュンはどこかホッとしたような表情を浮かべていた。どうやら朗報を期待できそうだ。
「どうだ? 見つかったか?」
側にやってきたジュンに、声をかけた。
「はい、見つかりました。彼女はいま弟と一緒に、他の子供たちのところにいます」
今度は嬉しそうな顔で答えてきた。
ジュンの恋人、マリアの家族は全員が殺されたものと思っていたが、10歳の弟が生きていることを知り、二人は捜索隊と一緒に探しに行っていたのだ。
「それは良かった。それで、弟の様子はどうしてる?」
安堵した顔で訊き返した。
「はい、これまで食事を満足に摂れなかったようで、少し痩せてはいますが、元気にしています。いままで見つけることができなかったのは、彼が記憶喪失になり他の難民の中に混ざって、逸れた場所から遠く離れたところにいたことが原因でした」
その説明を聞いて、10歳の少年の過酷な日々が頭に浮かび、俺は顔を曇らせた。
「そうか、記憶喪失か。でも、生きていて良かった」
気持ちを切り替えて明るい口調で応じた。
「はい。時間は少し掛かるとは思いますが、記憶は元に戻せます。あの爺、宮島さんは、これからどこに?」
話を変えて逆に訊き返してきた。
「その、宮島さんは、もうやめろ。俺は、おまえの祖父だぞ」
俺は少し指導口調で声を飛ばした。
「はい、わかってはいますが、その実年齢とは違う顔を見ると、お爺ちゃんと呼ぶには、どうも抵抗があるのです」
ジュンがもじもじするように話してきた。
「そうか、俺は別に構わんけどな。いや、やっぱり変か? それじゃ、そうだな~」
俺は少し考える顔をした。
「そうだな。グレートファザーはどうだ? いやジーヤにしよう。爺(じじい)のじぃ、じゃないぞ。カタカナのジーヤだ。いまから俺をそう呼べ」
閃いたぞ、という顔して、呼び名を発表した。
「爺ゃ?」
ジュンが少し首を傾げるような仕草で名前を返してきた。
「爺じゃなくて、ジーヤだ!」
俺は念を押すように、言い返した。
話をしているうちに、自分がクソ爺のような気分になっていた。いやいや、この俺は、ジジイじゃなんかじゃないぞ。俺は胸の内で、強く打ち消していた。まあ実年齢は、ごまかせないが。いやこれからは外見に合わせて。年齢詐称でもするか。実年齢を言ったら、若い女の子たちが逃げてしまう。まあ、冗談だが。こんな狂気の世界で、色恋なんて頭の片隅にもない。いや、相手が言い寄れば、考えてやってもいいが。
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