第38章 再生⑨

 俺はアマールの施術の最中、処置室を出て別室に移動し、遠隔監視カメラが映し出した地上の景色を見つめていた。理由は、彼女と一緒に地上に出ているジュンがそろそろ戻る頃だからだ。


「遅いな」

 ジュンの帰りが予定より遅いので、少し不安に駆られ、独り言を零した。


「戻ってきたか」

 景色を映すスクリーンの片側のGPS信号に眼をやり、ほっと一息ついた。なにせ護衛がついているとはいえ、100%安全とは言えないからだ。


 俺は到着を確認すると、処置室に向かった。すると、施術を終えたのか? 白衣を着たガーピスが現れた。まるで、人間の医師のような出で立ちに、少し面食らった。


「終わったのか?」

 ガーピスの正面に立ち、すぐに訊ねた。


「ええ、無事に終わりました」

 ホッとしたような口調でガーピスが答えてきた。


 アマールの記憶の中にはガイガーの情報も眠っており、それを開示しようとすると爆発する仕組みになっていた。だからガーピスといえども、それを全て取り除くのは容易ではなかった。失敗したら施術室は瓦礫の山になってしまう。アマールを苦しめていた回路をどうにか爆発を回避して施術できたことで、さすがのガーピスも人間のように安堵の顔を浮かべていた。


「外見はほぼ同じですが、中身はすっかり別人になりました。あなたを眼にしても、もう誰かはわかりません」

 ガーピスが続けて説明してきた。


 その言葉に、少しショックを覚えた。いや、かなりのショックだった。それはわかっていたことではあるが、彼女の思考、記憶から自分の存在が完全に消え去ったことに、強い寂しさを覚えていた。


 彼女が目覚めたときは、俺はもう、見知らぬ1人の人間ということだ。それが頭に押し寄せると、体から力が抜けていく思いだった。


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