第38章 再生⑦

 俺は初めてごく自然に、親愛のこもった優しい眼差しを彼女におくった。


「君は言ったよね。俺たち人間は地球の家族だと。君も、人間と同じだ。俺は火星に行くことになった。君に、俺を連れて行ってほしい」

 機能停止の決意を翻意するよう訴え続けた。


「火星に?」

 やはりアマールは聞いていなかったようで、表情を変えて訊いてきた。


「ああ、そうだ。火星には娘がいる。俺を火星に連れていってほしい」

 重ねて火星行きの手出すけを頼んだ。別の理由は伏せた。ガーピスに、火星に行く目的を誰にも漏らさぬよう言われていたからだ。


「それなら、他のメンバーでもできるわ」

 予想した言葉が返ってきた。


「いや、ぜひ君にお願いしたい。君以外には考えられない。火星行きの宇宙船の操縦を君にさせることは、ガーピスも承認している。頼む。お願いだ。俺を、火星に連れて行ってくれ!」

 俺は強く訴え続けた。


 すると、アマールの表情がまた変わった。何かを考えているかのような、寂しそうな眼だった。


「でも、わたしの思考をリセットしたら、いまの話は、それに、あなたとのことも頭から消えているわね」

 言い終えると、悲しそうな眼で俺の顔を見ていた。


「いや、思考がリセットされても、君は存在している。君の姿は何一つ変わらない。そのときに、また火星行きをお願いする」

 彼女を助けたい一心だけが、俺の心を突き動かしていた。


 まるで片思いの愛しい女性に求愛でもするかのように、必死に説得を続ける俺の眼を、アマールはまたじっと見ていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る