第33章 息子の代役④

 改めて火星の映像を凝視した。当然、ここからは見えないが、あのどこかに大切な娘がいる。ガーピスに言われなくても、やはり自分は火星に行くべきだ、といまはむしろ強い気持ちになっていた。


「それで、火星にはいつ出発するのだ?」

 瞳をガーピスの顔に戻し、決意を滲ませた口調で訊いた。


「いま、その準備を進めているところです。4、5日では出発できます」

 ガーピスが引き受けてくれたことに、ほっとしたという顔を浮かべて答えてきた。


「そうか、だが、そんな短い期間では、あんたのプランをマスターするのは、俺には無理だぞ」

 素直に自分の能力を伝えた。


 なにせ人間の能力を超越した究極のAIの計画だ。それにだ、俺は決して物覚えが良いほうではない。どちらかと言えば、暗記力は人よりも劣るほうだ。火星の人たちの運命を左右する大事なプランを、超短期間で覚えられるわけなどない。


「宮島さんには、計画の概要だけを覚えていただければ結構です。専門的なことは、一緒に持っていくデータを火星にいる専門家に渡していただければ、計画の詳細は彼らが説明してくれます」

 ガーピスがすぐに心配ないという顔で答えてきた。


「そうか、それなら安心だ」

 俺は少しほっとしたという顔で応えると、また火星の映像に瞳を移した。


……待っていてくれ。お前を決して死なせたりはしない。


 娘への強い思いを、瞳をとおして火星に送った。


 竜司の死を、絶対に無駄にするわけにはいかない! 娘や、火星の人々を必ず救う! そう心に固く誓った。


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