第32章 巨大彗星④
話を中断して、スクリーンに映る火星に瞳を向けた。火星には、娘だけでなく、大勢の子供たちも移り住んでいる。
「あの火星にいる人たちに、あんたのプランを受け入れてもらう方法はないのか?」
ガーピスの顔に瞳を戻して訊きなおした。
「情報が本物なのか嘘なのかを、すぐには見分けがつかない時代です。火星に情報を送信しても信じないでしょう。私たちが自分たちを騙して、火星を混乱させようとしていると考えるでしょう。直接、誰かが火星に行って、説得する以外に方法はありません」
言われてみれば、確かにそうかもしれない。何が真実で、何が嘘なのかを見極めるのが困難な時代だ。
俺が眠る前もそうだった。強欲な政治屋たちの噓八百の演説をアホみたいに信じている支持者たち。その一方で、真実には耳を貸さない。もっとも騙しが得意な政治屋や、教祖たちは全員、地球から駆逐されたようだが。
肩を落とし、思考を元に戻した。誰かが火星に行って、説得する。それはガーピスたちではなく、彼らと同じ人間だ。AIを信じない人々を説得するには、彼らと同じ人間しかいない。
その最適任者は? 彼らを救ってくれた、恩人……。竜司だ。だが、竜司は、もうこの世にはいない。
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