第32章 巨大彗星③

 ガーピスと話をしていている最中も、俺の胸の鼓動は、強く高鳴ったままだった。娘を救いたい! いまは、その一心だった。それしか頭になかった。


「火星にいる人々を救う方法はないのか?」

 俺は藁にもすがるような思いで訊ねた。


「方法はあります。ですが、火星にいる人々が、わかってくれるかどうかです」

 まだ曇った顔ではあったが、冷静な口調で答えてきた。


「死ぬか生きるかの問題だ。わからないほうがおかしいだろう?」

 助かる方法があるという言葉に少し安堵を取り戻し、俺は疑念を返した。


「それはよくわかっています。そこで彗星の衝突を避ける方法を考案しました。後はその方法を火星にいる人々が信じてくれて、実行してくれるかです」

 眼をまっすぐ見たまま、ため息を吐くような口調で答えてきた。


「実行するもなにも、救われるなら、何でもやるだろう」

 俺は反論するような口調で言い返した。


「それなら、いいのですが。火星にいる人々のほとんどが、私たちAIのヒューマノイドに強い不信感を抱いています。はたしてその人たちが、私の考案を信じてくれるのか? そう簡単には信じないでしょう」


 ガーピスが何を言いたいのかを理解した。ガーピスが考案した衝突回避の方法を、火星にいる人たちが拒否する可能性が高いということだ。


 これまで、ずいぶんひどい目に遭わされたことを考えれば、当然だった。人間不信ではなく、まさにAI不信ということだ。


 だが、実行しなければ、火星にいる人々は全滅してしまう。

 俺の娘も。

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