第28章 3年前⑦

 竜司の眼は、12機の護衛機に守られながら地球圏内を離れて、火星へ飛び立っていく宇宙船を、ずっと見つめていた。


「恵美、母さんを頼む」

竜司は胸に声を落とした。


 愛する大切な母と妹を、人が住めるようにしたとはいえ、まだまだ劣悪な環境下の火星に送り出したことに不安を拭えずに後悔もしていた。だが、それ以外に方法はないことも十分に理解していた。


火星の酸素量を増やして、人間が住めるような環境にしたが、それでも宇宙服なしでは1秒でも外に出られない。地表に降り注ぐ放射線量を減らすことに成功したが、まだ安全に暮らせるようになるには、少なくとも後2年以上は掛かるだろう。だが地球に留まっていたら、無事に生きられる保証さえない。断腸の思いだが、これが正しい判断なのだ、と自分に言い聞かせていた。


「竜司さん、お母さんと妹さんが、心配なのですね」

 前の送受信装置から柔和な声が聞こえてきた。


「ガーピス、僕の判断は、正しかったのだろうか?」

 防衛本部から送られてくるガーピスの立体映像に、声を返した。


 次第に視界から消えていく宇宙船の方角を、憂いの眼で見つめ続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る