第22章 地底基地①
少し沈黙があって、アマールがまっすぐ顔を合わせてきた。初めて会ったときの、あの冷たい眼ではない。人間の女性と変らない眼をしていた。いや、ある意味では人間の女性以上に、綺麗な眼だ。純粋な少女のように、澄んでいた。それでいて、何かを語っているようにも見えた。
「そのわけは、ある人が詳しく話してくれるわ」
吐いてきたのは、意味ありげな言葉だった。
「アマール、もうすぐだ」
カストロが口を挟むと、シンクロのオリンピックのトップ選手のように白波を立てず、青い海面に円盤を突っ込んだ。海中をしばらく進んでいると、黒マグロらしき大きな魚の大群が見えた。どれも刺身にしたら、すごく美味しそうだ。そういえば、長いこと刺身を食べていない。いや刺身どころか、生き返ってからは味気ない粗末な食べ物しか口にしていない。新鮮な刺身が頭に浮かぶと、急に腹が減ってきた。
なにせ、一日3食満足に摂ったことは一度もないのだ。日によっては1日1食のときもあった。しかも一口分だ。だから、毎日が空腹状態だ。
そんな空腹感は、命の危機の連続で、すっかり忘れていただけだ。
円盤はさらに深海へと潜っていった。太陽光が届かない、周りは暗黒の世界になった。機内も真っ暗だ。
「これをかけて」
アマールがサングラスのようなものを手に持たせた。
俺は言われた通り、サングラスをかけた。驚いた。まるで照明をつけたかのように機内の隅々まで見える。
アマールの美しい顔もはっきりと見えていた。
外の景色はいったいどうなっているのか、窓に眼を移した。深海にいるのに、太陽光に照らされた海中にいるかのように、海流が見えていた。だが、あの美味しそうな魚たちはここでは一匹も見当たらなくなっていた。期待をしていた深海魚にも、出会わなかった。
暗黒の世界をつき進むと、今度は海底火山と思しき山が見えてきた。
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