第8章 避難民②

 白人美女の綺麗な眼は、大谷の顔に注いでいた。待ち焦がれていた大切な恋人が無事に帰ってきたときのような、すごく嬉しそうな表情をして。中年の魅力あふれる俺の顔は、ちょっと一瞥しただけで、その後は一度も目もくれずに大谷を見つめていた。その仕草に合点した。どうやら2人は恋人同士のようだ。


 あのマネキンもどきの女ではなく、久しぶりに生身の美女に出会ったというのに、ああ残念無念。


「二人とも無事で良かった。大谷くん、後を付けられてはいないだろうね?」

 ここのリーダーと思われる、白髪混じりの中年の男が訊いてきた。


 見かけとは違って、まだ40代前半だそうだが、人間社会の滅亡という絶望的な日々で暮らしているせいか、くたびれた老人のようにも見えた。ま、それでも実際には、俺よりずっと若いが。みんな俺の実年齢を知ったら、瞼を開いてぶったまげるだろう。


「みなさんは、あのロボットたちから逃れて、ここに隠れているのですか?」

 リーダー格の男と眼を合わせて、俺は単刀直入に訊ねた。


「ああそうだ。ここには男が11人に、女が6人隠れている。全員が大人だ。それと同じような場所が他にもある」

 俺を年下とでも思ったのか、愛想のない声を返すと、老け顔の男の眼は、すぐさま大谷に向いた。


「大谷くん、君は、ここでのルールを守らずに勝手な行動をした。もし、君があいつらに捕まれば、ここは全滅だ 」

 今度は厳しい口調で、言葉を投げつけてきた。


「わかっています。どんな罰でも受けます」

 大谷は覚悟しているという風な顔をして応じると、ひどく心配そうな顔をしている女に眼を向け、瞳を合わせていた。 

    

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る