第8章 避難民①

 大谷が西の空を見上げた。


「宮島さん、さあ急ぎましょう」

 他にもなにか訳ありのような顔をしたまま、大谷はさっと腰を上げると、少し強い声で促してきた。


 俺たちは2つのなだらかな尾根を越え、三途の川を、いや3つの川を渡り、大小の岩が点在する山腹にやってきた。途中、無残に破壊尽くされて廃墟になった町や村があった。


 そこには眼にしたくはなかった、白骨化した人間の死体が方々に散乱していた。動いているのは、時折見かける野犬や猫、鳥たちだけだった。


 最後に通った集落の一角だった。父親か母親なのかはわからないが、たぶん低身長からして女性なのだろう。一体の大人と思しき蓋骨に抱きつくかのようにして、子供の骸骨があった。蓋骨は男の子、それとも女の子だったのだろうか? そのあまりにも悲しい光景を眼にして、胸を締め付けられた。親子が死んでいく悲しい姿が瞼に浮かびあがり、目頭が熱くなった。


「この二人を埋めて上げたいが」

 俺は足を止めて、大谷の顔に眼をやった。


「いえ、気の毒ですが、時間がありません、さ、急ぎましょう」

 その大谷の言葉に従うしかなかった。


 いまは、ロボットたちから逃げ切ることが最優先だ。だが走りながらも、親子の死体が瞼に強く焼きついていた。頭から離れずに重い心を引きずったまま、高さが30メートルはありそうな巨岩を超えたときだった。雑木林に囲まれた高さが2メートル近い巨岩が、いきなり前に動いた。それは自然な岩の形を残しながら、開閉できるよう加工して作った扉だった。後で知ったが、人工物だとすぐに発見されてしまうということだ。


 するとドアが半分ほど開き、3~40代と思われる3人の男と、20代前後と思われる白人の美女が1人、中から出てきた。 


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