第2章 新しい世界④
俺の心は、体より先に、家族のもとに走っていた。はやる心をどうにか抑え、説明の続きを待った。
「いまここで詳しく説明をしても、あなたはひどく混乱するだけでしょうから、これから新世界を見てもらいながら説明します。あなたが考えているような残忍な人間の独裁者が世界を支配してはいません。心配しないでください」
すると、まるで心が読めるかのように答えてきた。
気持ちを切り替え、俺が今一番知りたいこと、竜司や娘のこと、家族を知らないか? と訊ねようかと思ったが、やめた。その感情を一切見せない口振りと表情からして、女に問い質しても、聞いてもきっと無駄だと、喉元まで出かかった言葉を引っ込めた。
一刻も早く、家族に会いたい気持ちが頭の中を占めたが、いまおかれている状況に頭を切り替えた。
胎児のようにカプセルで呑気に眠っていた間に、俺の想像をはるかに超えたことが世界で起きたことだけは、なんとなく理解した。それでも直にこの眼で確かめるまでは、女の話を全部信用することなどできない。
それに、肝心な質問には答えない女と話していると、心がざわつくだけだ。
この女モドキの扱いは、看護師や介護士が親切丁寧に世話をしてくれるのとは違って、自分を何かの実験動物のようにしているように思えた。
それは当たっていた。女に部屋を連れ出された俺は、人体実験のような扱いを、奇妙な検査の材料にされた。幸い、体を切り刻まれることはなかったが。
その胡散臭い検査から解放されると、女に連れられて施設を出た。いや正確には、まだ施設内の外に出ただけだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます