第1章 マネキン女③
俺は、鏡いっぱいに映る、自分の顔にひどく驚いた。眠る前の顔とは、まったくの別人のようになっていた。いや実際には、俺の顔だが。
また生き返っただけでなく、あらゆる手当てをして必死に引き留めたのに、俺の努力をあざ笑うように逃げていった毛髪たちも戻っていたのだ。それに、いわゆる禿げにされた頭だけでなく、皺だらけの老人のさえない人相も、20代の頃の、いや40歳前半の頃の顔に戻っていた。
改めて頭に眼をやった。薄情にも逃げやがったくせに、しれっと生えている毛髪を眼にしていて妙な気分だった。まあ過去にすげなくされた遺恨? はどうであれ、ふさふさの髪を眼にして素直に喜びを眼に浮かべた。
がそれよりも、もっと嬉しいことは、肺がん発症前の元の健康な肺に戻ったおかげで、胸の激しい痛みも、すっかり消えていた。末期がんに蝕まれていた俺は、未来の医学の力で生き返れることを願い、人体保存カプセルで長い眠りについたのだが、まさか若返って蘇れるとは、まったく想像すらしていなかった。
鏡に映る顔を見ながら思った。少し欲を言えば、若返らせる技術があるなら、イケメンと呼ばれていた青年の頃の顔にしてほしかったな。いや、やはり、それは欲深いか?
中年の顔をしげしげと眼にしながら、俺は胸の内で、贅沢な不満の愚痴を零した。
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