泣く彼女達 【ある意味サイコホラー】

 ––– ガチャリ。

男は、マンションの一室のドアを開錠する。

 重厚なその扉の裏には、無造作に防音加工が施されていた。

彼女キミたち…ご主人様が帰ったぞ…』

男は靴を脱ぎ、玄関の壁に手を滑らせながら奥へと踏み出す。 キュ、キュ。と、耳障りな音をたてる両方の壁にも同じく防音材が釘で打ち付けられていた。

 男はリビングの扉を開くと、口元に微笑を浮かべ、『そんなに泣き喚いて、私の帰りが待ち遠しかったのか?』と、低い声で笑う。

 男の視線の先には、薄暗いリビングにで蠢く『彼女達』の影。それは例外なく泣き声を上げていた。

『…腹が減っただろう。今日はご馳走だぞ、嬉しいだろう』

 男は、台所へ向かうと、ギコギコと硬い物質を切断するかの様に甲高い音が部屋に響く。

 その音に、泣き声は一層大きくなった。

『さあ、食え』

男は手にした缶を逆さまにすると、床に転がっている皿に、『ベチャ』と、汁気を含んだ固形物がぶち撒けられた。

 暫く男の様子を伺っていた『彼女達』だったが、1人がそれに口をつけた途端、他の者達も皿に群がった。

『…旨いか?…そうか、旨いか』

それを満足げに眺める男は、『お前達がここに連れて来られて今日で1ヶ月が経つ。特別にデザートを用意しているんだ』


 と、胸元から取り出したのは……


『チュール』だった!!

 それを見て狂喜乱舞する彼女達!!

「にゃあ!にゃあ!」


––– 今日も、彼女達の泣き声が部屋に響く。

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