滅亡の理由 【技術の進歩が生んだ悲劇】

 私は、その古代遺跡の中で『滅んだ種族』のメモリーデバイスを見つけた。

 そこには、『古墳中学校42期生 将来の夢』と、銘打たれたデータが、木を原料とした薄い素材に炭を擦り付けて文字が書かれていたのである。

 我々の文明によって解読に至った、恐るべき前人類の生態の一部をここに語ろうと思う。

      【CASE1】


『僕はスキー選手になりたいです。雪の上をエッジで切り裂くのが快感です』


 『雪』という文字は、人名に多く使われていた。そしてエッジとは刃物を意味する単語である。

 何という事だ!この人物は刃物で雪ちゃんを切り裂く事に快感を覚えるという。

 スキー選手、つまり、断罪執行人的なものなのか? 然るにこんな戦闘民族であれば、絶滅しても致し方無いと思われる。


      【CASE2】


『僕は焼き肉屋さんになりたいです。そこに友達を呼んで焼き肉する事が夢です』


 馬鹿な!友達とは、親しい仲間を意味する筈である。それなのに、集めて焼き殺すだと? 焼き肉屋さんとは、情を切り捨てる為の強制施設なのだろうか。 なんと救いの無い世界だったのだ…


      【CASE3】


『私はケーキ屋さんになりたいです。本場で修行して皆んなに届けたいの、甘い香り誘われて幸せになれる味。それでみんなが嬉しい気持ちになって欲しいのです』


 これは恐らく諜報部的なものか?

想像を絶する修行を乗り越え、身につけた誘惑術で自国の繁栄に寄与するという思想…

 ケーキ屋という部隊の、なんと恐ろしいことか…


       【CASE4】


『俺は親父の跡を継いで漬物屋になります。

切って、塩を塗りこんで、重石を乗せる。簡単そうですが、実は奥が深いのです』


 !!!漬物屋とはッ?!

…こんな拷問が許されていいのだろうか?

更には、苦痛を与えることに『奥が深い』と語っている点からも相当に拷問技術が研究されていた様だ。 なんとおぞましい種族なのか?


 ……次が最後の様だな。


       【CASE5】


『あっしは、科学者になって豊かな未来を作りたいんだよ。反物質技術を確立してエネルギーの心配が必要ない、自然を破壊しない世界作りに貢献したいのだよ』


 ……なんと! こんな殺伐とした世の中に未来を憂う者もいたのだな。

 しかし、反物質技術とはどんな技術であったのだろうか? どうやら、クリーンエネルギーの一つと推測されるが……


 ……それにしても、恐ろしい種族が支配していたものだ。絶滅したのは因果だろう。


『…ザザッ 調査員No.828聞こえるか?』

突然、無線から同僚の調査員No9の声が流れてくる。私は、解読したメモリーデバイスの件を話そうとしたが、No9は先に驚愕の事実を口にした。

『前人類の滅亡理由がわかったぞ!』

 私は、思いがけず「何だって?!」と、声を上げた。


『よく聞けよ。滅亡理由は『対消滅』だったんだ。前人類はそれなりの文明を築いていたが、『反物質』と呼ばれるエネルギーを開発し、それが世界に広がった』


 私は彼の言葉を固唾を飲み耳を傾ける。

『反物質』とは、先ほどのメモリーデバイスに記載されていたものではないか。


『しかし、その物質は他の物体と触れる事で、対消滅という現象が起こるんだ。莫大なエネルギーが発生して、文字通り一体が『無に帰す』んだ。それが、世界中で連鎖的に起こってしまった様だ』


 その内容を聞きながら、私は思った。

先程の科学者になりたいという人物が記載していた『自然を破壊しない世界づくり』とは、全てを粛清した世界だったのか……と。


 



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