2033年11月6日 - 最後の瞬間
朝早く起きて、2人で出かける。
歩ける範囲ではあるが、様々な場所を巡る。
昼には食事を買う店もなければ金もないので、
深い深い接吻で代えた。十分に満たされた。
どうしてこの人を愛したのか。
恐らくは愛されたから、ではなかろうか。
私は世界の終末に感情を学んだ。
毎日の業務のために、
抑圧し、忘却し、消去していた感情を思い出した。
そして私達は終末を、あの公園で迎えた。
愛し愛されながら、この世は終わる。
この世の終わりを知る前には想像もしなかった事だ。
かつて毎日顔を合わせていた貴方が、
まさか私を愛していて、そして私も愛する事になろうとは。
幸せな終末だったと、私は思う。
そして昔よく遊んだ公園で、幼馴染とともに、
ベンチに座る。
もう何もない。
お金も、仕事も、何もない。
さっき、連絡先も全てかなぐり捨てた。
もう隕石は目の前だ。
2時間ほど前から、隕石群は太陽光を反射して、ちらちらと空に浮かんでいる。
既に何個かは落ちたという話も、嘘か誠かは知らないけれども、聞いている。
ネットニュースでは、国連軍の総力をつぎ込んだ核攻撃は、
隕石に命中したものの、隕石は何個かに分かれて、結局地球に落ちるらしい。
それでいい。
今更落ちないだなんて、許さない。
彼女と一緒に座っているだけで幸せだ。
このまま人生が終わってもいい。終わってほしい。
そう考えていると、ちらちらと光るうちの一つが急に大きくなり、
飛行機雲を描いて、轟音とともに少し遠くに落ちた。
いよいよ世界の終末がやってくる。
もう彼女以外、何も見えない。
彼女を抱き寄せ、二人して空を眺める。
彼女も私も、友人を気にして、話しかける事ですら憚られる間柄であった。
何か口実を作らないと、会えなかった。
でも、もう何も気にしなくていい。
こんなにも肯定的な「でも」は初めてだ。
ずっと言えなかった言葉を言う。
私自身ですら、どこかへ抑圧して無意識にうちにしまい込んでいた感情だ。
「好きだよ」
そう言うと、彼女もまた同じだという。
光がいよいよ大きくなってきた。
あちらこちらで轟音が鳴り響く。
たまに爆風もやってくる。
既に多くの地域で火事が起きて、ネットも数分前から不通だ。
いよいよ隕石がここにも降ってくる。
さっきまでちらりちらりと光っていた岩塊は、今や大きな影となる。
何の痛みも音もなく、全てが終わった。
あと1週間で世界が終わる時、貴方は何をしますか?【完結】 曽我二十六 @Soga26
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