2033年11月5日 - 最初にして最後のデート

寝ている間に彼女を抱き締めてしまっていたようだ。

悪いような良いような、何ともいえぬ心境である。

世界の終末に告白され、こうして同棲するとは思ってなかった。

気付けば手料理が出来上がっている。

数少ない冷蔵庫の食材で、よく出来たなという程の完成度である。

食料品店はもう休業し、恐らく二度と開かないだろう。

つまり、今日と明日で最後の晩餐になる訳だ。


折角だから、という誘いで、

外で人生初の「デート」をする事となった。

現実が受け止められないままのデートである。

何をすれば良いのか分からない。

素直に打ち明けると、ただ居るだけで良いのだという。

よく分からないが、それで満足するのならば別に良い。

減るものでもないし、繋いだ手からは温かみを感じる。

それが何ともいえぬ感触で、心地よい。


そうか、これが愛なのか。

他人に愛されて初めて人を愛する事ができる。

それはやはり本当だったのだろう。


昼、近くのまだ営業している店で買った食事を

昔馴染みの公園の一角で食べる。

他人と食べる食事をここまで美味しく感じたのは初めてだろう。


銀行で口座のお金を引き落とし、帰る途中のこと。

目を付けられていたのか、突如誘拐されてしまったのだった。

要求は何か、当然の如くカネ。

という事で有り金全てをあげると、強盗団にさえ驚かれながらも家路に就いた。


明日開いている店などそうそうないだろう。

つまり持っていても無駄なものだ。

それに拘る必要はない。


夜9時を回ったあたりのこと。

1つの布団でまた、就寝。

とても健康的で満たされた生活をしていると感じる。

最早無一文でも、世界の終末ともなれば、別にどうだっていい。

人生の最後に、ずっと欲しかった愛情が手に入ったのだから。

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