エピローグ
「これは……とんでもないな――っ⁉」
これまでとは次元の違う一撃を放った瞬間に呆然としていると、凄まじい脱力感を覚えて膝をつく。
いったい何が、と思って反射的にステータスを開くと、MPがほぼなくなっていた。
『あー、相棒にはまだ早かったかぁ』
「まだって言うか……」
そもそもレベルがカンストしているはずだからこれ以上は、と思っていると、あることに気がついた。
名前:イツキ=セカイ
LV:50
HP:530/530
MP:55/255
スキル:異界の扉、フレア、ブレス、デス、カース、ポイズン、軍神の剣
加護:アレス
加護:ヘラ
「★が消えてる? それに軍神の剣って……」
凄い威力だが、一発で200も持っていかれるスキルなど、正直使いどころがほとんど無いと思う。
とはいえ、いざというときの切り札として頭に入れておこう。
それより今気になるのは、レベルの方だ。
「なあアレス。レベルってわかるか?」
『レベル? 強さかなにかか?』
「いや、なんでもない……」
なんとなくそうじゃないかと思ったのだが、この異界の扉というスキルはこの神々ですら見えないものらしい。
――つまり、俺をこの世界に呼び出したのはこの世界の神じゃないってことか。
「……ふう」
『んでどうよ! 俺が付いてるなら魔王だって倒せると思わないか⁉』
「それは魔王の強さ次第だろ」
『大丈夫だって! イツキが俺の力をもっと引き出せるようになったら、魔王だって勝てるから!』
それだけ豪語するだけのことはある、とは思った。
とはいえ、やるべき事は変わらない。
この世界で生きていくと決めたときから、誰にも自由を邪魔させないと決意したのだから。
「いいよアレス。やってやる」
『おっ!』
「俺が、他の魔王を倒して世界を救ってやるよ」
『しゃぁ! 流石だぜ!』
アレスが喜ぶが、イツキからすれば選択肢のないのだから仕方が無い。
少なくともこの世界で生き延びるには力が必要のなのだから。
「そうしないと、今居る場所も無くなるんだから、仕方なくだ。その代わり、ちゃんと力を寄越せよ」
『任せとけ!』
そうして再び空間が歪んだと思うと、何故かまた同じ場所に。
ただし先ほどあったはずの、イツキの剣撃の後は消えていた。
「これは?」
アレスに問いかけるが、まるで反応がない。
「おいアレス?」
まさか夢だったんじゃないか?
そう思った瞬間、再び空間が歪みセレスティアたちが現れる。
「……みんな」
「その様子だと、全員同じ経験をしたのかしら?」
同じというのは神の話と世界崩壊の事だろう。
イツキが頷くと、ザナトスとシャーリーも同じように頷いた。
「そう……なら一度話し合う必要があるわね」
「そうなんだけど、俺の加護を与えた神――アレスが返事をしないんだ」
「イツキさん、神はあの空間から抜けたらもう話は出来ないって言ってましたよー?」
「え?」
セレスティアとザナトスも同意しているので、どうやら聞かなかったのは自分だけらしい。
なんとも適当な神だと思ったが、まあ良いだろう。
「とりあえず、一度戻ろう。どうやら得られた情報も多少のばらつきもあるようだからな」
「そうね。戻りながら、道中ですり合わせをしていきましょう。この話、すべての人に出来るものではないみたいだからね」
さすが大規模クランを率いるザナトスと、セレスティアは、今回の情報の危険性を把握しているだけあり冷静だ。
シャーリーも多少動揺しているが、それでもマシ、といったところか。
そうして四人は戻りながら、神の加護と滅び行く世界について話し合いながら地上を目指す。
イツキが聞けなかった情報として、どうやって他の世界に行くのか。
それはユグドラシルの力がもっとも発揮される満月の夜、迷宮とは異なる入り口から大樹の中に入ると飛べるらしい。
また神自身の本体は天界にあるらしく、ここまで加護を飛ばすのが精一杯であまり力になれないということ。
――そういうのは言えよ。
もしイツキ一人だったら詰んでいた状況に苛立つが、あの脳天気な戦神は笑顔でサムズアップする絵が頭に浮かんだ。
「さて、地上ね」
もう何度も通った見慣れた入り口。
どうやら外は昼間らしく、明るい光が漏れていた。
出ようと思ったそのとき、何故か前を歩いていたセレスティアが振り向き入り口の前に立ち塞がる。
「おい、なにしてんだ?」
「最後の確認よ」
そうして彼女は、他の三人を見渡す。
「この中で、世界を救うことに同意したのは誰? ああもちろん、私は同意したわ」
「は?」
そんなの、全員に決まっているだろうと、イツキは手を上げる。
だが、手を上げたのは自分だけだった。
「は? いやザナトス、シャーリー、お前たちなんで?」
「……」
「……」
「なるほど。まあ妥当なところね」
イツキには理解出来ないなにかを理解したセレスティアは、柔らかく微笑んだ。
そしてイツキを見ると、今度は獲物を前にした獣のように強く笑う。
「これから楽しくなりそうね」
「いや、まず事情を教えてくれよ」
そう言うと、察しが悪いなとセレスティアは呆れたようにため息を吐いた。
「あのね……もし私たち四人が失敗したら、本当の意味で世界が滅んでしまうでしょ」
「ああ」
「たった四人。それだけで世界の命運なんて賭けられるわけがないじゃない。しかも一発勝負なんて最悪よ」
それは、たしかにそうだと思った。
だが同時に、こうして迷宮を踏破しないと神の加護の力を解放出来ない以上、仕方ないのでは――。
「足りないなら、増やせば良いのよ」
「え?」
「この二人は、後任の育成を――」
その言葉で、ようやく二人が臆病風に吹かれたわけでないことに気がついた。
「そして私たち二人で、異世界の魔王を滅ぼしていく」
「つまり、二手に分かれるってことか」
「ええ。私たちが死んでも、最悪ザナトスとシャーリーがいればまだ世界を救う可能性を残すことが出来るでしょう」
目先のことばかりを考えていたイツキだが、彼女は未来のことまでしっかり見据えて行動していたらしい。
それはザナトスもシャーリーも同じだろう。
「まあ私は死にたくないので、お二人で頑張ってくださいねー」
「必ず、貴様らに追いつこう」
そんな対象的な事を言う二人に、イツキは自分の覚悟が甘かったことに気がつく。
「わかった」
「それじゃあ、道中でも話したとおり他の人間にはこの話は厳禁。私たちがいなくなるときは、迷宮のさらに奥を攻略しにいったということで――」
セレスティアの言葉に全員が頷き、イツキたちは外に出る。
一度解散し、イツキが自らの屋敷へと戻ると、四人のメイドたちが驚いた顔をした。
彼女たちは身体を震わせ、涙を流しながらゆっくりと近づいてくる。
「ただいま、みんな」
そう言った瞬間、一斉に抱きついてきた。
四人抱きしめられながら、温かさに触れて、イツキは思う。
――いつの間にか、俺はこんなにこの世界のことを……。
イツキは突然、たった一人で異世界に飛ばされた。
奴隷にされ、いつ死んでもおかしくないような場所で戦った。
そんな理不尽、許したくないと思った。
滅んでしまえと何度も考えた。
――だけど。
初めてこの世界にやってきたとき、自分の居場所などどこにもないと思っていた。
しかし今、こうして自らのことを大事だと言ってくれる人たちがいて、守りたいとも思った。
だから、たとえ相手が魔王であっても関係ない。
――俺と、俺の大切な人たちの自由を守ってみせる!
そんな決意を胸に宿し、大切な家族を抱きしめるのであった。
俺だけレベルが見える異世界英雄譚 Fin
――――――――――――
【お礼とあとがき】
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
楽しんで頂けたでしょうか?
俺たちの戦いはこれからエンドになってしまいましたが、自分のこと、そして読者様のことを考え、ここで終わるのが最善と判断して完結とさせて頂きました。
もし良ければ商業となっている作品含め、色々とありますので読んでみてください。
これからも頑張りますので、よろしくお願い致します。
平成オワリ
俺だけレベルが見える異世界英雄譚 平成オワリ @heisei007
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