第45話
45 エピローグ2
ホワイトチャペルの聖堂は、建物はそのままで、『ホワイトチャペル孤児院』と名を変え、ザアダが院長となった。
ホワイトスノー財団からは多額の寄付が贈られ、子供たちは学校にも通えるようになる。
またペドロは、子供たちのためにありとあらゆるオモチャをプレゼントしてきた。
トマス神父が守り続け、遺したこの場所は、娼婦と子供たちの笑顔あふれる空間となった。
そして今日はトニーの誕生日だったのだが、ペドロからプログラミング可能な腕時計型のセマァシーを贈られて大喜び。
ケーキやごちそうそっちのけで、さっそく腕にはめて熱心にいじっていた。
ロックとワットはその様子を、聖堂の入口から眺めている。
「これで、よかったんだよな」
「はい、よかったと思います」
「しっかし……ちぃとばかしショックだぜ……。
トマスだけは、そのへんのクソみてぇな大人とは違うって思ってたのによ……」
「でもトマスさんは、ロックを愛していたのだと思いますよ。
それこそ、実の子供のように」
「へっ、知ったふうなことを言うんじゃねぇよ」
「そう考えるようになったのは、ジェロムさんと愛人のアパートメントの一件からですね」
「あの時はおれたちふたりとも、セブンオーセブンの罠で殺される一歩手前だったじゃねぇか」
「はい。でも依頼主であるトマスさんは、ロックだけは殺さないようにと命じていたのでしょうね」
「なんでそんなことがわかるんだよ?」
「初歩的なことですよ。爆弾が爆発する前に、チャフの仕掛けられたクラッカーが破裂したでしょう?
わたくしたちふたりを始末するのであれば、あんなものは必要なくて、いきなり爆弾を爆発させればいいだけのことです。
でも、ご丁寧に爆発までのカウントダウンをしてくれたのは、逃げる猶予を与えてくれたに他なりません。
そして、セマァボーグであるわたくしはチャフで動けなくなっている……。
そう考えれば、あの爆弾はわたくしだけを狙ったものと言っていいでしょう」
ワットは一拍置いて、言葉をさらに紡ぐ。
「それに、もっと初歩的なことがあります」と。
「ロックには、あのチップが埋め込まれていません」
その指摘に「あ」と首筋を押えるロック。
「おれは、ガキの頃から神様なんか信じなかったからな。
この聖堂に祀ってるルミなんとかだって、クソくらえって言ってたくらいだし」
「たとえそうだったとしても、6歳の子供にチップを埋め込むくらいなら簡単です。
埋め込んだあとに、神を信じさせることも簡単だったでしょう。
でもトマス聖父はそれをしなかった。ということは……」
ロックはその言葉を断ち切るように、「やめようぜ」と背を向ける。
「テメェとこんな話したってしょうがねぇや。
それよりも、次の依頼はもうあるんだよな?」
「はい。ドストレート警部からなのですが、殺人事件です。
毒殺のようなのですが、PPCではお手上げということで、わたくしたちに……」
聖堂の入口にある階段を降り、雑踏のストリートへと出ていくロック。
その後ろには、主に従う執事のように、寄り添うワットの姿があった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そこは、星明りに照らされた場所。
天井も壁も、遮るものはなにもなく、ロンドンを一望できる高みにあった。
セマァ合金のテーブルには、黒い影のような英国紳士たちがずらりと並んでいる。
その者たちを統べるような位置に座っていたのは、ひときわ小さな影。
衣ずれどころか椅子の軋む音すらないその空間に、場違いなほどの無邪気な声が響いていた。
「へぇぇ、これがチップを埋め込んだ子たちを操るユニットなんだね!」
影たちが、静かに賛同する。
「はい。今回の事件の証拠品として、ホワイトキャップが押収いたしました。
しかし、このような回りくどいやり方をしなくとも……」
「ううん、これでいいんだよ。無理やり奪ったりなんかしたら、あの子たちに怪しまれちゃうからね!
でも証拠品として回収すれば、安全に手に入るでしょ!?
現にあの子たちは、このチップの大変さに気付いてないんだから!」
「チップを埋め込まれた人間は、このロンドンに200人ほどいるそうです」
「それが全部、僕の新しいコマになったってわけだね!
すぐに試してみたいけど、怪しまれちゃうといけないから、しばらくはガマンガマン!」
小さな影は、床に届かない脚をパタパタさせる。
「へへっ、先代の後始末なんて気が進まなかったけど、こんなオマケが付いてくるなら悪いことばりじゃないよね!」
「はい。先代たちの遺物である、『
トマスはそのひとりでしたが、派手な動きをしてくれたおかげで見つけることができました」
「えーっ、見つけたのはキミたちじゃなくて、あの子たちでしょ!?
あの子たちには感謝しなくちゃね!」
「でも、その片割れは死亡したようですが」
「ううん、生きてると思うよ! だって、お墓がふたつあったし!
あの子はきっと、死んだふりが得意なんじゃないかな!」
「あの者たちはいかがいたしましょう?」
「うーん、そうだなぁ……。
あっ、僕の新しい『雪ダルマ《スノーマン》』と勝負させてみるっていうのはどうかなぁ!?
ちょうどテストにもなるし! それに先代も、ずっとそうしてきたんでしょう!?」
「かしこまりました、ウイリアム様。
それではさっそく、『雪ダルマ』の1体をテスト稼働いたしましょう」
「あ、その呼び方はやめにしない?
ここにいる時は、あの名前で呼んでほしいな!」
影たちは、寸分違わずに声を揃えた。
「かしこまりました。モリアーティ様」
--------------------------------------------------
このお話は、これにて完結です!
面白かった! ロックとワットの活躍がもっと見たい! と思われた方は、感想などを頂けると嬉しいです!
好評なようであれば、続編を書くかもしれません!
それでは、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!
ギャングシャーロック ママごろし殺人事件 佐藤謙羊 @Humble_Sheep
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます