『ねえもしもし』


「おっ。もういいのか」


『ようやく戸籍できたわ。明日には帰れると思う。わが子は元気?』


「元気いっぱいだよ。今日も俺の作ったごはんを2回こぼして2回泣き叫んだ」


『うわあ見たかった。ぱぱひとりで大丈夫だった?』


「普段よりも楽だったよ」


『なにそれわたしが重荷みたいな』


「一人目がすくすく育とうというこの時期に二人目を要求するのはおかしい」


『いや普通でしょ』


「一人目の前で二人目を作ろうとするその倫理観がおかしい」


『いや普通でしょ』


「普通じゃねえよ。そんなだから死ぬ仕事を割り振られるんだ。道徳を学びなさい道徳を。いつまでも俺の腕に関節技極めようとするんじゃない」


『腕が気持ちいいくせに』


「早く戻ってこい」


『うん。早く戻って』


「二人目はしばらく無し」


『いやいやいやいや』


「思春期かおまえは」


『思春期よ』


 思春期だった。忘れてた。こいつ身体に穴空いた影響で一時的に若返ったんだった。


「思春期ならなおさらだめだな。犯罪だ」


『結婚してるのに?』


「だめなものはだめ」


『思春期のロマンスよ。これを逃すと取り戻せないのよ』


「取り戻せない代償なんてもんはないんだ」


 ない。

 あるけど。今日のこどもの暴れ狂う姿とか、そういう今しか見れないものはあるし取り戻せない。そういうのはある。

 でも。

 ないってことにしてしまう。


「まあ明日、料理つくってこどもと待ってるよ」


『うん』


 彼女のいない日々は。退屈だし。どうせならこどもと彼女のふたりでどったんばったん暴れてもらったほうが、育児の幸せも2倍になるだろ。たぶん。

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取り戻せない代償 2 あなたのいない日々 (短文詩作) 春嵐 @aiot3110

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