第2話 続・年齢詐称は然したる問題じゃない
あいつが帰ってきて、真実を話しパスポートを見せろ、と迫った翌日、娘と姿を消した。 僕も部屋を引き払った。 探れば居所が判明したろうが、追わなかった。
頭を冷やし、切り替えたくて、別の全く違う環境下の、携帯に電波も届かないってほどド田舎に、まんま言ってしまえば、逃げた。
電波が繋がると電話やメールが届くから(そして何度も連絡が来ていた)あの女のいる街に戻ってしまいそうで。 だから、その手の物から逃げたかった。
山の中に移り住んで、数少ないが職もそこで探して、以前同様に他人と関わらず。 することと云えば部屋で独り思いつく事象を思索すること。 それを文字にすること。 出来る限り理路整然と。
どう足掻いても、恨みつらみの泥ドロした思いしか浮かばないのだが、それでもこれ迄を想起し、これからを考えあぐねる種に成らないだろうか、と。
度々呼び起こしてしまうのは、無いことになってしまったが、いつか持つはずの家族。 二人でかの国に移り住む計画。 新たな祖国での新たな抱負。
どれもこれも彼女が彼女であったからこそ、僕に与えられた夢。
未だ棄てられない。 捨て去ることは、彼女に会う以前の自分に戻ることで、今迄が無に帰する。 そんな畏怖の念を抱いてしまって。
だから彼女に追い縋ってたし、この魅力からは逃げ出せなかった。 逃げ出すことに腰が引けてた、かな。
「会いたい。夫から逃げ出したい」と入った。 否、受信していなくて溜まった中の一つ。 目にしたのが最後、脳裏に焼き付いたのが、助けを求めたこの一文だった。
懐かしい番号を表示し、胸が高鳴る。
僕は通話ボタンを押してしまう。
「あなた……ダレ?」まどろっこい応答だ。
「僕と分かってるだろ。 傍に家族が居るのか?」
「……」
「メールを読んだ。 今から助けに行く。」
「いまから? 困る。 来ないで、来ないでください。 プッ_ツー ツー ツー ツー …………」
程なく彼女から、打ち立てホカホカのメールが届いた。
“助けてと言ったとき、あなたは来なかった。いま夫も怒ってた娘も落ちついた。いま家庭を大事にしたい思う。私いいとしになった。すぐおばあちゃんになる。あなたは、ほかの人をみつけてください。ぜったいに来ないでください。”
「約二年間ずっと騙してきて、これで納得しろと?」
声を聞いて、メールを読んで、思い出し胸が締めつけられるこの想いは、実年齢を知って今も変わらない。 婆さんになってもお前に変わりはない。 代わりもいないのに他を当たれだと!
たったコレっぽっちで収まるわけがなく、僕は多少、事を起こした。 それは何も良い方へは向かなかった。 だがしかし、それも過ぎ去ってしまえば単にイタい過去だ。
それ以降も僕は、山で隠遁生活を送っている。
学生の身で行きずりの女と同居し、怠惰で学校を辞め、
継母と折合いが悪く、これ迄も自ら敷居を高くしてきたが、それでも気分が良い時か心身が弱った折には、帰郷した生家だったのだが、全てを知って後今も怒り心頭の父の元にはもう、戻れない。
どこもかしこも『金の切れ目が縁の切れ目』って事だろう。 “血縁” より “一宿一飯の恩義” より “長い物には巻かれろ” ってもんだ。
総じて『万事塞翁が馬』そう思える様に成った。
今頃は彼女、還暦を迎える歳だろうか、と__。
しかし腰を落ちつければ此処も良いものだ。
流石に昨今は、こんな所まで電波はすんなり入ってくる。 そして今更ながら、
――下記のような女性を探しています。
容姿は麗しいに越したことはないですが、それなりの魅力をお持ちならば良し。
条件として特記しますのは、海外国籍 or トライリンガルで、今後海外移住も考慮する方。 手に職または特殊な免状をお持ちなら尚更に良し。
年齢詐称……
歳の差、年代幅は問いません!
この様な女性の方、
僕と新たな夢を
僕にとって、年齢詐称は
年齢詐称は然したる問題じゃない ももいろ珊瑚 @chanpai
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