第23話 西本願寺
ホテルを出ると一台のタクシーが、迎車のランプを灯して止まっていた。青年が呼びつけたものである。人形が乗り込むと運転手は驚きの声を上げた。小さくではあるが、低音で『おぉ』と声を上げた。口をぽかんと開けている運転手に、青年らは笑顔で会釈をした。二人は運転手の反応に、一切動じずに目的地を伝えた。
5分ほどで西本願寺前に着いた。北側からきたので反対車線で降ろしてもらい、珍しいものを見る目で運転手に見送られた。少し離れたところからは、幅は学校ほどにあろうか、外郭が横長に広がっている。外郭の手前には葉が球体上で覆われた木と、盆栽で見るようなかくかくと折れながら伸びる植木が並んでいた。
また、上の方からは本堂の建物の瓦部分が頭をのぞかせていた。なかでも
タクシーで移動している途中、大きな木造の建物が左手に見え
「おっきい敷地ですわね。名のある建物ではありませんか」
「あぁ、東本願寺だね」
といったやり取りがあった。歩道線を渡り、敷地の東北の角、
「西本願寺……なんだか、格がありますわね」
「金閣寺と銀閣寺に並んで飛雲閣が『京都三閣』って呼ばれてるね。もちろんそれだけじゃないけどね。中に入れば見られるけど」
「東本願寺にはどうしてよらなかったのですか?」
「あぁ、世界遺産を見に行きたいって言ってたから。東の方は登録されていないよ」
「まあ、あちらの方も格があるようにお見受けしましたが」
阿弥陀堂門の下で二人は立ち止まった。ずっしりとした重厚感が出迎えてくれた。
「同じ本願寺でも全く別物なんだ。宗教が違う。対立してるんだよ」
「あら、日本ではあまり聞かない話ですわね。宗教対立だなんて」
「まあ昔の話さ。江戸時代後半からは良好になっていったみたいだよ。今は地元の人から両寺とも親しまれてる」
「良いことですわ」
大規模な四脚門をくぐる途中、頭上に人間ほどはあろうか、金色の大きな鈴のようなものが垂れ下がっていた。
「随分と、広いのね」
「でかいな、これを400年前の人が作ったんだもんな~。恐ろしい」
青年は見事なものに触れた時、『恐ろしい』と言ってしまう癖がある。意匠の類はもっぱら、人の可能性と、費やした時間を指して恐ろしさが込み上げてくる。ポジティブな恐ろしさであった。
青年らはあたりを見渡した。踏めばいい音が鳴りそうな灰色の砂に、歩道が数本敷かれてあった。
少し進むと本堂がズラリと見えた。正面にある阿弥陀堂と御影堂は瓦屋根を青空いっぱいに広げていた。
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