第8話 プレゼント
旅行の計画によると人形のガイド役として青年がつき、二人きりで京都に行くこととなった。
一時間後に発車する新幹線で京都には16時ごろ着く。あとは一週間、人形が行きたいところに青年が連れていくという簡素なものだった。
「シンプルでしょう~、人形ちゃんの好きなように動いていいからね」
「かしこまりました。ありがとう」
「旅費は全額、ISEが落としてくれるから気前がいい。人形さんには目的ついでに楽しんでもらえればいいな。」
「恐れ入ります。お尋ねしてもよろしいですか?」
「……なんでしょうか」
このフレーズの言葉を聞くと青年は背筋を伸ばした。一週間前の紅茶事件のときも同じ文句で尋ねられたからだ。青年は目を見開き人形の言葉を待った。
「わたくしとあなた様はこれから旅をともにする仲。お友達のように読んでくださらないかしら?」
「ゑ?」
人形ちゃんは柔らかい笑みを浮かべて青年を見つめていた。青年は素っ頓狂な声を出した。
「あー、確かに堅苦しいままじゃ旅行も楽しめませんよね」
「いえ。あなた様ともっとお近づきになりたいと存じております。」
横から勢いよく
「敬語じゃなくてフラットに話せってことね!試しに人形ちゃんって呼んでみたら?」
と同僚女性はにやつきながらうながした。
「はい。人形ちゃんとお呼びになってもらって結構でしてよ」
「なんだか格式ばった流れだな。でもそうだな、人形ちゃん、これから見たいものを見に行くよ!」
人形は満足そうに顔をちょっぴり傾けて笑った。
「そうだちょっとごめんねぇ。人形ちゃん、これから旅行に行っていろいろ見て回ると思うんだけど、それはたくさんの人と出会うってことでもあるって話はしたよね?だから外にいる時は人形ちゃんだと目立つからほかの呼び方で呼ばせてほしいんだけど、いい名前思いついた?」
「ごめんあそばせ。どうにも思いつかないわ。わたくしは人形ですもの。」
「オッケーオッケー、こちらで用意してきた名前があるわ!」
そういうと同僚女性はホワイトボードに何個か名前を書いた。つらつらと名前の意味を言いながら候補が4つ上がった。
「どうかな~人形ちゃん」
「さようでございますか……あなた様はどうお思いですの?」
「そうだな、
「おっしゃる通りだわ」
「うんうん。私もいい名前だと思うわ!それじゃ決まり。よろしくねエマちゃん!」
「その呼び方は外にいる間だけですわ。わたくしは人形ですもの」
こうして人形は『エマ』の名前をもらった。
「そうだ、僕も名前を教えないとだな」
「いえ。あなた様のお名前はあとでお尋ねします。」
「ゑ?」
青年はまたしても面食らったように固まった。今回は同僚女性も驚いたようで目を丸くしていた。
「え~と、名前知りたくない?」
「しかるべき場所でお尋ねします」
「そうか」
青年は人形に対して不満そうに目とまゆを下がらせた。
「ではでは気を取り直して。最後に、人形ちゃんにプレゼントがあります~」
同僚女性はそういうとそばにあるカバンの中から茶色の紙袋を取り出した。袋の中には大きさが違う長方形の箱が3つ入っていた。箱を開けると花嫁がつけるようなロンググローブ、細いチョーカー、スマートフォンが入っていた。
「今のままだと関節がむき出しでびっくりする人がほとんどだからさ、あと連絡取れるようにこれ、スマートフォン」
同僚女性はそういうなり人形を立たせ、グローブとチョーカーをつけた。2つとも黒色でグローブは伸縮性のサテン。肘上までの長さがある。端の方は花のようにみえるダマスク柄になっていた。花柄のレースチョーカーは縦幅2cmほどで首の接合部にピッタリかぶさる大きさだった。
「……きれいだな」
「そうでしょう~、人形ちゃんに似合うようなもの探したんだから」
「それにしても、やっぱり派手すぎないか?この格好」
「人形ちゃんはこのドレスじゃないと嫌だそうよ」
「う~ん、これなら外で人形ちゃん呼びでも、周りからはコスプレイヤーか何かに思ってくれるんじゃないか」
「まあまあもう決まった話!それにしてもかわいいわぁ!!人形ちゃん、一度笑って見せて!」
人形は少し困惑したように引きつり笑いを作った。
頭頂部から前方以外をつつむ黒い無地のマリアベール。チョーカーは首の付け根からぐるっと巻かれている。
無地のワンピースドレスの上半身は体のラインに沿うようになっている。ベルトリボンがおなかに巻かれ、左の脇腹に蝶結びがの結び目がきている。
リボンの下からひざ下のなかほどにかけて、緩やかに広がるようデザインされていた。レトロブーツはひざ下までの長さがあり、ひもでしめる作りになっている。
白い肌は顔、首周り、二の腕からしかのぞけなくになった。
人形らしい部分がなくなってみると、青年らには現代に生まれた変わった聖母マリア様のようにみえた。
しかし、実際はイエスを産むことはなく、別の目的を持つ聖母であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます