第7話 害悪プレイヤーとの出会い
ゲーム開始から1週間がすぎたある日。
カイトはいつも通り、【はじまりの街】から近くの草原エリアで手頃なモンスターを倒しながら、レベル上げに励んでいた。
すると、近くから不穏な言葉が聞こえてきた。
「あー? なんだこのゲームは〜! クソゲーじゃねえか‼︎」
振り返ると、1人のプレイヤーが悪態をついていた。
持っていた剣を放り出し、蹴り上げている。
明らかにゲームを真っ当に楽しんでいるようには見えない様子だ。
それを見たカイトはもやっと嫌な気分が芽生えた。
小さい頃から人が揉め事を起こしているのは、見ることさえも嫌で、ずっと避けてきた。
道端でタバコのポイ捨てを注意しているだけの、大したことがない言い争いでも、その場には人が嫌な気分になるような非常に不穏な空気が流れる。
その時いくら楽しい気分でも、その空気に少し触れただけでその気持ちをマイナスに落とされてしまう。
だからカイトは現実でそのような場面を見かけたり、ネットの掲示板や動画サイトで人の悪口を言っているコメントを見たりすると、すぐに目をそらすようにしていた。
それで幸せになる人なんて1人もいないし、何よりそういった出来事に耐性がなかった。
そんな社会で一番嫌な出来事に、まさに目の前で出くわしてしまった気分だ。
突然、大声で悪口を言い放ったそのプレイヤーの近くには、同じパーティーなのだろうか、友達なのだろうか、3人のプレイヤーがいて、同じように悪態をついている。
「そうだそうだ! なんだこのゲームはよぉ! 全然楽しくねえじゃねえかよ!」
そう言って、同じように武器を投げ捨てている。
見た感じ、最初に叫んだ人の取り巻きのように見える。
その周りには、行き交っていたプレイヤーたちがおり、その悪口を放つプレイヤーに触れないように、目をそらし、そそくさと通り過ぎようとしていた。
明らかに聞こえているが、聞こえないふりをしている。
日本人の典型的なトラブルは見てみぬフリで通そうとする様子だ。
その一言で、今までゲームを楽しんでいた空間が、一気に気まずい雰囲気になった。
動画投稿サイトのコメント欄が応援やポジティブなコメントで溢れている中、
急に「死ね」とか「嫌い」とかのネガティブコメントを見てしまった時のような空気の変わりようだ。
ああ、この空気嫌だなあ、と思い、この人の声が聞こえないところへバレないうちに逃げようとカイトは思った。
せっかく楽しい空間だったのに、たったの一言でカイトは気分を害された気持ちになったのだ。
しかし、カイトにとってこのゲームは自分の家族が作ったゲームだ。
このゲームが好きでプレイしている人よりも、感じるものが違う。
でもカイトはトラブルをとにかく避けることを優先したかった。
「何日も前からずっと運営に不具合が出るって文句を言い続けてんのによ! 運営は全然改善しようともしねえじゃねえか!
とんだクソ運営だよ、このゲームはよ! 何が世界初のVRMMORPGだよ! なあ、お前らそう思うだろ?」
「「そうだそうだ!」」
取り巻きのプレイヤーが同意する。
明らかに周りの善良なプレイヤーにまで聞こえるように、叫んでいる。むしろ演説をしているようだ。
一体何が目的なのだろうか。アンチを増やしたいのだろうか。
「開発者はこんなクソゲー作ってもなんとも思わねえのかねえ? ああ、もうこの世にいないんだっけか。そりゃもうこのゲームも下火だわなあ」
そろそろと逃げようとしていた、カイトの肩がピクリと反応した。
こいつ、父のことを馬鹿にしやがった。
しかもこいつ。人の死をなんだと思ってやがるんだ。
温厚な父をばかにされたカイトは流石にカチンときた。気づいたら叫んでいた。
「おい! やめろよ……」
すると、すぐにすごい剣幕と大声でリーダー格の男が怒鳴り返してきた。
「ああん? なんだテメエ、文句あんのか‼︎」
その勢いにカイトはびっくりし、声を窄めた。
「い、いや、なんでもないです……」
「ならいい。まあこんなもんでいいだろう! お前ら行くぞ!」
「へい! リーダー!」
リーダーと呼ばれた男は、取り巻きの太った男たちを連れ、その場を後にした。
カイトは、勢いに負けて押し黙ったことをひどく後悔していた。
自分が偉大だと思っていた父のことをバカにされ、すごくショックを受けた。
そして言い返したいが、言い返せなかった自分が悔しい。
そのまま、すぐにログアウトし、寝室に戻った。
ベッドに寝転がりながら、額に腕を持ってきて、目を覆う。
「海人! ご飯よー!」
母さんに呼ばれるが、いつもなら返事するところを無視した。
段々と怒りが込み上げてきて、次の瞬間、うつ伏せになって枕をつかみ、力一杯引きちぎろうとした。
「んんんんんんん‼︎」
怒りの感情のまま、枕に向かって「あああああああ‼︎」と叫び、このストレスを布団にぶつけた。
自分の父をクソと言い放ったあの男のことを思い出し、ムカつくという気持ちもある。しかし、それよりも自分の情けなさに腹が立った。
あいつは父が死んだことすらも笑った。これ以上の侮辱はない。
肉親をそこまで言われたのに対し、睨まれて怒鳴り返されただけで、萎縮してしまうなんて。
カイトは自分は今まで争うような経験がないだけで、いざそういう場面になったらやる男だと思い込んでいた。
しかし、その根拠のない自信は崩れ去った。
「んんんんんんん‼︎ んんん……えっぐ……ひっぐ……」
怒りを超えて、情けなさすぎて涙が出てきた。
顔をあげると大粒の涙がこぼれ落ち、不甲斐ない自分を責め続けたい気持ちに襲われる。
「あああああああああああ‼︎」
枕に顔を押し付け、枕が破れるんじゃないかと言う暗い、いっそう強い力で枕の端を握りしめ、一晩中濡らし続けた。
デイ・ブレイク・オンライン 〜VRゲーム開発者の父が残した宝を手に入れるため、俺が一番にクリアする〜 @1336maeno
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