第2話 続・見限られたんじゃない


 二人で合うようになって半年くらいしてだったかな。


 誰もいないからって彼女の家に連れていかれて、成るようになって――

 以降は彼女から電話あれば、呼ばれて俺が行くってカタチ。


 彼女の家だったり、出た先で待ってるのを拾ってそのまま家に直行したり基本、二人で居るのは彼女の家だった。

 夜遅く呼び出されても迷わずそこへ駆けつけた。


 全く嫌じゃなかったよ。



 俺の部屋に一緒に来たのは一度きりさ。


 デイリーマンションで壁も薄いし、ユニットバスだしさ。

 気が削げるってことで一回コッキリになったワケで、別に俺がケチって決めたことじゃない。


 勿体無いって言うんだよ。


 デート代は男の俺持ちだから、あなたが他所で金落とすのは勿体無い。

 外で人目を気にしてちゃ、折角ふたりでいるのに時間が勿体無い、とそう言うの。



 しょっちゅう家に顔出してれば、自ずと家族とも顔を合わせる。


 交際相手と紹介される、泊まって貰った、と。

 何を詮索するでも無く、朝食が用意され、何事もなく同席して食べる。


 一人いる妹とも仲良くなった。

 親父さんにも『娘のことを宜しく頼むよ』なんて言われたりする。


 俺も真面目な顔して『はい』と答えたもんさ……。



 期待して無かったって言えば嘘になるだろうな。


 後になって考えれば、何を宜しく頼まれたのか、悟れない俺が馬鹿だ。

 世間知らずとかピュアだったとか、そんなの関係無く。



そんなこんなで一年ほどしてからかな。


「お見合いをしたの。」


 しがみついて泣き泣き彼女が言った。

 親父さんからの言いつけで仕方なく、と、だから許して、と。


 俺は納得いく答えを得るまで5W1Hを問い続けた、詰問した、弾劾した、が腹が収まる訳がなく。

 連絡をとらない日々が続く。


 彼女とのこれ迄を、一人の男として考えた。

 彼女とは、自分とは、それからあの親父のことも。


 少なくとも娘を思う親父に責められる理由はない。

 あの言動は、この年齢なら判ってくれるだろう、娘が連れてきた男なら当然のこと、そう考え、頼る意味での言葉掛けをしたに過ぎない。


 だって大学中退で水商売してる。


 だって親もなく財産もなく住む家すら用意出来ない。



 二ヶ月して連絡をいれて、会った決別の日。

 赤いAudiから降りた彼女は、よく似合うって、前に俺が褒めてやった服を着ていた。


 どこか店に入ろうとの誘いを固辞して動く様子のない俺の手に、彼女はスっと何かを握らせようとする。


 金か? と思った。

 はらい落としたら、それは御守りだった。


「あなたがいつか復学すると決めた時に。その時これを持ってて欲しい。他は受け取ってくれないでしょ?」


「おぅ……今日で俺のことは忘れろ。」




 私たち結婚するんだから、って

 デートして帰り際に、スっとお小遣いを渡す or 財布に入れてくれてあったりした。


 私の物はあなたのもの、的な発想の。

 彼女特有の気遣いだった。


 大学辞めて今の仕事が生業になってた身には正直、有り難かったし、今でも感謝してるよ。



 あの時は敢えて言わなかったけど……


 俺のこと想っていてくれたって、


 分かってるって、


 ありがとな、って。





 なっ俺は、見限られたんじゃない!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

見限られたんじゃない ももいろ珊瑚 @chanpai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ