卒業

【3月 】

 桜が舞う、お花見日和の今日この頃。

 僕たちの卒業式が行われた。

 僕は学校に行くことが出来ず、ベッドの上で過ごしていたけれど。


 後から先生に聞いた話によると、彼女は僕の代わりに卒業証書を貰い、1人2役をこなしたらしい。僕なんかの為に、そんな事しなくてもいいんだよって言ったのに。


 彼女は卒業式が終わると直ぐに、僕の元へ走って来てくれた。

「卒業おめでとう!」

 笑顔いっぱいの彼女は僕に、卒業証書と花束を渡した。そんな彼女の姿は本当に、世界一美しかった。

 僕は死を恐れている不安を、彼女に伝わってほしくなかったから、バレないように、頑張って笑顔を繕った。

 彼女は卒業した事を本当に嬉しそうに噛み締めていた。


「写真、撮ろうよ。」

 僕がそう言うと、彼女は更に笑顔になった。

「よぉ〜し、じゃんじゃん撮るよ?!覚悟してね〜!」

 彼女はそう言った。

 彼女と過ごしているうちに、僕も元気になって、「よし!」とその気になって写真を撮った。


 パシャッ パシャッ

 シャッター音が鳴る。


 少し経った時、彼女はこう言った。

「そうだ!せっかく綺麗に桜が咲いているんだから、外に出て桜の木の下へ行こうよ??」

 僕はそれを聞いてワクワクした。


 あ、、、。

 ふと我に返った。

「そう言えば、看護師さんに外出は禁止ですって言われたばっかりなんだよね、、。」

 僕はそう言った。

 彼女は直ぐに、あ、、。と少し悲しい顔を見せたが、「ちょっとだけ。少しの時間、2人で約束破っちゃおう、看護師さんに何か言われたら私、全部私のせいですっていうからさ。ね、少しだけだよ、だって私たち卒業したんだよっ卒業記念日だよっ !」

 そう言う彼女の目はいつも以上にキラキラしていた。輝いていた。まるで、夢と希望を持つ

 何の不安も抱かなかった幼稚園児の頃のように。

 そんな彼女の姿を見たら、YESしか答えが出ないんだよ。


 僕は、「少しだけだぞ。ほら、行くよ !」

 と外に向かう。

「待ってよ〜!!」

 そう言って彼女は直ぐに僕に追いついて、車椅子を押してくれた。


 彼女と過ごす時間は本当に特別で、幸せで、キラキラしてて…

 あぁ、このまま死んでも後悔しないな。そう思う程だった。

 そうして過ごしていくうちに、僕の人生は終わりに近づいていった。



 *



 【4月】

 僕は最後までアホだった。

 神様から、僕は必然的に1年で死ぬって言われたもんだから、すっかり心臓停止とか、過呼吸になるとか、そういう死に方をするのかなって思ってた。勝手に。

 だけど、全然違かった。

 ベッドの上で寝てた僕はすげぇトイレに行きたくなって車椅子に移ろうとした時、体重移動に失敗して頭を激しく打ったのだ。


 ──緊急手術。


 意識が朦朧とする。

 あぁ、これが最後だなって自分でも分かった。

「彼女は僕からも卒業だね。」

 そう思った時、僕はこの世を去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る