幸せになったよ。だからもう、安心してね。

出会い

 私は高校3年生。

 出席番号順で並べられた机と椅子は真新しかった。

 隣の席に座る男子は、新学期が始まった時から私には話しかけてくれた。

 それが、彼との出逢いだった。彼との会話の内容はと言うと…


 彼「シャーペン貸して〜」

 私「…」

 彼「ありがとう !」

 ───

 彼「おはよぉ〜」

 私「…」

 彼「今日も素っ気ないなぁ〜笑」


 こんな感じだった。

 これを、会話と言って良いのだろうか。

 私は話す人がいないから、彼が話しかけてくれるだけで、本当に嬉しかった。私は話さないのに、話せないのに…。彼が毎日私を気にかけてくれるその優しさに、私は彼に少しずつ惚れていった。彼には何故かどこかで感じたことのある温かみがあり、この人になら話せそうだな。そんな事を思わせる程だった。


 そしてある日の放課後、彼が私に一緒に帰らない?と言ってきたその日、彼は私に告白した。


 彼と一緒に居るのは楽しいし、学校が少しでも楽しい世界になればいいな…と思い、了承した。

 私は気がついた時には、彼に心を許しきっていて…。何時いつしか、彼には『声』が届くようになった。私にとって彼は本当に優しくて本当に信頼出来る存在。


 初めは少し気になってる時に告白されたから付き合ったという軽い気持ちでいた私だが──

 彼と過ごしていくうちに、気がつけば大好きになっていった。


 *


 ───夏休みには、2人で海へ出かけた。

 ショッピングモールや遊園地。

 高校生カップルのデートの定番って所には行き尽くした。

 私のカメラロールにも、彼のカメラロールにも沢山の思い出が詰まっていった。

 ───彼のカメラロールの方が私のよりも多く見えたな…。


 それからというもの毎日が本当に楽しくてこの時間が、ずっとずっと、続くと思ってた。


 *


 【冬の日───。】

 それは冬の日。とても寒い日だった。

 その日私は彼と遊んだ。


 その帰り、彼が交通事故にあった。


 交通事故にあったと聞いた私は急いで彼の元へ走った。

 医者からは命に別状はないと言われたが、彼はもう、自分の力で上手く体を動かすことが出来なくなってしまった。


 その日から彼の車椅子生活が始まった。

 彼は何度も、私にこう言った。

「本当に僕で良いのか。

 車椅子の僕が、彼氏でいいのか。」

 と。

 私の身の回りには車椅子の人が居なかった為、どう接したらいいのか分からないことだらけで正直不安だった。

 普通のカップルよりも出来ることが少ない。一緒に歩くことも、もう海で泳ぐことだって出来ない。

 だけど私は彼を世界一愛しているという自信だけはあった。だからずっとずっと、彼のそばに居るって決めた。

 学校が終わったらすぐ病院へ行き、彼と会う毎日。前までは彼から話しかけてくれていたのにいつしか、私が彼に話しかける…というように立場が逆になっている事に気がついた。

 でも、それでも私は彼と会う事が唯一無二のかけがえのない時間で───本当に幸せだった。


 *


 【彼の事故が起こってから3ヶ月後】

 ───それは桜が咲き誇り、葉桜が目に鮮やかに入ってくる季節の時だった。


 4月。

 彼はベッドから車椅子に移ろうとした時、上手く移動する事が出来ず転落し、頭を強打しこの世を去った。私たちが付き合って、丁度1年が経とうとしていた時だった。

 付き合った頃は、何も深く考えることが無かったのに───。

 大好きになってしまったから、大好きだから、愛してしまったから・・・。


 ───私が唯一心を許しきった存在。頼り甲斐があってこんなにも腐ってた私の心を優しさで包み込んでくれた存在。『声』を失った私を変えてくれた存在。夏に遊んだ時の幻想的な光景が、素敵な情景が、昨日の出来事のように思える。そんな彼がこの世にもういないなんて、いなくなってしまったなんて・・・。考えられなかった。考えたくなかった。


 色んな思いが私の胸を締め付けた。

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