8.自由の暁
1.
案内されたのは岬から少し離れた森の中だった。
木々や岩場によって隠されるように、小さな集落があった。入ってすぐのところに畑があり、小さな家が数軒建てられている。動物避けとして設置されている簡易な門を潜れば、襤褸布を纏った『彼』に向かってワッと人々が集まってきた。
「ハカセお帰りなさい! 見てよこの立派な野菜、やっと収穫できたのよ!」
「こっちも見てくれよハカセ! 朝から大漁だったんだぜ!」
「お帰りハカセ!」
「おかえりなさい!」
あっという間に人々に取り囲まれ、『彼』は「あぁ」だの「そうか」だのと簡単に返事を返していく。が、すぐに溜め息を吐いて声を張り上げた。
「あぁっもう、お前ら一旦散れ! 客人がビビるだろうが! 後で相手してやるから!」
『彼』が怒鳴れば人々は笑いながらも散っていった。
そんな『彼』のすぐ後ろを歩いていたミスティルとレオウは、お互いに顔を見合わせる。こんなところに集落があることだけでも驚きであったというのに、『彼』の慕われ具合は一体どういうことか。
こっそりと、レオウはミスティルへ耳打ちする。
「悪い者たちではなさそうですが、少しだけ警戒しておきましょう。ここの者たちは、余所者を入れはしても歓迎まではしてくれないようです」
「え、えぇ……さっきから誰一人、目を合わせてくれないものね……」
事実、『彼』のすぐ後ろにいるというのに、集落の人々はミスティルとレオウには声をかけるどころかこちらを見ようとすらしなかった。そもそもこの集落は人目につかないように入り口が隠されていたことを考えると、他の村や街との交流を必要としていない、かなり閉鎖的な集落なのだろう。
そんな集落の中を『彼』は慣れた様子で進み、少し奥まったところに建てられている家の扉へと手をかける。
と、ふいに振り返った。
「あぁそうだ。先に言っておくが、『俺』に演出だの雰囲気だのを求めるなよ。そういうのが一番面倒臭い」
「え?」
どういうことか、とミスティルが問いかける前に、扉が内側から開いた。
扉を開けたのは子供だった。灰色の髪に、青灰色の瞳をもつ少年だ。年はクーストースよりは上で、フォーゲルよりは下、といったところか。
一目見てミスティルは、あ、と声を上げそうになった。何故だかその顔に、よく知っている面影を見つけたからだ。
そうしている間に少年はこちらには気付かないままに、目の前の『彼』へと怒った表情を見せる。
「ちょっとハカセ! 昼前には帰ってきて、って言ったじゃないか! フォーゲルのためにもちゃんとご飯は食べなきゃ……って、あれ?」
言葉は途中で失速した。『彼』の後ろにいるミスティルとレオウに気付いたようだ。
『彼』は簡単に二人の紹介を口にする。
「レーヴェ、こいつらはフォーゲルの客だ。女の方がゼーレの姫さんで、男の方がその従者。ついでに言うと、こいつがお前の実の父親のレオウ・レントゥス」
それだけを言って、『彼』はさっさと家の中へと入ってしまう。
ミスティルは慌てて隣にいるレオウを見上げた。
「……レーヴェ、なのか……?」
驚きから復帰できない様子のレオウが、なんとか声を発する。
それは少年も同じだった。目を見開き、レオウと同じように声を絞り出した。
「ボクの、父さん……?」
×××
レオウの一人息子は昔、生まれて間もない頃に強盗に襲われて行方がわからなくなってしまっている――という話は、ミスティルも聞いたことがあった。
まだゼーレ国が栄えていた頃の話だ。レオウの妻、ロサ・フラーメンは強盗に襲われた際の傷で亡くなったのだが、直前に「あの子は大丈夫」と遺言を残したという。当時のレオウはその言葉を信じて方々を捜索し続けたそうだが、見つけることは叶わず、やがて捜索は打ち切られてしまった。
その息子の名が、レーヴェ・レントゥスなのだった。
「お茶しか出せなくてごめんなさい、その、お客さんなんてめったに来たことがなかったから……」
少年、レーヴェは、慌てながらも人数分の茶を用意してくれた。
外観もそうだったが内装もかなり質素な家のようだ。一人で住むには少し大きいようにも思えるのだが、使い込まれた様子の家具や道具、それらをテキパキと慣れた様子で使いこなす様子を観察するに、レーヴェはずっとここに住んでいるのか。
そもそも、この集落は一体なんなのか。どうして『彼』はここへと二人を導いたのか。
――聞きたいことがありすぎる、と、ミスティルは出されたお茶を有り難く頂きながらも頭を悩ます。
「あの、木の実で作ったお菓子ならあるんですけど、た、食べますか……?」
「え、あ、あぁその、お構いなく! 突然の訪問になっちゃったのだし、気を遣わなくて大丈夫よ! ね、レオウ」
隣に座るレオウへと話を振るが、レオウは戸惑った様子でただ頷くだけだった。
どうやらかなり動揺しているようだ。ずっと行方不明であった息子に対して掛けるべき言葉がうまく浮かばない様子で、こんなに混乱している我が従者を、主であるミスティルは初めて見る。
しかしそれはレーヴェも同じ心境のようだ。オロオロと視線を巡らせ、「ぼ、ボク、ハカセを呼んできますねっ」と心なしか駆け足でパタパタと奥の部屋へと行ってしまった。
その間にミスティルはレオウの様子を見る。レーヴェの姿が見えなくなった途端に深呼吸とも溜め息ともいえるような曖昧な呼吸を一拍、少し肩を落としてレオウは頭を下げる。
「……申し訳ありません。私がしっかりしなければいけないところを……」
「大丈夫よレオウ、心中察するわ。私、席を外した方が良い?」
「いえ、我々の目的を果たす方が先決でしょう。それに、その……あの子に、なんと話せばいいか、まだ何も言葉が浮かびませぬ故」
「そ、そう、わかった。あの様子じゃぁ、レーヴェ君としても別の話題の方が良さそうだものね」
そんな会話をこそこそと交わした直後、唐突に『彼』が奥の部屋から出て来る。そして立ち止まらずに玄関口へと向かうと、扉を開ける直前にこちらを振り返った。
「姫さん達よ。『俺』は外の奴らを相手をしなくちゃいけねぇから、話はレーヴェからさせる」
「え、ちょ、ちょっと」
「ハカセ?! ちょっと待ってよ!」
慌てて立ち上がったミスティルと、同じく慌てた様子で追いかけてきたレーヴェの声が被る。
が、構わずに『彼』は扉を開いた。
ミスティルがいる場所から僅かに外の様子が見えた。扉の外にはこの集落の住民達であろう人々が、一様に不安そうな表情を浮かべて集まってきている。
『彼』は彼らを見て、呆れた様に溜め息を吐き。そして外へと出て扉を閉めてしまった。
後に残されてしまったレーヴェが落胆して肩を落とす。それから申し訳なさそうに、二人を振り返った。
「ごめんなさい……ハカセ、外の皆を落ち着かせてくるって……」
「だ、大丈夫よ私たちのことは気にしないで! え、えーと、とりあえず、いろいろ聞きたいことがあるの。貴方のわかる範囲でいいから教えてくれないかしら」
ここでレーヴェまで塞ぎ込んでしまうといよいよミスティルの手には負えない事態になっていたところだが、レーヴェはなんとか気持ちを切り替えてくれたようだ。緊張によって多少顔が強ばってはいるものの、レーヴェは姿勢を正してテーブルを挟んだ対面の席に着いてくれた。
そうしてようやくミスティルはここへと至った経緯をレーヴェへと説明することができた。元はゼーレ国跡地で起きた事件の調査として来ていたこと、その調査の一環として跡地周辺を調べるという名目であの砂浜へと向かい、そしてフォーゲルと……否、『彼』と再会したということを。
話している間にレーヴェも随分落ち着きを取り戻したようで、一つずつ頷きながら話を飲み込んでいく。
「……それじゃぁ、お二人は偶然ハカセに会うことができて、事件の詳細が知りたければついて来いと言われるままに、この集落に来た、と」
「ええ。でも、先に集落に入ってもいいか誰かに尋ねるべきだったわね。ここの人たちを不安にさせてしまったようだし」
「そのことについては気にしないでください。元々この集落にいる皆はそれぞれ諸事情を抱えている人ばかりなので、余所の人にはどうしても警戒しちゃうんです。今頃ハカセがちゃんと皆に説明して回っていると思うし……それに、今は少し、時期が悪いというか……」
少し言葉を濁しながらも、レーヴェは表情を引き締めた。
彼には気になる部分があったようだ。思案するように口元へと手をやった後、レーヴェは顔を上げる。
「お二人は、本当に偶然、何の意図も無しにハカセに再会したとお考えなんですか?」
「え? え、えぇ……私が唐突に、砂浜が見てみたいと、思い付いて……」
「本当にそれだけですか? 例えば、何度も砂浜を訪れる夢を見たから、だということはないですか」
レーヴェの言葉に、思わずミスティルは息を呑んだ。
確かに夢は何度も見ていた。見たことも無いはずの砂浜にいて、そこにいる『彼』を見る夢だ。
その見たことが無かったはずの砂浜は実在しており、そして夢の通りに『彼』がそこにいた。確かに思い返してみれば、これは本当に「偶然の再会」だったのだろうか。
と、黙り込んでしまったミスティルに、レオウが声をかける。
「御嬢も夢を……?」
「え、レオウも何か夢を見ていたの?!」
「私は砂浜ではなく、ゼーレ国跡地の風景ではありましたが……あの廃墟に、あやつが立っている夢です。まさか御嬢も似たような夢を見ていたとは」
あやつ、というのは言わずもがなフォーゲルのことだろう。否、正しくは、フォーゲルの姿をした『彼』だったのかもしれないが。
そういえば昨日、ゼーレ国跡地に到着した際に、廃墟を眺めていたレオウが少し残念そうに肩を落としていたのをにわかに思い出す。あれは、夢に見た光景に目的の人物がいなかった為の落胆だったのか。
「どうやらお二人は、エテルニアに引き寄せられたみたいですね」
レーヴェは言う。
その表情はどこか深刻であり。更に思案をした後、レーヴェは話を切り出す。
「お二人の様子を窺うに、エテルニアの特性についてちゃんと全てを理解しているわけではなさそうですね。だったら、そうですね……ミスティルさんは、エテルニアという石がどこから来たか、知ってますか?」
唐突な質問だった。
それはむしろミスティルが聞きたい内容でもある。面食らって答えられないミスティルに、レーヴェは答えを待たずに続けて口を開く。
「エテルニアは空からやってきました。すごい勢いで落ちてきて、地面に大きな穴を作ったそうです。それから更に年月が経って、落ちてきたエテルニアの表面を土が覆い被さって隠れた頃に、一つの国ができました」
「……それは、もしかして」
「はい。ゼーレ国――ボクらの故郷です。ゼーレ国の地形は、空から振ってきたエテルニアによって形成されたものなんです」
ゼーレ国跡地の風景を思い出す。
エテルニアで形成されていた空洞と、その大きさ。
それに国をぐるりと囲むようにそびえ立っている崖。あれらは空から落ちてきたエテルニアが地面を抉った際に隆起した崖なのだとすれば。
国の真下に巨大な空洞があり、そこにエテルニアの塊があったとしても、確かに不思議では無い。
「エテルニアは元来、周りにある生命力を少しずつ吸い取ってはそれを結晶化し、数を増やしていくという性質があったそうです。その影響を一番受けやすいのは植物で、エテルニアの近くにある植物は活性化して繁殖していくのですが、エテルニアから一定距離を離れてしまうと生命力だけを吸われてしまい枯れていくのだとか……お二人は昨日、ゼーレ国の跡地を見てきたんですよね。あの廃墟を覆い被さっていた植物が良い例だと思います」
確かに、廃墟を覆い尽くすあの植物の繁栄具合は、見るからに異常であった。
それにミスティルとレオウには他にも心当たりがある。クーストースの屋敷だ。あの少年の屋敷も、事件当時は外の壁が見えないほどに青々とした植物が取り囲んでいた。そして、その代わりに村周辺の木々も枯れていたのも見ている。あれもエテルニアの影響が強く現れた結果の現象だったのか。
レーヴェはさらに言葉を続ける。
「本来であれば、エテルニアは植物に依存することによって周りの自然環境に溶け込み、この大地の一部となっていく予定でした……人という存在に出会ってしまうまでは」
実りある大地を求めた人々が辿り着いたのは、後にゼーレ国となる彼の地だった。
植物が育ちやすい豊かな土壌と、そこで見つけた青く輝く鉱石。それらに価値を見出し、その地に国を築き上げたのが、ゼーレ国の初代王とその仲間である。彼らは土地を開墾し、文明を作り、歴史を重ね。そして青く輝く鉱石に『エテルニア』という名をつけた。
その一方で、空から落ちてきたエテルニア――『彼ら』にも、変化が現れていた。
感情を持ち、自由に行動ができる、知性のある生物との会合。人が持つ強い感情と記憶からは、植物から吸い取れる生命力とは比べものにならないほどの力があると、『彼ら』は気付いてしまった。特に人の誰しもが抱えている負の感情と記憶は、『彼ら』にとっては数を増やすための絶好のご馳走になり得ると。
そうして密やかに、急激に、数を増やした『彼ら』は、人と触れることにより知識を修得し、人という存在を学ぶ。
しかし人は植物とは違い自由に動き回れるため、移りゆくモノでもある。『彼ら』の周りにあるものを取り尽くせば、おそらく人は去ってしまうだろう。
『彼ら』にとって人とは餌でしかない。
その餌を逃したくないと考えた『彼ら』は、人をこの地へと縛り付けるようにと、その特性を変えていった。
「人を、縛り付ける?」
「考えてみて下さい。ゼーレが国として栄える以前からエテルニアがあることが判明していたのであれば、今の時代になっても尚、なぜエテルニアが唐突に現れた謎の鉱石であるとされているのか。それは、エテルニアがゼーレという地から外へと持ち出されることがなかったからです。エテルニアが新たに得た特性というのは、エテルニア同士で引き合う力のことです」
ミスティルの呟きに近い問いかけに、レーヴェはそう答える。
あのオールドー・ルベルの取り調べ内容が正しいのであれば、過去にゼーレ国ではエテルニアを装飾品として交易していたはずである。だというのに隣国であるグローリア国へとそれが伝わっていなかったのは。
「つまり、エテルニアを所持した人は最終的にあのゼーレの国へと還るよう、無意識にエテルニアに誘導される、というわけです。ミスティルさんが言っていた半年前の事件、それに、今回のお二人も、おそらくそうやってここへと導かれたのではないでしょうか」
「でもそれだと、オールドー氏なら理屈が通るけれど、今の私たちはエテルニアを持ってはいないのに」
「お二人……特にミスティルさんはゼーレ国の出身で、知らずともエテルニアの影響を強く受けていたはずです。なので無自覚のままにエテルニアへと導かれた可能性がありますし、それに、お二人がフォーゲルを求めていたのだとすれば……今のフォーゲルは、あの状態ですから」
レーヴェは再度、言葉を濁す。
今現在の、フォーゲル・フライハイト。
姿は彼でも、その中身は彼ではない。声はフォーゲルのものではあるが、語られる言葉はフォーゲルのものではない。
ミスティルも言葉に詰まりながら、レーヴェへと問いかけた。
「あの『彼』は……貴方たちがハカセと呼ぶあの人は、一体なんなの?」
「ハカセは……ハカセ自身は認めたくないみたいですけれど……ハカセもエテルニアの一部です。ただ、他のエテルニアと違うところは、ハカセはゼーレの地へとエテルニアが落ちてきた時に一緒に地中へと残らずに、はじき出されて別のところに落ちてしまった欠片でした」
大地を抉るほどの衝撃を伴って落ちてきたエテルニアから、はじき飛ばされてしまった一欠片。
本来ならば、力を失って砂となって崩れ落ちるところだった。しかしソレは、近くにあった動物の死骸を借りることによって独自に特性を変化させた。
生命力を吸い取って数を増やすよりも、個としての生存を選び。
植物への依存ではなく、動物との共存を選んだ。
最初はネズミや鳥といった小動物の体を借り、そしてウサギやオオカミへと乗り移り、やがて、人へと辿り着いた。
ゼーレの地に留まっている他のエテルニアとはまったく違う会合を果たしたソレは、そこでも人との共存を望み、人を知り、思考することを覚え、感情に触れ……そうして、『彼』としての個を獲得するに至った。
ゼーレの地へと留まったエテルニア達が人を餌として呼び寄せ縛り付ける一方で、『彼』は人の体を借りることによって、人との共存を築き上げていった。
「……体を借りる、というのはどういうこと?」
「そのままの意味です。ハカセには意志があっても、自分で動くことができませんから、ボクたちが体を貸してあげるんです。えーと、憑依する、と言った方がわかりやすいかも」
レーヴェは軽い声音で答える。
思わず不安げな表情を浮かべるミスティルだったが、レーヴェはそんな彼女に苦笑いを浮かべた。
「まぁ、普通はその反応になりますよね。でも僕たちは望んでハカセの役に立ちたいと思っています」
レーヴェは窓の外を見る。
窓から見える景色には、集落の住民たちに囲まれている『彼』の後ろ姿がある。
「この集落にいる皆は、それぞれいろんな事情で元いた所から追い出されたり逃げてきたりして、帰る場所がなくなった人ばかりなんです。行く場所もなく、食べるものもなく、いっそのこと自ら死んでしまおうかと思ったところを、ハカセは助けてくれた」
ある者は、あらゆるモノに追われ逃げて野垂れ死ぬ時に。
ある者は、感情に押し潰されて自ら命を絶とうとした時に。
『彼』は現れ、寄り添い、手を差し伸べてくれる。
「最初は戸惑うんですが、ハカセに体を貸すとなんだか気が楽になるんです。なんというか、ボクらの辛い部分を肩代わりしてくれるような」
「でも……それはエテルニアの特性なのではないの? エテルニアは人の感情と記憶を糧にして数を増やすと……」
それは先程、エテルニアの特性についてレーヴェ自身が語った内容だ。
レーヴェは頷いて肯定する。
「その通りです。ですから、ボクらの前にハカセが現れたのも、ただボクらがハカセに引き寄せられたというだけの話なのかもしれません……それでも、ボクらはそれで救われています。ハカセはボクらにとっては命の恩人なんです」
でも。
と、レーヴェはふいに、言い淀む。
「……誰かにとっては薬になるものでも、別の誰かには毒になるように……ハカセも全ての人を救えるというわけではありません。フォーゲルが、そうでした」
フォーゲル・フライハイト。
唐突に出てきた名前に、ミスティルはびくりと肩を震わせた。
レーヴェは視線を落とす。
「フォーゲル……ここに来た頃はまだ名前がなかったけれど……当時のフォーゲルが抱えていたモノは、ハカセですら肩代わりができないほどに、悲惨で壮絶な記憶と感情だったそうです。それこそ、膨大な力を持つエテルニアを作り出すほどの」
――フォーゲルの記憶と感情を元に生成されたエテルニアは、武器として加工されれば凄まじい威力を持つ可能性がある。
最初にそれを提示したのは、エテルニアそのものである『彼』であった。
さらに『彼』は、フォーゲルが無意識に使っている能力についても言及していた。
曰く、フォーゲルの目には、人を魅了する力があるという。
「魅了……?」
「ボクも上手く説明ができないのですが……ハカセが言うには、フォーゲルの目には人を惹き付け、記憶に干渉する力があるそうなんです。具体的には、他人にフォーゲルが体験した記憶を植え付けたり、逆に記憶を奪ったり、だとか……」
ギクリ、とミスティルは肩を跳ねさせた。
記憶を奪う。
それはまるで、今の自分――フォーゲルの記憶だけがない、今現在のミスティルの状態ではないか。
「エテルニアを所持している人が、赤の他人であるはずのフォーゲルの記憶を、まるで自分の記憶であるように語り出す。そういう現象にお二人は遭遇しているはずです」
「それは……」
「フォーゲルの記憶と感情から作られたエテルニアは、フォーゲルの目の力をも奪っていったようなのです。だから、フォーゲルから作られたエテルニアにはフォーゲルの記憶が埋め込まれていて、所持者はそれを自身の記憶だと思い込んでしまう……ハカセはそれを危険だと判断しました。だからフォーゲルをこの集落へ隠し、目の正しい使い方と、エテルニアから記憶と感情を取り戻して自分を受け入れさせる為の訓練をさせようとしたのですが……」
そんな矢先に現れたのが、あの男。
オールドー・ルベルであった。
「……その後の事は、ボクらにはわかりません。ただ風の噂で、エテルニアが武器として加工されて使われたことと、ゼーレの国が燃やされたことだけ、聞きました……それだけを聞けば、フォーゲルとハカセがどういう扱いをされたのかは想像しやすかった……」
「フォーゲルは……」
ミスティルは、おそるおそる口を開く。
「彼の意識は、今……」
「フォーゲルは眠っています。この集落から連れ出される際にハカセそのものであるエテルニアを飲み込まされて以来、フォーゲルは起きている間に見聞きした記憶がそのままエテルニアに変換されてしまう体質になってしまったようなのです。なので、意識を眠らせておいた方が良いのだと……ただ、ずっと眠ったままだと体の方が保たなくなるので、今はハカセが代わりにフォーゲルの体を動かしている状態なのです」
「そんな……じゃぁ彼は、フォーゲルはもうずっとこのまま……」
「いいえ。もうすぐ終わります」
焦って立ち上がりかけたミスティルに、レーヴェはやけに冷静に断言した。
そしてレーヴェは小さく微笑む。
少し寂しげに、そして意味深に。
「明日、全てが終わります。きっと……ミスティルさんは見届けるために、ここに呼ばれたんだと思います」
詳しい理由は明日に話します。
レーヴェはそれきり、先の話はしなかった。
2.
いつの間にか空は暗くなってしまっていた。
この日は集落に泊まっても良いと許可を得ることが出来た為、ミスティルは一足先に宛がわれた二階の部屋へと上がらせてもらった。
ちなみにレオウはその場に置いてきた。レーヴェと共にいつまでも気まずそうにしていた為、席を外すからちゃんと二人で会話をしなさい、と言いつけたのだった。
唐突すぎる予想外の再会だ。お互いに心の準備なぞ出来ていなかっただろうし、気持ちはわかる。あの二人が親子の関係を築くには暫く時間が必要であろう。
それに。
それにミスティルにも、心を整理する時間が必要だった。
「……アハート。ごめんなさい、独りぼっちにさせちゃって」
窓を開けるとすぐにアハートが窓の淵へと停まりに来た。
待ちくたびれたとでも言いたげに一声鳴くアハートに、ミスティルは小さく笑う。
「今日はここで一泊することになったわ。アハート、貴女も今夜はこの近くで――」
と。
ふいに背後に誰かの気配がした。
レオウかレーヴェか、と油断していたのがいけなかった。振り返った先に襤褸布を纏った彼の姿があり、ミスティルは思わず固まってしまった。
隣でアハートが反応して騒ぎ、狭い部屋の中をさっと飛ぶ。そして当たり前のように、彼が差し出した腕に器用に着地した。
「……久しぶり、アハート」
彼が言う。
その声色と、青色が混じっていない紅い瞳に、ミスティルは止まりかけていた思考を無理やりに動かして口を開く。
「フォーゲル……?」
「ミスティルも、久しぶり」
困惑するミスティルに、彼は小さく微笑んだ。
向けられる眼差しは、昼間、浜辺で見た『彼』の目つきでもなく。
親しみを込められているとわかる声で名を呼ばれ、ミスティルは思わず足を一歩、後ろへと退く。
彼は構わずに部屋へと入ってきて、窓の淵へとアハートを下ろした。
「な、なんで……眠っていないと駄目だって……」
「少しだけなら、大丈夫」
アハートの背を撫でつけているフォーゲルから、ミスティルはさらに一歩、二歩と、距離を取る。
本当に油断しきっていた。眠っているのであれば、まだちゃんと会うまでに時間があると思い込んでしまっていた。
まだミスティルは彼のことを、フォーゲル・フライハイトのことを、思い出せていない。
「……やっぱり、ハカセの言うとおりになった」
動揺するミスティルへと、フォーゲルは小さく苦笑するように言う。
「俺のことを忘れたら、ミスティルは来ないと、思ってたのに。エテルニアに引き寄せられる方が、強かったみたい」
「え……」
その言い方では、まるで。
慌ててミスティルはフォーゲルへと詰め寄る。
「あ、貴方、何故それを? いえ……やっぱり、貴方が私の記憶を」
「うん。ミスティルの記憶は、俺が預かってる」
フォーゲルは肯定する。
あまりにも素直で簡潔すぎる言葉に、ミスティルは呆気にとられて彼を見つめた。
「なんでそんなことを」
「あの時のミスティルは、すごく混乱していたし、エテルニアの影響も受けていた。そのままだと、ミスティルの心が壊れる可能性があった。えぇっと……俺はあれ以来会ってないから、わからないけど……オールドーさん、今、大変なことになってる?」
「“オールドーさん”、って、下手すれば殺されかけていたのに、貴方の口から何故その人の名前が――」
言いかけ、ふとミスティルは自身を振り返る。
半年前の事件の時。オールドーは発狂して錯乱した状態で発見された。そしてミスティルも、頭痛により衰弱が激しく、記憶が喪失したことを除いても酷く混乱していた。
あの時のオールドーと自分が、実はまったく同じ症状に侵されていたのだとすれば。
「……まさか私もあの人と同じように廃人になる可能性があった、ってこと?!」
「うん。まぁ、ミスティルは助かる可能性があったけど、あの人はもう手遅れだった。それに、俺はあの人を許さないし、ハカセも手を出すなと言ってたし」
淡々と言うフォーゲルに、ミスティルは目眩を起こしそうになる。
怒ればいいのか悲しめばいいのか。なんとも言えない複雑な心境にミスティルは脱力し、ふらふらとベッドへと腰掛ける。
ああ、そうだ。
そういえば、そうだった。
確かに自分は、こんな風に毎回、彼に振り回されていたような気がする。
頭を抱えて長く息を吐くミスティルを、フォーゲルは膝をついて顔を覗き込みながら、小首を傾げた。
「ミスティルは強い。俺の目も、ミスティルには効きにくい」
「……そうなの?」
「ミスティルはゼーレで……エテルニアの真上で生まれて、そこで育ったから、人を惑わす類いの力には人一倍耐性がある。俺の記憶がないはずなのに、俺のことを『フォーゲル』だとわかって、名を呼んでくれた」
ふっと、彼は微笑む。
まだ表情を作るのに慣れていないような、少しだけ不器用な笑みだった。
「今のミスティルなら、ちゃんと受け入れられる。だから、預かっていた記憶、ミスティルに返すね」
「え?」
気が付けば眠っていた。
「え、な……えっ?!」
思わず飛び起きる。
窓の外はまだ暗い。が、確実に数時間は経っている。自分でベッドに入った記憶がまったく無いのだが、一体どういうことか。
確か、そうだ、フォーゲルが。
と、意識が落ちる直前の光景を思い出し、ミスティルは思わず両手で顔を覆った。
頬が熱いし、耳まで赤くなっているのが自分でもわかる。
叫びだしたいところを慌てて頭を振って熱を追い払い、ミスティルはおそるおそると自分の記憶を振り返った。
半年前のこと。
あの事件のこと。
自分の身に起こったこと。
そして、フォーゲルのこと。
(……思い出せる……それに、これが私の記憶だと、ちゃんとわかる……)
昨日まで思い出すことに抵抗があるほどだったというのに、それすらもなく。拍子抜けするぐらいあっさりと自分の記憶を受け入れてしまっている自分に気付き、逆にそれに戸惑ってしまう。
とにかく、記憶が戻ったことをレオウに知らせるべきだろうか。そう思い至り、ベッドからそろりと足を床に下ろした。
その時、ふいにノックの音が響く。飛び跳ねそうになるぐらいに驚いて扉を振り向けば、次いで声をかけられる。
「お休みのところ申し訳ありません、御嬢、起きていらっしゃいますか」
「っ! あ、うん、今起きたところ!」
声の主はレオウだった。慌てて立ち上がったところで、扉越しのままにレオウが続ける。
「何やら外の様子がおかしいのです。御嬢、私は先に外へ出てみます」
「え……わ、わかった。急いで支度するから、先に行ってて」
何か焦っている様子だった。ただ事ではないと感じ、すぐに身支度を整える。
外へと出てみれば、すぐそこにレオウとレーヴェが二人並んで立っていた。さらにその奥には住民達の姿。
集落にいる全員が外に出てきていた。そして皆、一様に空を見上げている。釣られて上を見上げたミスティルは、思わず声を失った。
空の色ではない、別の青さ。
そもそも、まだ夜は明けきっていないはずだ。だというのに、空が青い。
この色は嫌と言うほどに見てきた。エテルニア特有の青色の光だ。
それが、空を覆うかの程に巨大な塊となって、空に浮かび――否、落ちてきている。
それはまるで、この前見たあの夢の光景に似ている。
あの夢はこのことを示唆していたのか。咄嗟に一歩後退したミスティルの背に、何かがぶつかる。
「……来たか」
背後から聞こえてきた声は、フォーゲルのものではあったが、フォーゲルではない。
いつの間にかミスティルの背後に『彼』が立っていた。空にあるソレと同じ色の光を瞳に宿らせ、『彼』はミスティルの横を通り過ぎる。
「レーヴェ、子供らを避難させろ。具合の悪い者もだ。動ける者は各自の持ち場で待機しておけ」
手短にそれだけを指示し、『彼』は一人、振り返ることなく歩いて行く。
何故か。
何故か、一人で行かせてはいけないと思った。その背を追いかけようと駆けだしたミスティルを、しかし手を引いて止める者がいる。
レーヴェだ。少年はしっかりとミスティルの手を握り、しかしどこか悲しげに、ミスティルと目を合わせると空を見上げた。
「ボク達は、アレが来ることを知っていました」
「アレって……あの落ちてきているエテルニアの塊のこと? どうして」
「エテルニアは、エテルニアを引き寄せる……昨日、そう話しましたよね。その結果が、アレなんです。大地に溶け込むことなく数を増やし続けたエテルニアは、空の向こうにある別のエテルニアまで引き寄せてしまった……そして今回は、ゼーレの土地を作ったモノよりもさらに大きい。きっと、ゼーレだけでなく、この集落にまで範囲は及ぶでしょう」
「そんな! だったら早く、皆でここから逃げなきゃ――」
「ミスティルさんはエテルニアがどうやって壊れるのかを知っているはずです!」
食い気味に叫ばれたレーヴェの言葉に、ミスティルはビクリと体を強ばらせた。
確かに、ミスティルは知っている。戻ってきた記憶の中に、印象強く残っている。
フォーゲルが、もしくは『彼』が、エテルニアが関与している事件に巻き込まれた時。
それに、半年前の事件。あの時、ゼーレの地下にあった空洞の、全てのエテルニアを破壊したのが、フォーゲルと『彼』なのだとしたら。
「それじゃぁ……『彼』は、アレを壊しに……?」
「それだけでは、きっと無いです。ハカセは……この大地にある全てのエテルニアを破壊するつもりなんです」
「全ての……? でも、『彼』も」
「ですから、ミスティルさん!」
掴んでいた手を離し、レーヴェは突然、ミスティルへと深々と頭を下げた。
唐突すぎるレーヴェの行動に驚いたミスティルが思わず視線を彷徨わせ、さらにギョッとして言葉を失った。
集落の人々が一様に、ミスティルへと頭を下げていたからだ。
「ハカセのこと、見届けてください……! ボクたちじゃ駄目なんです、きっと、ハカセに消えないでって縋り付いてしまうから……っ!!」
レーヴェの言葉には、相当な覚悟が含まれている。それにレーヴェだけではない、この集落全体の、覚悟だ。
命の恩人として崇めてきた『彼』との別れを、この集落にいる者たちは全員、覚悟できている。
上空を飛ぶアハートが急かすように鳴き声を上げている。ミスティルはただ頷き、踵を返して走り出した。
×××
夜明け前の砂浜は異様な静けさに満たされていた。
波の音がしないのは、打ち寄せてくるはずの水がなく干上がってしまっているからである。おまけに風もない。耳に届く音といえば大気が振動している微かな音と、砂を踏む自分の足音だけである。
そんな中で『彼』は佇んでいた。
一緒についてきたアハートが器用にミスティルの肩に停まり、警戒するように睨み付けている。ミスティルも深呼吸を一つ、『彼』の背後に立つ。
「――昔、ゼーレに忍び込んでアンタの父親に会いに行ったことがあった」
背後に来たのがミスティルだとわかりきっているのだろう。『彼』は振り返ることなく、独り言のように声を発する。
その後ろ姿に、ミスティルは応える。
「知っているわ。城の中庭で『貴方』と会ったことがあった」
「……その様子じゃぁ、フォーゲルはきちんと記憶を返せたみたいだな」
小さく笑う声が聞こえてくる。
そんな『彼』の視線を辿って、前を見る。
空から落ちてくるモノと一緒に、ゼーレ国の跡地がぼんやりと見えた。
「警告しに行ったんだ。『俺たち』は人の記憶と感情を喰って力を得ている。おまけに『俺たち』は貪欲だから、力が増せば増すほどに際限なく餌を喰らう。だから、このままだと『俺たち』がアンタの国民を喰い潰すぞ、ってな」
しかし。
ゼーレの王は、寂しげに微笑みながら首を横に振ったという。
「すでに手遅れだった。王も、国民も、『俺たち』に毒され過ぎて、あの地を離れられなくなっていた。唯一、『俺たち』への耐性を持って生まれたアンタ以外はな……アンタの父親は『俺』以上に『俺たち』の危険性を十分に理解していたよ。まさか、『俺』と別れた方の『俺たち』の方に、人を縛り付ける毒を作る奴が現れていたとは」
エテルニアは、エテルニアを引き寄せる。
人の心を魅了し、エテルニアから離れ難くすることによって、人をゼーレの地へと縛り付けた。そして人から負の感情を吸い上げるための餌とし、人から思考力を奪っていった。
それを危険だと唯一理解できたのが、ゼーレ最後の王……今は亡きミスティルの父親であった。
「国の近くに奴隷市があったのは、アンタの父親が『俺たち』へ、せめてもの抵抗として行った苦肉の策だった。まだ影響が少ない者を国外へ出し、二度と戻れないようにする為の、な……とはいえ、フォーゲルやオールドーを見る限り、王の悪あがきもあまり効果が無い結果になってしまったようだ。王に請われて国すら燃やしたというのに、結局オールドーは帰ってきたし、フォーゲルも……まぁ、コイツは中に『俺』がいるからだが」
淡々と語られる独白に、ミスティルは一瞬硬直し。
そして『彼』の言葉を、反芻する。
「王に、請われて……?」
「ああ。国を燃やすことを請うたのは、アンタの父親だ」
静かな浜辺に『彼』の声が冷たく響く。
「壊して欲しいと請うたのはゼーレ王であり、それを計画したのがオールドーで、実行したのがフォーゲルだ。とはいえ、ゼーレ王はただ請うただけ。大半はエテルニアに影響を受けたオールドーが無意識下にゼーレの地を求めるも、望郷の念が強すぎた故に暴走した結果の破壊衝動が原因、ってところか。フォーゲルは集落の奴らを人質に脅されちまったから、拒否権なんてものは無い状態だったんだが、最終的に引き金を引いたのはコイツだ。だから、完全に被害者というわけでもない」
そこまで一息に告げたところで。
『彼』は自身を自虐する。
「まぁ……狂って暴走しているオールドーを利用したのは『俺』であり……そもそも、ソレを引き起こしたのは『俺たち』だ。だから一番の元凶は、どう足掻いたって『俺』だということだ……なぁ、姫さん」
ようやく『彼』はこちらを振り返った。
紅い瞳に、青い光を宿らせて。
ただ真っ直ぐに、ミスティルを見据えて、『彼』は言う。
「レーヴェからコイツの目について説明された時に、他人の記憶に干渉する力だと聞かされたと思うが、正しくは違う。コイツの目は魅了の力だ。人の心の奥底を透かして見つめることで相手の本来の願望を引き出し、理性を焼き切らせることで記憶に干渉する。つまり、相手の心の奥底にそういった願望がなければ、正しく操ることはできない……なぁ、姫さん。アンタ、コイツを殺したいと願ったことがあるだろう」
あの本棚に囲まれた水槽のある部屋で。
ミスティルは一度だけ、フォーゲルへと銃口を向けたことがある。
声には出さずに肯定した。
『彼』は笑う。
「フォーゲルが度々口にしてはいたが、本来なら『俺』が言うべきなんだろう。アンタがあの時に銃を向けたのは、フォーゲル越しに『俺』を見ていたからだしな。
なぁ、ゼーレの姫……ミスティル・アリーヤ・ゼーレ。『俺』を……全ての元凶である『俺』という存在を、殺したいと願うか」
問いかけられる。
その問いに、ミスティルは。
否――ミスティル・A・ゼーレは、一度目を瞑り。
再び目を開けた時、真っ直ぐに『彼』を見据え返した。
「殺さない」
続けて言う。
「けれど、許さない。決して」
それに。
それに……と、その先の言葉を、ミスティルは言うことができなかった。
『彼』が今、この場で、何をするつもりなのか。
それをミスティルは自然と理解している。だからこそ、口にすることができなかった。
……それに、貴方は私が手を下すよりも先に、貴方自身で終わらせるつもりなのでしょう、と。
「それでいい」
『彼』は笑って応えた。
「それでいいんだ。ゼーレの姫さん」
酷く。
ひどく。
満足したように。
『彼』は言う。
さっと空が明るくなる。地平線から日がようやく昇ってきたようだ。落ちてきているソレと対比するかのように、大地を紅く染めていく。
話している間にソレはずいぶんと近くにまで迫ってきていた。空気は重く、大気が振動する音がそこら中から響いてくる。
そんな中で、『彼』はゆっくりと、右腕を天へと掲げる。
「最後に頼みたいことがあるんだ」
開いた掌を、落ちてきているソレへと向けて。
ミスティルへと、『彼』は言う。
「ゼーレの姫。『俺』に、名を与えてくれよ。エテルニアなんかじゃない、『俺』だけの名を」
掲げられた右腕に、昨晩はなかった青色の結晶が貼りついているのを見る。それは朝日を受けてきらきらと、不思議な輝きを発していた。
ミスティルは『彼』を見つめる。
紅い瞳の中に宿る、青色の光へと向けて。
口を開いた。
「―― リーベルタース・モルゲンロート」
告げた。
『彼』は一瞬、瞠目した後。
優しく微笑んだ。
「……上等」
それが最後の言葉だった。
天に向けられていた掌が、握られる。
動作はそれだけ。
刹那、全ての音が消えた。
音も声も振動も、自身の呼吸音すらも聞こえなくなった直後。
空から落ちてきていた青色の輝きが、内側から弾け飛ぶように崩壊した。
一拍遅れて凄まじい轟音と共に突風が吹き付ける。咄嗟の判断でアハートを腕に抱きかかえて後ろを向き、砂地へと蹲った。
耳を劈くような轟音に暫く堪えたが、突風の方は少しだけでおさまった。空から破片が落ちてくることもなく、ただ舞い上がった砂埃に咳き込みつつ、ミスティルはおそるおそる顔を上げる。
「……アハート?」
腕の中からアハートが一声鳴いて無事を知らせる。ホッとしながらアハートを腕の中から地面へと下ろしてやり、振り返ったミスティルは、あ、と声を上げた。
いつの間にか大きな壁がそびえ立っていた。
エテルニアの壁だ。おそらく、自分たちを突風と衝撃から守るための壁だ。思わず見とれていたミスティルの目の前で、しかし壁はぐしゃりと、瞬く間に砂となって崩れ落ちる。
その崩れた先に、蹲る少年の姿があった。
両膝を地に着けて、掲げていたはずの右腕をだらりとぶら下げ。俯きながら左手で自身の胸元を抑えながら咳き込んでいる。
そこに『彼』の気配は無い。
そこに、『彼』の気配は、もう、無い。
ミスティルは駆け寄って同じように膝をつき、その体を抱きしめた。
何も言えず、何も聞けず。
少年もまた――フォーゲル・フライハイトもまた、ただただ抱きしめられたままに、口を開いた。
「ハカセ……ありがとう、は、自分の口から言わなきゃ、意味がないんだよ」
3.
空からの破片は、大地に到着することもなく砂となって風に吹かれていったようだ。
僅かにキラキラとした光を辺りに散らばせながら、あたかも最初から何事もなかったかのように、朝焼けを終えた空は澄みきっている。
とはいえ、瞬発的に発生した突風と衝撃はあちらこちらに爪痕を残したようだ。フォーゲルに肩を貸しながら集落へと戻ったミスティルが見たのは、突風によってなぎ倒された柵と、衝撃によって崩れた門だった。幸いなのは住民達の家々は倒壊を免れていることか。
「御嬢!」
そんな集落の奥から、先に戻っていたアハートと共にレオウが駆けてきた。疲れた様子ではあるが大きな怪我等をしていない二人を見て、レオウはひとまずホッと胸をなで下ろす。
「ご無事で何よりです……物凄い風と衝撃音でしたから……」
「私は全然平気。でもフォーゲルが」
フォーゲルはぐったりとしていた。羽織っていた襤褸布に隠れていた為にミスティルも気付けなかったのだが、フォーゲルの手足はエテルニアに殆ど侵食された状態であったらしい。それらが一気に砕けた為、彼の手足には無数の傷が残されることになった。
さらにはミスティルとアハートを守るため、一瞬にして巨大なエテルニアの壁を生成したのもある。体力の消耗は激しく、今にも寝てしまいそうな程にうつらうつらと舟を漕いでいる。
レオウは片膝をついてフォーゲルの顔を覗き込んだ。
「フォーゲル……なのだな?」
「……ん……レオウ、も、久しぶり……」
眠そうにではあったが、彼は小さく笑ってレオウを見つめ返した。
その目を見てフォーゲルだと確信したのだろう。レオウは一瞬くしゃりと破顔した後、フォーゲルの頭へと手を置いた。
「よくぞ、戻ってきた」
「……うん」
レオウとてフォーゲルの身を案じていたのだ。ミスティルからフォーゲルを受け取ると、軽々とその背におぶさった。
と、少し遅れて集落の奥からレーヴェが追いかけてくる。
「ミスティルさん! それに……」
レオウに背負われているフォーゲルを見て、レーヴェは言葉を詰まらせる。
少年にとっては複雑な心境だったのだろう。父のようにすぐに喜べないようで俯いてしまったレーヴェに、フォーゲルはレオウの背中から声をかける。
「レーヴェ、これ」
そうして差し出したのは、一欠片の小石だった。
「……なにも無いよりは、皆の、支えになると思う」
レーヴェは目を丸くする。
それはもう青く輝きもせず、今にも崩れそうなほどに脆くなっていたが、それでもそこに在る。
『彼』が居た証だった。
「フォーゲル……ありがとう」
指先ほどの小さなその欠片を、レーヴェは両手で受け取り、無くさないようにそっと握りしめた。
「……ありがとう、フォーゲル……ありがとう……」
集落の住民は全員無事だった。
事前に『彼』から今回のことを聞いていた住民たちは、この日の為に地下室を掘り、崩れないようにしっかりと壁を固め、そこへ物資を運んで避難所を作っていたのだという。そのことをレーヴェより知らされたレオウはミスティルとは別行動をし、集落にいる子供や老人、怪我や病気等で避難所へ向かうのが難しい住民たちの誘導と運搬をかってでた。
こういった避難時の行動については、レオウはゼーレ国で騎士をしていた時に訓練として何度も行っている。知識と経験に従い的確に行動し、それによって想定よりも早く住民全員の避難が完了した。おかげで住民達はほぼ無傷、避難所も突風と衝撃に耐え抜いて崩れることもなく、無事に全員が地上へと戻ることができたのである。
全てが終わって避難所から這い出た彼らは一様に空を見上げ、各々が涙を流したり放心したりしていたという。すぐには動けない様子であった彼らの代わりにレオウが辺りを巡回し、集落全体の損壊状況を確認。ミスティルがフォーゲルと共に集落に戻ってきたのはちょうどその確認作業が終わった頃で、ようやく動けるようになってきた住民たちと協力し、レオウは集落の復旧作業へと取りかかった。
一方で、ミスティルもフォーゲルの応急手当の為に集落中を奔走することになった。フォーゲルが負った傷はどれも深くは無かったものの、傷の数が多く出血も酷かった為に、手持ちの応急セットだけでは足りなかったからだ。
慌ててレーヴェや手の空いてそうな住民へ頼み込み、なんとか包帯や傷薬等をかき集め。少ない道具をなんとか駆使し、奮闘しながらもフォーゲルの治療を行い。そうこうしている間にどんどんと時間は進み、気が付けばまた日が落ちてしまっていた。
フォーゲルは手当の最中に体力の限界で気絶するように眠ってしまったのだが、今は安定した寝息をたてている。表情も穏やかで怪我の痛みに魘される様子もない。ホッと肩の力を抜きながらその寝顔を見つめていれば、コンコンとノックの音が聞こえ、ミスティルは扉を振り返る。
ひょこりと顔を覗かせたのはレーヴェであった。
「ミスティルさん、お疲れ様です。すみません、フォーゲルのこと任せっきりにして」
「レーヴェ君……ううん。私にできるのはこれぐらいだったから大丈夫よ。集落の方は? 今日は皆、ちゃんと休めそう?」
「はい。父さんが的確な指示を出して手伝ってくれたおかげで、ずいぶん復興作業が進みました。皆も今夜は安心して眠れそうです……夕食まだですよね。ここへ持ってきましょうか?」
「ありがとう、助かるわ」
「フォーゲルの分も持ってきますね。たぶん、そろそろ起きる頃だと思うので」
と、レーヴェはまたすぐに部屋を出て行く。
ミスティルは小首を傾げる。不思議に思いながらもフォーゲルへと視線を戻せば、ちょうどフォーゲルがうっすらと目を開けたところだった。
「あら、本当に起きた。フォーゲル、大丈夫?」
「…………おなかすいた……」
寝起きでぽやぽやとしながらのフォーゲルの第一声は、彼にしては珍しい腹の音と共に発せられた。
あまりもの空腹で目が覚めたようだ。ふと、昨日の『彼』の行動を思い出す。
「そういえば貴方、昨日からあまり食べていないんじゃ……」
「ん……ハカセが……寝っぱなしにならないように、って……」
「あ、あぁ、なるほど。それはまた、ずいぶんな荒治療ね」
笑えばいいのか、呆れたらいいのか。判断に悩みつつも、もそもそと体を起こそうとするフォーゲルに手を貸し、背中にクッションを宛ててやる。彼は眠気を晴らすようにふるふると頭を振った。
「ハカセが」
「え?」
「ハカセが最後に、ミスティルに、ありがとうと伝えてくれ、って」
唐突なフォーゲルの言葉に、ミスティルは思わず目を瞬いた。
じっと懸命にこちらを見つめてくるフォーゲルは、どうやら空腹だけで目が覚めたというわけではなかったようだ。
ミスティルは一拍、大きく息を吸ってゆっくりと息を吐き、首を横に振る。
「フォーゲル、貴方もあの時言っていたでしょう。ありがとうという言葉は、本人の口から言わないと意味がない……だから、私はその言葉を受け取れない。そもそも、あの人のことを私は、許すことができなかったのだし」
「許さなくていい。ハカセも俺も、許して欲しいと望んでない。これは、俺たちがずっと背負うべき罪だから」
でも。
と、フォーゲルは不器用ながらも、表情を和らげた。
「ハカセに、名前を与えてくれた。だから、俺からも、ありがとう」
つられてミスティルも微笑んだ。
「……それはフォーゲルからの言葉だから受け取るわ。私こそ、許せないことを認めてくれて、ありがとう」
×××
それから暫くの間、ミスティルとレオウは集落に滞在した。
本来ならば調査が完了次第すぐさま街へと戻って結果を報告しなければいけないところだが、ここまでの道中を考え、フォーゲルの怪我が治るのを待った方がいいと判断したのだ。
それに、集落の今後についても見届けておきたかった。『彼』という指導者が居なくなった今、彼らはどうするのか。
「ボクはここに残ります」
と、レーヴェは即決した。
「ボクはこの集落で育ちました。集落の皆は、ボクにとっては育ての親なんです。たくさん迷惑をかけたし、たくさん心配もかけた……だから、ボクは皆の役に立てる人になりたい」
淀みなく語る。
最初からこうすると決めていたのだろう。レーヴェの瞳からは強い意志が感じられ、ミスティルは言葉に詰まる。
そっとレオウの様子を窺った。レオウは息子の言葉を噛みしめるように、伏せていた顔を上げると眉を下げながらも微笑んだ。
「人との繋がりを大事にし、恩を返そうとする心を育んでくれたこと。なんと有り難く、喜ばしいことか。立派に成長してくれたことを私は誇りに思う。故に、私はお前の意志を尊重しよう……何か、私もお前の助けになれれば良いのだが……」
父として何もやってやれなかった自責の念からだろう。レオウは寂しそうに肩を落とす。
そんな父の様子に、レーヴェはおずおずと口を開いた。
「えっと……集落に残ることには違いないんだけれど……集落の中だけじゃぁ、どうしても知識がかたよるし、ボクの場合だと集落の外に出たことがないから、その……」
もじもじと視線を彷徨わせる。数秒の迷いの後、少年は意を決したようにわっと身を乗り出した。
「い、今すぐには無理だけど、集落の復興が落ち着いたら……! 父さんのところに、いろいろ勉強しに行っても、いっ、いいかなっ?」
少年なりにこの数日の間、必死に考えたのだろう。緊張と不安と期待が混ざって上擦った声になったレーヴェの問いに、レオウは目を丸くした。
そしてすぐに破顔する。
「っ、あぁ、もちろん……っ! もちろんだとも、レーヴェ……!」
父の嬉しそうな表情に、レーヴェも安堵して笑顔になる。
どうやらミスティルの心配は必要なかったようだ。二人なりに親子としての絆を築いていけていることにホッと胸をなで下ろし、ふと、思い出してミスティルは自身の髪飾りに触れる。
「そうだレーヴェ君、これ、貴方にあげるわ」
レーヴェの手に、つけていた髪飾りを乗せる。
そしてきょとんとするレーヴェに、ミスティルはこっそりと耳打ちした。
「もともとは貴方のお母様の物だったそうよ」
「えっ、ほ、本当ですか?!」
「きっとこれも縁だと思う。私が持っているよりは貴方の方が相応しいと思うし……私にこの髪飾りをくれたのは貴方の叔母にあたる人よ。こちらの街に来た時に紹介してあげるわね」
「は、はい! ありがとうございます、大事にしますっ!」
集落の住民たちはレーヴェと同様、ここに留まることを選んだようだった。
『彼』という指導者は居なくなったが、ここは自分たちにとっては大事な場所だ。エテルニアはこの世界から完全に消滅したが、『彼』がいたということは、この地で語り継いでいきたい――というのが、彼らの答えだ。
とはいえ今回、集落は大きな損害を被った。滞在中にミスティルとレオウが協力し、ある程度の復興はできたが、住民たちが元の生活に戻るにはかなりの時間が必要となるだろう。
そこで彼らが提案したのが、近隣の村へ交易するための橋渡しの依頼である。
「近隣の村というと、ゼーレ国跡地を超えた先にカピレという村があります。この集落には馬がいないので、歩きとなると大人の足で三日ほどかかるでしょうが、そこで良ければ承りましょう」
集まった住民たちへそう返答すれば、彼らは「それでいい」とそれぞれ頷いた。
そうして集落を出立する日となった。
滞在中に集落の住民とはずいぶんと打ち解けることができた為、見送りはそこそこに盛大なものとなった。
「ありがとうございました! このご恩は、いつか必ず返します!」
手を振って送り出してくれた集落の者たちの中に、レーヴェの声もしっかりと混じっていた。
そんな彼らへこちらも手を振り替えしながら、集落を後にした一行は、この地を去る前に少し寄り道をすることにした。
あの砂浜である。
砂浜を最後に見ておきたい、と言い出したのはフォーゲルだった。集落を出て数十分後、砂浜に到着したフォーゲルは、波打ち際に立って空を見上げる。
空はいつも通りの風景が広がっていた。海も元通りになっていて、打ち寄せる波と、海から吹き付けてくる風の音が、規則正しく世界に音を奏でている。
「ねぇ、フォーゲル」
その背中に、ミスティルは声をかける。
「今更になっちゃうけれど……貴方、私たちと一緒で良かったの? 集落に残っても良かったのよ?」
「ん……でも、俺が街に帰らないと、たぶん、アハートも帰らないし」
「そ、それはそうだろうけれども」
隣で小さなカニを突いてからかっていたアハートが、名を呼ばれたとわかったのかこちらを見て首を傾げている。
フォーゲルは小さく微笑みつつその場に屈むと、アハートの背を撫で、首を横に振った。
「いいんだ。俺は、皆の役には立てないし、支えになれない。俺があの集落に居たことで、酷いことになったこともある。皆、優しいけれど、俺に恨みを持ってる人はいる……昔から、そういうのは慣れてるから、わかる」
恨まれるのも、嫌悪されるのも、慣れている。
そう言うフォーゲルに、ミスティルは何も言えず口を閉ざす。確かに、彼があの集落へ来なければオールドーは集落へ来ることはなかっただろうし、それによって『彼』が発見されることはなかっただろう。
けれど、それは。
「……貴方だけのせいでは、決して無いわ」
「うん。でも、俺は背負うと決めた。俺の罪は、ちゃんと俺が、背負ってく」
足元の砂を一握り、掬い上げる。
フォーゲルが見慣れた輝きは見当たらない。
もう完全に、この世界からいなくなったのだ。『彼』という存在は。
記憶だけを残して。
「そういえば、ちゃんと名前の意味を聞いてなかった」
思い出したようにフォーゲルは立ち上がり、ミスティルを振り返る。
ミスティルはきょとんとする。
「意味?」
「ハカセの名前」
「あぁ……あの時の。咄嗟につけた名前だから深い意味はないわよ。条件に当てはまる言葉がすぐに浮かばなくて、思わず私たちの屋号をそのまま使っちゃったし……」
もごもごと言い訳を口にしつつ、ミスティルは溜め息を一つ。
視線を上げて、そこを見る。
遠くに見えるゼーレ国跡地を背景に、『彼』が立っていた、その場所を。
「リーベルタースは、自由。モルゲンロートは、暁……あの暁の間だけでも、『彼』が自由であったことを願って」
「……そっか」
フォーゲルは目を伏せ、握ったままだった掌をゆっくりと開く。
「リーベルタース・モルゲンロート……さようなら。それから、ありがとう」
掌の砂は、海からの風に吹かれて散っていった。
と、不意に後ろの方でアハートが騒ぎ立てる。
二人揃って振り返れば、レオウが離れたところからこちらへ手を振っている。
「御嬢! フォーゲル! そろそろ出発しないと日が暮れてしまいますぞ!」
急かすようにアハートが羽ばたいてレオウのところへ飛んでいく。
ミスティルはやれやれと伸びをした後、少年へと手を差し出した。
「行きましょう、フォーゲル」
「……うん」
フォーゲル・フライハイトは、少女の手を取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます