努力の一考

シヨゥ

第1話

「成功したいならとりあえず行動しろ。なんでもいい。成功に結びつきそうなことを、思いつくままにやってみろ。それが成功させようとする努力ってやつだ」

 悩むぼくに先生はそんなことを言う。その努力の方法がわからないからたずねに来たというのに。

「なにをしたら良いか、まったく分からないです」

 だから素直にそう言うことにした。すると先生は

「1秒も考えないで何を言うか」

 と語気を荒げた。

「1秒考えて答えが出なかったら1分考えろ。1分でダメなら1時間。1時間でダメなら1日。1日でダメなら1週間。1週間でダメなら1ヶ月は考えろ。1つも考えが浮かばないなんてないはずだ」

「そんなに考えていられませんよ。成功はしたいけど、生活もありますし」

「じゃあ生活の時間を削るんだ。睡眠時間外だ。考えるには睡眠は大事だからな。テレビやネットを見る時間を削ってみろ。1日1時間くらいなら簡単に確保できるぞ」

「でもそれじゃあストレスがたまりますし」

「言い訳がましいやつだな。本当に成功したいのか?」

「それは、はい」

「ならやるんだ。それに成功するっていうのは変わるってことだ。変わるっていうのはストレスだ。今のうちにストレスに慣れると思ってやってみるんだ」

 命令に近い言葉にすこし怯む。それと同時に先生の言うことも一理あると思ってしまう自分がいた。

「分かりました」

 だからぼくは先生の言葉を受け入れた。

「そうか。それじゃあ宣言をしてもらおう」

「宣言、ですか?」

「そう。人間、誰かに宣言をすると引っ込みがつかなくなってやる気が出るもんだ。だから俺に宣言してみろ」

「そういうものですか」

「そういうもんだ。ほら、言ってみろ。選手宣誓みたいに叫ばなくて良いんだ。これを絶対に成功させると声に出しすりゃあ良い」

「なら簡単ですね。それじゃあ」

 ぼくは咳払いをすると息を吸い込み、

「ぼくは小説家として成功するため、考え続けること誓います」

 そう宣言した。

「よし分かった」

 先生の返事はそれだけだ。

「不思議ですね。ただこれだけのことで頑張らなきゃと思っている自分がいます」

「だろ?」

「それじゃあ帰って考えてみます。また進捗あったら伝えますね」

「応! 頑張れよ」

 ぼくは送り出されて帰途につく。先生に相談する前は不安に押しつぶされそうだった。それなのにいまは不思議とやる気に満ち溢れている。いまならいい考えが思いつきそうな予感がしていた。

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努力の一考 シヨゥ @Shiyoxu

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