第13話 こうはい
新学期になっていた。河川敷の桜がもうすぐ満開になりそうだ。
4人とも無事に2年生に進級できた。クラス替えもあったが、私たちはそのまま持ち上がりで二人ずつ同じクラスになった。
今日は午前中に入学式があり、在校生は午後からオリエンテーションだけなので、それが終わったら部室に集まることにしていた。
「午前の入学式で、また車椅子の子が入ったって話題になってたね」
愛来がどこかから聞いて来たようだ。
「何人入ったの?」
「いや、そこまでは聞かなかったよ」
「じゃあ、来週の部活動の説明会、プレゼンをしっかりやらなきゃね。すぐに歓迎会のお花見もあるし。これから打ち合わせをして話を詰めるよ」
「今年は怜もいるから、活動目的とかしっかり決めようね」
そう、怜は車椅子に乗らないけど、将来は学校の先生になりたいという希望があり、この部で一緒に活動したいと、4月から入部することになったのだ。
「みんな、ありがとうね。車椅子に乗っていてもそうじゃなくても、自然に一緒にいるってどういうことか知りたいの。でも、他にもいると思うよ、みんなのことを知りたいと思っている人は。知らないってことが、よくないんじゃないかと思うの」
怜が笑顔で答えてくれる。それは、私たちの方から見ても大切な視点だ。
権利だけを主張するつもりはさらさらないが、手を差し伸べたくても、どうしていいか分からなくて、できない人もいるってことも理解したい。
駅でそうだったように。
「去年は部長が愛来だったけど、今年もそれで行く?副部長もいた方がいいんじゃないの?」
「えー、愛来でいいんじゃない?」
春陽が速攻で意見を言う。
「『で』、ってどういうことよ!『が』、ならまだわかるけど!」
今年もこの二人のコンビでいいな。去年も実質そうだったし。私と七津はのんびりしようっと。
「せっかくだから、怜に副部長をお願いしては?そういう視点も大事でしょうから」
あー、うん、七津の言うことに一理あるかも。
「怜はどう?」
「え、私?新入部員だよ?何もわからないし」
「大丈夫よ、愛来が部長やってるんだから!大船に乗ったつもりで」
春陽が太鼓判を押す。
「えー、そんな軽くていいわけ?」
「いいの、いいの。元々、私たちが楽しく高校生活を過ごすために作った部だから」
「じゃあ、それで決まりね!愛来が部長で怜が副部長ということで。よろしくお願いします!」
あっさりと決まってしまった。
「でもさ、新入生にはなるべく早く声を掛けてあげて、寂しくならないようにしてあげたいよね」
うん、去年もそう思った。だからそうしようよ。
「じゃあさ、部室の掃除が終わったら、校内をパトロールして新入生を捕まえに行かない?まだいるかもしれないでしょ?」
掃除を終え、新入生の様子を見に行くため、校内パトロールに向かおうと思ったその時、突然部室のドアがノックされ騒がしくなった。
「インクルージョン部ってここですかー?紫―、瞳―、みんなー、あったよ!部室見つけた!」
春陽がドアを開けると、電動車椅子に乗っている新入生が、キャッキャ言いながら廊下に集まっていた。
「えー、何これ?どうしたの?」
「こんにちは!私たち、入部希望の新入生です!」
「ひゃー、にぎやかだねえ。何人いるの?」
「えーっと、いま6人?4組の2人が、あとでホームルーム終わったら来るって言ってたから、8人ですかね?車椅子8台部屋に入りますか?わー、あの雑誌に出ていた先輩ですよね!インクルージョン・ガールズだ!私、1年1組の吉川葵って言います!よろしくお願いします!」
そう自己紹介したよくしゃべる元気な子のカバンには、あの映画に出ていた犬のミニチャームが光っていた。
インクルージョン・ガールズ(リメイク版) 水月 友 @minatukiyu
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