第5話 支配者

 南坂によって面談室に呼ばれた夜月。


「テストで酷い点数でも取ってしまったのかな」


 南坂が入ってくる。夜月と南坂の口論対決が始まる。


「なんですか、南坂先生」


「なんで生徒会長を夕くんにしたの?」


「先生の能力は真実を見通せる能力ですよね?」


「そうよ、私の能力は真実を見通せる能力よ」


 南坂は夜月に口論で打ち負かされた過去を持つ。よって夜月に能力を教える羽目になってしまった。そのため夜月に能力はバレている。


「ならわかるはずですよね」


 夜月は南坂を試していると同時に南坂は夜月に疑われている。南坂が最も危険視する人物、夢城夜月。無能力者だからと言って侮ってはならない。能力Aの満たちよりも恐れている人物である。この人物は確信を突いてくるからだ。


「そうね、提案してみただけよ」


「なら本当に真実を見通せる程度の能力なら僕がなぜ生徒会長になりたくないのか言えますよね?」


「言えるわよ。この学校は悪い噂のほうが多い。そしてこの学校で生徒会長になってしまうと歴代生徒会長の名前に載っちゃうのが嫌なのよね?」


「疑問形ですね、自信がないんですか?」


「私は自信があるわ」


「先生はよく自分に言い聞かせますよね?何か暗示をかけてませんか」


「ど、どういうことかしら?」


「本当は真実を見通すなんてその程度で収まる能力じゃないってことですよ」


「ちょっとよくわからないけど…」


「まだとぼけますか、それともそんなに隠したい能力なんですか?」


 夢城夜月は危険である。それは能力的意味ではない。直観的な根本的な意味でだ。この人物は話せば話すほど真実がバレてしまう。逃げ出したくなったが夜月の追撃は止まらない。


「人間は強すぎる能力は隠したくなりますからね。普通言いませんよね、先生は頭がいいので強い能力は流出したくないのは分かります。見た目は子供ですけど」


 夜月は仕掛けた。南坂の弱点は外見を攻めること。これによって南坂は冷静さを失う。


「君も男の割に小さいわね」


「僕より小さい人に言われたくないですね」


 夜月の挑発によりどんどんと夜月のペースに持っていかれる。


「その気になれば大きくなれるわよ」


「なるほど、冗談で言っているようには聞こえませんでしたね。能力でですか?」


 夜月のペースに持っていかれた南坂はついペースを乱して冗談で言っているわけではないことすら夜月の前ではバレてしまった。夜月以外の人物であれば冗談で言っているのだろう、なれるものならなってみろと鼻で笑われ終わりだろう。しかし夜月は冗談で言っていると取らなかった。


「そんな能力があればいいわね…」


 ここで南坂は必殺技を夜月にお見舞いした。南坂はアイドルだけでなく女優もしている。南坂の演技力が試される。


「大きくなりたいんですか?」


「なりたいわね」


「なるほど、あまり感情がこもってませんね。まるでいつでもなれるような言い方ですね」


 またしても気を抜いてしまった南坂は夜月に確信を突かれつつある。


「本当の能力は何ですか?」


 まるで夜月による説教を受けた気分になる南坂。


「ちょっと待って、携帯が鳴ってるわ」


「本当ですか?見せてください」


「名前が載ってるから無理ね」


「その作戦、前も僕と話してて能力のこと聞かれたら使ってましたよね。そうですか、そんなに僕と話すのが嫌なんですか…せっかく二人きりで話せたのに悲しいですね…」


 夜月の作戦、南坂は案外優しい。夜月は別に俳優ではないが悲しむそぶりを見せることによって南坂は放っておけなくなる。そして罪悪感に見舞われる。


「いや、そういうつもりじゃなくて…」


「僕に能力も教えてくれないんですね…僕は無能力の役立たず…そうですか、そういうことですか…無能力者に生きる価値もないんですね…」


「わ、分かったわよ。私の本当の能力は能力を変化させる能力…」


「僕の目を見て言えますか?ならもともとの能力はないことになりますけど」


「え…」


「嘘を吐く人って目を合わせられないんですよね、バレバレですよ」


 南坂は周囲を見渡しながら小声でつぶやく。


「私の能力は教師ですら、校長ですら真実を見通せる能力ってことにしてるのよ」


「本当みたいですね、それで、その能力って何ですか?」


「企業秘密よ」


「なるほど、そっち系ですか」


「そうそう、子供にはまだ早いわ」


「それで逃げ切ったつもりですか?」


「え…」


「僕に話合わせて逃げ切ろうとしましたよね?」


「し、してないけど…」


 満のように力でねじ伏せるタイプの人物は南坂にとって敵ではない。他の教師や校長ですら南坂の口論には外見を攻めない限り勝てない。しかし夜月は別格だ。校長、教師では歯が立たないほどの口論の持ち主。夜月が慕われる理由の一つに圧倒的会話力で相手をねじ伏せる、というのがある。見える暴力よりも見えない言葉のほうが恐ろしいことを改めて思い知らされている。

 夜月は無関心なことが多いが興味を持ってしまうと引くことを知らない。夜月は南坂の能力に興味を持ってしまった。夜月に引きの一手はない。


「言えないんですか、そうですか、これは校長に報告する必要がありますね」


「そ、それは…」


 会話の主導権は先生ではなく生徒の夜月が握っている。余計な弱みを握らせたことが裏目に出て夜月の武器となった。

 夜月は言葉だけで実際本気で校長に報告するつもりはない。


「では、校長室に行ってきます」


 夜月は行く素振りを見せ様子を伺った。


「ちょっと待って、そういえばあれよ、生徒会長にならなくていいからそれだけは」


 南坂は夜月に敗北した。残念ながら佐紀は生徒会長に名乗り出るという理想も夜月という壁により打ち壊された。ちなみに南坂と夜月は何度か対談をしている。5回目くらいだろうか。南坂は全敗している。

 しかし、夜月は提案をしてきた。


「ならこうしましょう、僕に本当の能力を教えてくれたら生徒会長になってもいいですよ、立候補するだけですが」


 究極の二択を求められた南坂。


「うっ…そう来るのね」


 夜月という人物を生徒会長に立候補させれば佐紀も生徒会長に立候補してくれる。さらにあの夜月に実際は夜月の提案だが生徒会長を立候補をさせれば表上あの夜月に口論で勝利した初めの一人になれる。これはテスト5教科100点満点取ることよりも難しいレベル。危険な賭けだが夜月という人物は決して裏切らない。約束は守る。汚い真似はしない人物なのは知っている。


「絶対に言わないって約束できる?」


「はい、言いませんよ」


 夜月はその能力を聞いた後二人だけの秘密ができましたね、と言ってわからせるつもりだったが南坂から聞かされたその能力によって逆にわからされた。嘘の色はなかった。聞いた瞬間全く動じることも怯えることもしなかった夜月が震えだした。

 夜月の様子を見ていた南坂。あの夜月が震えている。頭が良ければ頭がいいほどその能力の恐怖を思い知るだろう。立場は逆転した。


「言わないわよねぇ」


「はい…言いません」


 夜月の反応があまりにも面白かったので今まで得意の口論で夜月に敗北し続けていた南坂は仕返しを始める。


「言ったらどうなるかわかってるわね?」


「絶対に言いません…」


「あれ、さっきまでの威勢のよさはどうしたのかしら?」


「……」


「その気になれば生徒会長にもできるのよねー」


「そう、ですね」


「私がC組に入ったのも満と佐紀が仲悪いの知ってたからC組に入るようにしたんだけどね、私の能力で。君に比べたら佐紀と満なんて可愛いものだったわ」


「言いません…」


「なんか可哀想になってきたわ、まあ言わなければいいのよ、生徒会長、夕くんから夜月くん、頼んだわよ」


「はい…」



 夜月は南坂という人物がこの学校を、下手をすればこの世界そのものを支配しているのに等しい能力の持ち主だということを聞かされてしまった。その能力はあり得ない能力だが嘘の色はなかったのだ。

 震えが止まらない夜月。


「僕たちはいつでも南坂先生に刃物を突き刺される直前の状況といっても過言ではないな…この僕が考えていることもその気になれば全てわかるのか…支配者じゃないか」



 実質会話の主導権は夜月が握り南坂は夜月を生徒会長立候補者に、夜月は南坂の本当の能力を聞くことができたため引き分け。ただし次からこの様子だと夜月は南坂の何らかの恐るべき能力を聞かされ逆らえないだろう。



恐怖に怯えながら面談室を後にする夜月を見守っていると書道部の結利とすれ違った。

 この人物にも南坂は夜月と同じく何度も打ち負かされている。さらに佐紀とは五分五分、千奈津とは言葉が通じないという意味である意味やりにくい相手。そのうち夜月はもう逆らうことはないだろう。こうなれば次に危険視していた結利こそが一番の南坂にとっての天敵となる。


「どうしたのですか、南坂先生。そんなに勝ち誇った顔をして」


 どうやら顔に出ていたらしい。


「大したことはないわよ、夜月くんを生徒会長に立候補させることに成功してね」


「はい?南坂先生がですか?」


「そうよ、私の話し合いでよ」


「夜月さんに何の能力を使ったのですか?」


 どうやら南坂が本気で夜月を言いくるめたと信じてもらってないらしい。


「能力は使ってないわよ、正当によ」


「南坂先生ごときが口論で夜月さんに?勝てるわけないじゃないですか。わたくしでも勝ったことがないのですよ」


「なら明日、夜月くんを見てればいいわ。生徒会長に立候補するから、犠牲は大きかったわ」


「なるほど、相当汚い手を使ったのですね。正当な行為でなく邪道な行為で。南坂先生はアイドルでもありますからね、その気になれば簡単に脅せるというわけですか」


「どういうことかしら?」


「わたくしも使ってみましょうか、確かにわたくしの集めている漫画でありましたね。その方法なら確かに弱みは握れますね。男子にしか通用しませんが」


 どうやら結利は何か勘違いをしている。


「よくわからないわね」


「わたくしもその考えを忘れていましたよ」


 何かを勘違いしている結利との会話を終えた。



 佐紀はB組を中心にC組も含め今回の昼休みの騒動の主犯を探るべく一人一人能力を探り見していた。


「こんな能力じゃ無理だな、これでもねぇ。熱風のヤツも氷のヤツも見つからねぇな」


 C組に能力が通じない、または能力がわからない人物が何名かいた。通じない人物は無能力者ということだ。能力がわからない人物は恐らく証明のしようがない能力者。


「あの暑さとあの氷だ。証明のしようはあるはずなんだよなぁ」


 佐紀はまた一人黒いフードの男を探ったが能力が通じない、無能力者。しかしその人物に見覚えがあった。


「お前夜月か」


「や、やぁ…」


「めちゃくちゃ寒そうだなお前」


「いつでも凍えてしまうかもね」


「C組の能力に関してはお前か南坂に聞くのが一番早い」


「おいやめろ、南坂先生だろ」


「どうしたお前、お前らしくもねぇ、なんかあったのか?怯えてるように見えるが」


「さ、寒いだけさ」


「そうか、熱風を放出する能力者でもいれば熱くなれるがな、そういえばお前生徒会長になったりしねぇのか?」


「なるさ…僕がなるさ…」


「は…?」


 それは休み時間、ダメ押しで南坂に自分が提案したこと。夜月を生徒会長にするなら自分もなってもいいと。つまりあの夜月が南坂に口論で敗北したことを意味する。


「南坂をなんか恐れてるな、お前何された?」


「現実を突きつけられただけさ」


「お前がわからせるんじゃなくてわからせられたのか?」


「そういうことさ…」


「お前が負ける構図が想像つかねぇ…夜月が生徒会長に立候補したらあたしもなるって言っちまったじゃねぇか。ちょっと待て、もう一人入れて話し合うか今後を、あいつは帰ってるだろ」


 そういうと佐紀と夜月は書道室に向かった。

 一人の少女が字を書き終わるのを見ると佐紀が話しかける。


「おう、夜月と一緒に来たぜ。月、か。綺麗な字だな」


 少女は佐紀と夜月が見ていることに気が付かなかったのかびくりと震えて佐紀と夜月を確認する。


「貴方たちですか、何の用ですか?」


「ちょっと来てくれ結利」


「今は字を書いているのですが…それよりも夜月さん、南坂先生ごときに口論で負けたって本当ですか?」


「や、やめろ、ごときとかいうんじゃないよ」


「相当脅されたんでしょうね」


「そのこともあって作戦会議だ、場所を変えるか」


 書道室から出た佐紀、夜月、結利。


「南坂と夜月の件で夜月とあたしが生徒会長に立候補する羽目になっちまった」


「別に権限は変わりませんしいいんじゃないですか?そんなことよりどんな手を使ったんですか南坂先生は」


 佐紀、結利、夜月はもともと組んでいた。


「口止めされていてね」


「そこは後々わかるだろ、あたしは生徒会長はしたくねぇぜ」


「僕もしたくないね、あくまで立候補はするけれど」


「結利、お前の結利勢力を使って全員A組に票を集めろ」


 佐紀と夜月は生徒会長などどうでもよく退学などまるで気にしていない。


「なら叶里を使って僕も一年生の票をA組に持っていくけど、叶里は自分の能力を使っている気がするな、あまり信用性がない」


「叶里の能力だと?」


「彼女は人望はDだからね、洗脳のような能力を使ってる気がするな」


「使わせてしまえばいいのでは?」


「あまり汚い真似はしたくないな、生徒会長候補してしまう僕が行くのもおかしいことだし結利が妥当なんだけどね」


「わたくしが一年生を懐柔しろと?」


「叶里は能力を使っている気がしてならない」


「ならわたくしが行きましょう」


「おう頼むぜ、あたしは今回の熱風を放出する能力者と氷の能力者を探ってくる」


 夜月と結利が取り残された。夜月は危機を感じる。結利は夜月と二人きりになると何をしてくるかわからない人物である。

 結利は携帯を取り出した。


「夜月さん、つまりこういうことでしょう?」


 結利は急に夜月の手を掴んでその手を自らの胸に触らせた。


「何をしているんだ」


 携帯で結利はその光景を写真に収めた。


「こうしてしまえば勝ち目のない南坂先生でも弱みを握ることができる上に脅しにも使える、つまり夜月さんは南坂先生に逆らえない、ということですね」


 結利は完全に勘違いしている。


「そういう意味ではないね」


「では、なぜ負けたんですか?裏がありますよね?教えてください」


「それは口止めされててね」


「ならこの写真をばらまきましょうか、確か痴漢というのでしたね」


 急に写真を武器に結利は主導権を握り始めた。ただし夜月はその件に関しては動じない。


「別にばらまくといいよ」


「あら、いいのですか?」


「その写真をばらまけばA組と結利派の人間は僕を見損なうだろうね。でもC組と中立のB組はどっちの言い分を信用するかな?」


 結利は南坂より口論が強い上に圧倒的武器を持っているため夜月が不利である。


「こういう問題は男性より女性の方が有利なんですよ、読んだことがあります」


「そうだね、君の方が有利だ。でもお嬢様で上品で優雅で美しい君が痴女だったと僕は言うことになるけれど自分の立場も危うくなると思うけどね」


「痴女?よくわかりませんが、ですが触られた事実はありますよ」


「触らせた事実もあるけどね、それに僕や君のように慕われている人間は常時監視されているようなものだ。監視系の能力者でも今この場にいたら君に言い逃れできるかな」


 夜月は不利にも関わらず自ら攻めに転じた。そしてありもない嘘を語る。


「僕がなんでこんなに冷静なのかわかるかい?僕にはあらかじめ監視役を付けていてね、南坂先生の時は外したけれど、その人物は女性でさらにはあったことを再現する能力。それが証明さ」


 そんな能力者はつけていない。夜月の単なる嘘である。


「その気になれば僕がその人物を使って画像ではなく動画化して再現させられるけれど、それでもまだ続けるかい?」


 さらに結利も嘘を吐く。


「わたくしには嘘を見通せる能力を持つ監視役が結利派閥にはいましてね。その嘘もお見通しですよ」


「本当を捏造させるの間違いじゃないかな?その話が本当なら痴女という証明になってしまうね。確か君は数々の人間を振っているらしいね」


「それは貴方も同じではないですか」


「興味がないからね、君には本名がいるらしいけどその本名が君が実は痴女だったと知ったらさぞ悲しむだろうね」


「痴女という少女がいるのですね。その人間は、わたくしはその人間の一番のライバルとなり一番の信用を勝ち取り全てにおいて一番の座に就かなければならないのですよ」


「なら、他人の僕が君の胸を触らせたところなんて目撃したら逆効果じゃないか」


「触らせた方がいいじゃないですか、難しいものですね。よくわかりませんね、この分野は。まあいいでしょう。その相手の怒りを買いたくないですからね」


 勝負は話がそれたことでなのか収まった。

 書道室から結利を呼ぶ声が聞こえる。結利は書道室へ向かった。



 夜月は様々な人間と口を武器に戦ってきたが一番の強敵は結利だと思っていた。しかし、それを覆す次元違いの存在を知り恐るべき存在は南坂へと変わった。


「A組、B組、C組、満勢力、結利派閥、そして僕たち、か」



 たまに記憶を忘れさせる能力が使えなくなる静美。

 能力の使い過ぎなのかもしれない。さらには記憶を忘れさせたのにもかかわらず戻っている。誰かが記憶を戻している。その人物を止めなければならない。そうしなければ同じことの繰り返しだ。記憶を忘れさせる、とよみがえらせる、とでは元の状態から変化させる忘れさせる、のほうが力の消費が激しい。


「私は生徒会権限だけの記憶を忘れさせないといけない。そうすれば退学者は0になる。この無意味な争いを止めるために」



 記憶を蘇らせる能力の持ち主、結利。部活は終わった。またしても一部の記憶だけ消えている。


「無駄なことを、記憶を忘れさせれば忘れさせるだけ無意味なのですよ、いつか思い出すのですから。いっそのこと蹴りを付けたほうがいいじゃないですか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自由翻弄学園 @sorano_alice

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ