第4話 起こりうる可能性

 生徒会長権限が下された今日この日。午後1時。帰宅することを命じられた。それほど異例の事態だったのだろう。

 一年生陣、先ほど性格が豹変していた礼香は今は普通である。どちらが普通なのかはわからないが。


「子羽様、Cクラスの夕という人物を見てきましたがあまり向いているようには思えませんね」


「そうですか礼香。では誰が向いているように見ましたか?」


「夜月さんですね」


「そうですか、では私の精霊で調べておきましょう、行け、ルナリー」


 子羽から飛び出てくるのは黒いカラス。しかし精霊である。名前はルナリー。赤い目をしている。



 3年B組の宮蛹。下校途中夜月と夕に遭遇した。


「生徒会長ですか」


「君は?」


「僕は夢城夜月です」


「俺は深紅沢夕です」


「ふぅん、君たち何組なの?」


「C組ですけど」


 蛹は3年C組を恨んでいたためつい衝動で無関係の2年C組に能力を使ってしまった。


「あ、間違えた」


「うわ、なんだこの人、逆らえねぇ」


「怖いね」


 夜月も怖がっているがそこまで感情は表に出ない。


「ごめんごめん、ついね。その能力時間がたつと切れるから気を付けてねー」


 好き放題して夜月と夕の元から去った。

 夕は変な人物を目撃した。その人物は高校から出てくる。


「おい夜月、あの子怪しくないか?」


「黒い服装に黒いマスクに黒い帽子に黒いサングラス、不審者だね」


「でも俺たちの高校から出てきたぜ」


「背も小さいな。今年入った一年生の子かな」


「小さすぎないか、どこ行くんだあの高校生」


「まさか追いかける気かい?面倒だね」


 夕の興味本位により追いかける羽目に。なぜか居酒屋の前にいる。


「もう帰らないかい?夜で暗いよ。追い出されるに決まっているだろう」


「そうだな、なんか謎の組織とかと繋がってるかと思ったけど」


「時間を無駄にしたよほんとに」


「悪い悪い、でも気になるだろあの格好」


「未成年の時点でアウトだよ、僕は帰るよ。明日と明後日は休みか」


「おう、夜月は部活入ってなかったもんな」


「そうなんだよね、なのに僕は学力がAなんだよね。部活に入ってる入っていないは学力数値に関係ないのかもしれないね」


「確かに俺は部活入ってるのにCだな」


「もっと根本的な何かを見ているんだろうね」


「そこも来週話し合おうぜ、じゃあな」


「また来週だね」


 夜月と夕は知らなかった。この不審者のような格好の小さな人物が自分の教師である南坂香帆であるということを。



 南坂はアイドルということもあり学校以外では不審者のような格好をして自分を隠しておりたまに警察に捕まりそうになることがある。いつも休日になると立ち寄る居酒屋に入った。小さいが常連らしく特に子ども扱いされなかった。


「私は酒に強いから」


 マスターと話す南坂。


「今日出されたんですよね、生徒会権限」


「まあそうね、くだらない内容だったわ」


 特にその口調に焦りはない。数時間話しているものの全く酒を飲んでも酔わない南坂。相当酒に強いのかもしれない。午後11時まで飲み続けることになる。

 南坂は夜月率いるC組担任兼歴史の教師。彼女は飲み終わると自宅に帰る。生徒のことを第一に考えている、とある生徒のことを。


「そろそろ能力解こうかしらね」


 どうやら知らない間に能力を使っていたらしい。

 急に壁にふらつき激突したかと思えばタンスにぶち当たり机に倒れ伏した。


「なーにがちびだこんにゃろー、舐めやがってー、子供じゃないわい」


 急に愚痴りだした。実は酒に相当弱い。


「こっちはなァ、稼いでんだよーちびちび言いやがってー。その気になったら私だって大きくなれるんだからなァ」


 南坂の能力は不明。さらに生徒ではないため数値というものも存在しない。


「だいたい退学なんてどうでもいいんだよォ、満と佐紀は仲悪いからなァー。二人がいないC組の担任になることで担任のボーナスあるし満も佐紀もCクラスじゃないし人数少ないし後処理楽で助かるわァ」


 完全に南坂の思惑通りに事が進んでいたらしい。


「問題は来週だなー、あの子を抑えないと全員死んじゃうからなぁー。2年A組の大半は確実に」


 南坂は予言でもできるのか何者かを恐れている。A組を仕留めるということはB組、C組の犯行の可能性が高い。さらに言えば2年生なのかも謎。恐ろしい生徒会権限を出した3年生陣、または二重人格の礼香たちがいる1年生陣かもしれない。


「あんまり使いたくないけど見とこー」


 南坂は見た。起こりうる可能性を。


「なるほどなぁ、でも時間がわからねぇんだよなぁ。死者は出ないなら私の出る幕はねーわ。下手に出て未来変えちゃって死者が出る可能性もあるからなぁ。ま、私がその気になればどうにでもなるけど好きにさせてみるかぁ」


 それだけ言うと酔いの限界なのか眠ってしまった。



 とある人物は写真を見ている。そこには2年A組の生徒全員の集合写真。その写真だけを破った。粉々になるまで破りまくった。

 壁を思い切り叩く。その人物は鏡で自分の姿を見ていた。その鏡を思い切り割った。当然映っていた自分の姿も見えなくなってしまう。

 相当2年A組を恨んでいるのかそれとも生徒会長の座につかせないために最初のターゲットは2年A組が選択されたのか。いずれにせよ2年A組は何者かに狙われている。



 この月曜日、南坂が見てきたであろうその人物は同じ行動を取ることになる。生徒会権限の時以上の波乱が起きるであろう今日この日。何も知らない生徒たち。授業を受け休み時間。



 B組の佐紀は歴史を終えると南坂に話を持ち掛けた。


「おい南坂」


「先生でしょ、どうしたの?」


「生徒会長の座、B組としては勝ち目がない」


「そう、それはC組の担任の私じゃなくてB組の担任に相談したら?」


「結利だ、あたしは結利側だ。これで信じるか?」


 佐紀はどうやらB組なのにA組の結利派閥だったらしい。


「わかってるわよ、私の能力は真実を見通せる能力」


 南坂の能力は真実を見通せる能力らしい。予言ではなかった。


「でもおかしいんだよな」


「そんなに私の能力が欲しかったの?能力者は能力を一つしか持てない。私の能力を盗むために一度自分の盗む能力を手放して私の能力を自分のものにする。その気になればある意味何個も一つだけど持つことができるわね」


「なんであたしの能力知ってるんだ?」


「大前提私先生だから全員の能力把握してるわよ。それに私の能力は真実を見通す能力。嘘も通じないわ」


「じゃあなんでだ?なんでC組の能力は不明なんだ?」


「なるほど、C組の目を盗んで盗み見したわけね。えぐいことしたわね」


「あたしはてっきりテストの点数が悪いやつがC組行きだと思ってたんだけどな」


「だからわざとC組に入るためにテストの成績を落としたと?何点でも入れることをいいことに。でも実際は違うわ。無能力者か証明しようがない能力だからよ。私の前では無意味だけど」


「全てお見通しか。だがあたしの能力で真実を見通せる能力を盗めない。二つも能力を持てるのはあり得ないしなんなんだ」


「そんなことよりB組としては勝ち目はないのね。つまらないわ」


「つっても面白そうな障害が現れたぜ」


「ふぅん、生徒会権限の記憶だけ消失させてる訳ね。無知は怖いわね」


「満と結利と夕、一人役者がおかしいだろ?」


「はぁ…そういうことね、君もその役者に入ったら?だからC組の私に相談してきたわけね」


「あたしは傍観者だ。夜月と満と結利のやりあいが見たいんだよ。夕は引っ込んでろってことだ」


「確かにそうね、満はともかく結利に敵う相手なんて夜月くらいしかいないわね。その茶番に付き合ってあげるわ。夜月がなんで生徒会長にならないかも私は知ってる。だからこそ一筋縄でいかない上に口論で彼に打ち勝つのは相当厳しいのよ、だから条件つけるわ」


「そうなるわな、なんだ条件って」


「君もこの茶番の役者の一人になること、それならいいわよ」


「支持率ねぇだろうけどな、いいぜ、じゃあ約束な」


「厳しい約束受けてしまったわね…そこらの先生言いくるめるより厳しいわ」


 佐紀と南坂は勝敗などまるでどうでもいいように戦いをただ楽しんでいるようにも感じる。


「放課後に話すとしてまず最初の問題は昼休みね。あの子が暴走しちゃうから」



 2年A組。満勢力と結利勢力がいるなど全く把握していない満、舞。満を敵対視している結利。誰の下なのかわからない千奈津たちは作戦会議をしていた。


「俺が生徒会長になるか。生徒会権限で雑務は他のヤツがやるってことにするか、これなら舞は副会長になってもいいだろ?」


「それならいいですよ」


「はぁ…野蛮野蛮」


「ふむふむ…」


「結利は書記とかならいいだろ」


「わたくしは生徒会役員そのものに入りませんから」


「なら主将枠でも埋めろ」


「副主将ならいいですよ、書道部の副主将なら」


「3点しかねぇじゃねぇか」


「埋めているのですからいいじゃないですか」


「千奈津は、生徒会役員するにもお荷物だな。部活にも入ってねぇじゃねぇか使えねぇ」


「私は帰宅部…」


「使えねぇよ」


「帰宅部のあんたに言われたくない…」


「舞は合唱部か、主将だな」


「掛け持ちですか」


「退学阻止のためだ」


 A組は満を筆頭に動き出していた。



 C組は夜月が制している。叶里はC組にいる数少ない能力者。ただし能力の証明のしようがないため能力は不明扱い。洗脳に近い能力を持っている。


「夜月どうする?多分A組は満かな、結利だったらきついけど」


「まず俺で勝ち目あるのか?」


「焦る必要はないよ、勝手に潰れてくれるだろう。僕は生徒会長になる気はないしね」


 全く緊張感がない夜月。まるで全てを見通しているようだ。


「夜月って無能力者だよね?」


「なんだいいきなり?僕は無能力者ということになっているよ」



 授業も終わり、訪れる昼休み。起こりうる可能性は起きてしまう。

 2年A組の結利は後ろ側のドアからトイレに向かった、それについていくように千奈津は結利についていく。千奈津は満ではなく結利側なのかもしれない。このおかげで二人は助かることになる。

 千奈津の行動は謎が多い。結利と共にトイレに向かうと思ったが外側を通ってB組に向かった。佐紀を見つけたからだ。

 続いてB、C組に近いA組の前側のドアから千奈津はものすごい暑さを感じ取ったためドアを閉めた。そして佐紀と合流する。結利より佐紀を慕っているのかもしれない。すでにA組内部では事件が起きていた。


 結利が出て行ってからだろうか、ものすごい暑さを感じるAクラスの人物達。


「なんだこの暑さ、おい、窓開けろ」


 満の声に生徒は窓を開けるが夏にもなっていないのに夏以上の暑さ。満は察知した。何らかの能力が発動していると。だからこそ張った。満の能力。能力を無効化する能力を。しかし熱い。いくら能力により暑さを無力化したところでその熱風を、酸素を吸わなければ息ができない。

 A組の生徒たちはA組の教室から出ようとしたが結利が出たドアは閉まっていた。開かない。さらにB、C組に近い方のドアもなぜか開かない。A組の生徒が次々にバタバタと暑さに耐えられなくなり倒れていく。


 B、C組達はA組の教室の異変に気付く。


「おいなんだあれ、A組のドアから窓ガラスまで凍ってるぜ」


「何してるんだ?寒そう、開かないし」



 トイレから戻ってきた結利がA組の教室に入ろうとしたがドアが凍っている。入れない。


「なんですかこれ」


 外から様子を見ると何人か倒れているような光景が見えた気がする。


「凍えてませんか?何を考えてるんですかね満さんは」



 一方、佐紀との合流を果たした千奈津も結利とは違うほうのドアから入ろうとするも凍っていた。開かない。


「……?」


 中を覗くと最後の一人が倒れる寸前だった。



 A組内部で最後の一人にまで倒れなかった人物は意外にも満ではなく舞だった。


「私の能力は約3割程度ですが自分に対するダメージを軽減する能力…暑さを軽減しましたが…ですが…この暑さはもう…無理ですね…」


 最後の一人も倒れた。



 この大事態にもちろん佐紀も気づいた。


「おい、A組全員倒れてないか?満の仕業か?いや、あいつも倒れてるわ」


 佐紀は考える。A組の満たちを貶めようとしたB組またはC組だと。これによって生徒会長の座はB組、C組に希望ができる。


「A組を再起不能にするって作戦か、あたしらB組で生徒会長の座を譲るに反対したやつの可能性が高いな、C組は生徒会長が夕だからな、警戒すらされてないんだろうな。夜月の狙いはこれか?夜月が生徒会長に名乗り出ればC組が狙われる。それを避けるために夕を使い捨てにした、って線はあるな」


 ただしC組の連中の可能性もある。


「C組がした場合は夜月が主犯ってことになるな。夜月がこんな汚い真似するとは思わないがC組で夜月を裏切る人間って発想はなかったな」



 夜月もA組の光景を見たが特に表情は変わらない。驚くそぶりも見せない。


「何してるんだいあれ」


「いや、俺にもわからねぇけどあれやばくね?人倒れてるし」


「大変だね」


 他人事のように夜月はその光景を見守っていた。



「遅かったわ」


 現れたのは南坂。もちろんこの状況が起きることは把握していたが時間がわからなかった。そして犯人も知っている。しかしその主犯の気持ちもわかるためどう動くべきか迷った。


「懲りてくれたらいいんだけどね」


 結利が南坂に話しかける。


「どうなってるんですか南坂先生」


「問題ないわ、この氷は全て溶けるわ」


 言っているうちに氷は解けた。術者が解いたのだろう。


 結利はA組の中に足を踏み入れた瞬間物凄い寒さではなく暑さに倒れそうになる。


「熱いんですか…寒いんじゃなくて」



 佐紀もA組に入ってみようとするも入った瞬間物凄い暑さに胸が焼けそうになる。


「なんだこれ、寒いんじゃなくて熱いのか。つまり氷を使う能力者と熱い空気を放出する能力者二人による犯行か…対になる真逆の能力で組んでるわけだな」


 急に暑さが消えた。暑さを放出する能力者も術を解いたのだろう。


「二人の犯人を見つけ出さねぇといけねぇな。A組で生き残ってるのは千奈津と結利だけか。この二人で組んでする意味ねぇしな。B組同士かC組同士の二人組。もしかするとB組とC組の二人組の可能性もあるな。あたしの能力の出番だぜ、熱風を放出する能力者、氷を操る能力者、そいつの能力を盗み出す。そいつが犯人だ」


 佐紀の犯人探しが始まる。


 この日、結利と千奈津以外のA組の生徒は早退扱いになった。



 この日の終礼。C組。南坂から夜月に声がかかる。


「夜月くん、放課後話があるけどいいかしら」


「僕が何かしたのか?わかりました」


 よくわからないが夜月は南坂と話すことになる。



 A組はほぼ壊滅。結利と千奈津、この二人だけの環境を創り出した可能性も考えられる。

 B組にはおそらく佐紀目線的に一番今回のA組騒動の主犯者がいると企んでいる。

 さらにB組には記憶を忘れさせる静美がいることを忘れてはいけない。彼女の存在は佐紀にとっては大きな障害。ただし、能力者は能力を一つしか持てない。よって静美は主犯者ではないため今回の犯人捜しの件からは除外される。

 C組では生徒会長の件を夕から夜月にするという南坂に課せられた課題を達成しなければならない。この課題が達成された場合佐紀はB組の生徒会長を名乗り出る。


 佐紀は犯人を見つけられるのか。

 南坂は夜月を説得し夜月を生徒会長に名乗り上げさせ佐紀を同じ生徒会長に名乗り上げさせることができるのか。

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