第3話 探り合い

 2年B組の世来静美は決心していた。この混乱騒動を止め、退学者を出さないために。それができるのは静美の能力でしか不可能だと思ったからだ。


「私は能力を乱用する…使いすぎると意識が途切れるかもしれない、でも構わない、退学者を出させないために私は…」


 静美は自らの能力を発動した。


「はぁ…はぁ…全員に…全員に能力を使わないと」



 満は考えていた。A組の生徒会長を誰にするか。答えは出た。その人物はA組の中でも一番成績が優秀な人物、その人物に向かう。


「おい結利。お前生徒会長やれ」


「なぜわたくしが生徒会長などやらないといけないのですか。もっと適任者がいるでしょう」


「お前は成績優秀だしな」


「それを言うならC組の夜月さんもですよ」


「馬鹿かお前、C組に生徒会長の座を譲る気か?」


「なら貴方の隣にいる舞さんはどうですか?スペック的にわたくしの上位互換ですよ」


「確かに数値的には舞の方が上だなぁ」


「私はそもそも生徒会長に向いてないですよ」


「貴方の目的はA組が生徒会長の座を手に入れること、なら試しに千奈津さんに生徒会長でもやらせてみますか?面白い展開になるでしょうね」


「あんな馬鹿に生徒会長任せられるか、俺がやった方がマシだろ」


「あんたにだけは言われたくない…」


「いたのかよ」


「名前を呼ばれた気がした…」


「だいたいわたくしが思うにですよ、千奈津さんを使ってわざわざ一人ずつ調べなくてもこの数値を作った張本人に聞いてしまったほうが早いんじゃないですか?」


「さすがは成績トップだな、となると生徒会長か?行くか」


 満と舞、おまけに千奈津は3年生の教室に向かう。


「やっとうるさいのがいなくなりましたね」



 3年B組では宮蛹を筆頭に賑わっていた。A組とC組の姿はない。

 そこに現れる満たち三人。


「おい、生徒会長殿よぉ」


「おー、2年生くんたち、どうしたのー?」


「この数値作ったのは生徒会長だよな」


「数値に関してはあたし関与してないけど?」


「え、数値作ったのは生徒会長ではないのですか?」


「そうだよー、君の方が話しやすいねー」


「俺は話しにくいってのか」


「私は…」


「うーん、分からない。とりあえず先生なら知ってるんじゃない?」


「先公か、行くぞお前ら」


「おー…」


「あの不良くんもいじめそうだなー、恐怖でも与えておこうかなー、あれ、あの不良くんにだけは効かないねー」


 満以外の舞と千奈津は震えだした。


「どうしたお前ら?」


「こ、怖い…あの生徒会長怖い…」


「私もあの生徒会長には逆らえませんね…怖すぎて」


「別に怖くねぇけどな、能力か?イカれてる生徒会長だからな、どうやら張っておいて正解だったな俺は」


「あんたにだけにはイカれてるって言われたくないと思う…」



 満たち三人は職員室にやってきた。


「2年C組だな、C組の担任に聞くのが一番いい、あの子供だな」


 C組、夜月たちの担任、南坂香帆(みなみざか かほ)。歴史の先生で年齢は20代後半で30は行ってないらしいが子供のようにしか見えない外見。年齢のことと外見のことについて触れるとキレる。さらに現役アイドルをしている。愛称はかほりんと呼ばれているが学校でその呼ばれ方は禁止されている。


「おい、かほりんいるか?」


 すると小さな女教師が現れた。


「あのねぇ、学校でその呼び方やめてくれる?南坂先生でしょ」


「なら南坂、C組の数値全員教えろ」


「教えろー…」


「そんな態度されたらなぁ…私は先生、君たちは生徒、この立場を忘れてはいけないわよ?あと千奈津ちゃんまで真似しなくていいから、満くんみたいになっちゃうわよ」


「それだけはやだ…」


「南坂先生、3年A組とC組は本当に退学なされたのですね」


「そうね、この中では舞ちゃんが一番マシだわ」


「それでどうなんだ?数値知ってんのか?」


「知ってるわよ、A、B、C組すべての生徒の数値をね」


「なら吐け」


「吐くわけないわよ」


「立場わかってんのか?こっちには舞は能力E、戦力外だとして俺と千奈津、能力Aが二人もいるんだぜ?アイドルなんてやってられなくなるぜ?」


「こわいわー、まあこういうところが学費とか安い理由なのかなぁ」


「つべこべ言ってねぇで吐け」


「吐かないわよ、立場をわきまえなさい」


「小さいからって手出さねぇと思ってんのか」


「さっき小さいって言ったわね…」


「待ってください、本気でやりあう気ではないですよね?」


「頑張れー…」


 満は能力的にも暴力的にも一番強い人物だといってもいい。だからこそ恐れられている。さすがの先生でも彼を止めることは不可能だろう。

 南坂先生の長い髪の毛を満が引っ張ろうとしたとき南坂の一言が発せられる。


「君は私に触れられないよ」


「言い度胸だな」


 南坂は満が引っ張ろうとしていた手を躱す。


「あまり使いたくないんだけど君は危険だからね、仕方ないわ」


「甘く見てたぜ」


「君の戦意は消失され、分からされる」


「チッ、やる気が失せたな」


「立場をわきまえた?恐ろしい生徒を持つということはそれに対抗できる教師が存在するという意味、あくまでも先生と生徒、この立場を忘れないことね」


「まあいい、他の方法を探すぜ」


 南坂は満を軽くあしらった。



 結利は何か感覚を覚えていた。


「わたくしの対になる能力が使われていますね。いるのですか、共鳴しあっていますね。新たなる障害が生まれましたか、わたくしが止めなければ、誰ですか、わたくしと対の能力を持つ能力者は」


 結利は導かれるように2年B組に入ってきた。静かな教室。あんな騒動があったというのに不自然すぎる。しかし結利にはわかった。一部の記憶が消されていることに。


「何者かが記憶を消しましたか、ですがわたくしの能力は思い出させる、記憶をよみがえらせる能力。術者は諦めたのでしょうね、今回の権限で次の一年後退学してしまう、と」


 記憶をよみがえらせる能力を持つ結利。つまりその対となる能力は記憶を消失させる、忘れさせる能力を持つ能力者がいるというわけだ。

 結利の能力を発動し、記憶は蘇りまたしても2年B組は騒動になった。

 結利と記憶を忘れさせる能力者との戦いが始まる。



 2年の廊下から下級生が突如姿を現す。その人物はC組の叶里と話していたオレンジのロングの髪をした美空礼香。人間関係があまりよろしくないほうの1年生だ。服装が変わっている。黒いフードを着ている。そして叶里と話していた時の態度とは大違い。


「オイ、深紅沢夕っているか?」


「君一年だよね」


 急に現れる一年に驚きを隠せない二年生陣。


「C組ってどこだコラ」


「え、一番奥の…」


「そうか」


 礼香はC組に向かうが性格が大きく変わっている。


 2年C組、夜月や夕がいる組だ。見知らぬ一年がやってくる。


「オイ、深紅沢」


 その口調に一瞬満だと勘違いした人物もいたのかもしれない。


「え、俺?」


「お前が深紅沢か?」


「おう、まあそうだが」


「つまんねぇな、タイプじゃねぇ。オレたちはお前に票入れねぇといけねぇのか」


 完全に二重人格の礼香。叶里が見たらさらに驚いていただろう。


「まあいい、あのちいせぇのはオレに似てんなぁ」


 目を向ける先には夜月の姿。


「お前に票入れてやるんだからオレにあのちいせぇのくれ」


「どういうことだ?」


「お前が生徒会長になった暁にはあいつとオレを付き合わせろ、いいな?」


「夜月か」


「夜月っていうのか、約束覚えとけよ」


 それだけ言うと礼香は去って行ってしまった。


「はぁ疲れるねぇ、ん?どうしたんだい夕、そんな怖いものを見るような顔をして」


「夜月か、夜月は知らないほうがいいかもしれない」


「まあいい、君も早く話し合いに参加してくれ」


「お、おう、分かった」



 結利は静かに過ごしていたがうるさい満たちが戻ってきてしまった。


「戻ってきてしまいましたか、それにしても異例ですね、年に一度の生徒会宣言、それに今回は大事態、そろそろ昼食になりますね」


「なんで馬鹿の千奈津に生徒会長やらせねぇといけねぇんだよ、舞がやれ」


「確かに千奈津さんは馬鹿ですけど私は向いてません」


「私は馬鹿…」


 馬鹿と言われしゅんとする千奈津と生徒会長を決める満と舞。

 千奈津は疲れたのか机でぐったりとし始めた。


「おい結利、やっぱお前が生徒会長やってくれよ」


「何でですか、ちょっと今集中してるんですよ」


「何に集中してんだよ」


「わたくしたちにとっての障害が現れましてね」



 佐紀はA組に赴いていたが満を見つけてしまった。


「めんどくさ」


「何の用だ、B組がよ」


「まあいいか、取った」


「は?偵察でもしに来たか?」


「お前には用はねぇんだよ」


「あ?なんだとコラ」


「暴力か?あ?」


 佐紀は満を挑発する。


「あんま調子乗ってんなよ」


「振るえるもんなら振るって来いよ」


「俺の能力はAだぜ」


「だからどうした、聞いてねぇよ」


 満は軽く佐紀に暴力を振るった。


「いってぇな」


「大したことねぇな、口だけじゃねぇか」


「なるほどな、お前はこの学年の中で二番目に強いってことか」


「まるで自分のほうが強いみたいな言い方だな」


「お前の能力は防御的に最強だが防げるのは能力だけで物理的攻撃は防げない、これだけわかれば十分か、満は大したことねぇな」


「お前は能力でも探れる能力者か?俺の能力を探りに来たのか、お前の能力は戦闘向きではないらしいがな」


「せいぜい怒りを買うなよ、あたしじゃ止められねぇからな」


「何言ってんだお前」


「じゃあな」


 佐紀は去って行ってしまった。


「なんだあいつ、喧嘩売りに来たのか?まあいい、俺は生徒会長なんて面倒くせぇもんぜってぇやらねぇからな。A組なら誰でもいい、無能生徒会長も面白いかもな」


 満は千奈津を見る。


「……」


「オイ無能、お前に言ってんだよ」


 千奈津はようやく気付いたようだ。


「ん…?私?」


「お前以外に無能なんて誰がいるんだよ馬鹿かお前」


「生徒会長になる…」


「馬鹿みたいな生徒会権限出しそうだし最悪の場合だな、結利か舞だな」


「わたくしはやらないと言っているじゃないですか。それに貴方のことです。わたくしがやったところでなにかよからぬことを吹き込みそれを生徒会権限に無理矢理させるのでしょう?」


「全くやる意思がねぇな、なら誰ならいいんだよ」


「千奈津さんにしましょう」


「暴論過ぎるだろ、馬鹿に務まる訳ねぇよ、舞だな」


「私は会長はさすがに…書記とかならいいんですが」


「待てよ、俺がなっちまえばいいのか、それで生徒会の仕事は全て他のヤツがやるって権限出せばいいのか」


「そんなくだらない権限ですか、人のことを馬鹿や無能と卑下する割には貴方のほうが馬鹿ではないですか?」


「あ?なら結利、何でお前はそこまで千奈津に肩入れする?お前がもし権限を出すとしたらなんだ?」


「それは言えませんね、貴方方とは分かり合えないので」


「俺とは分かり合えなくて千奈津とは分かり合えんのか、よくわかんねぇな。どういう関係だお前ら?」


「貴方こそ舞さんとどういう関係なんですか?」


「大した関係がじゃねぇ、それよりも千奈津にやらせるのだけは避けねぇとな。今の生徒会長より馬鹿見てぇな権限出されること確定してるしな」



 佐紀は満に暴力的意味合いでは勝てないことを自覚している。しかし満の能力を探ることには成功していた。この学校では表上最強の人物は満ということになっているがそれ以上に最強の人物が存在する。数値など所詮飾りでしかない。これが佐紀の考えだ。


「妙だな、千奈津の能力の数値はAで探らせてもらった、さらに私の能力で盗んで実際千奈津の能力を使っている。暴力的に強かったとしても千奈津程度の能力でAはねぇんだけどな。もしかするとこの数値、千奈津の能力の欄までEにしてしまうとすべてがEになってしまう、だからバランスを取るために能力をAにしたんじゃねぇのか?」


 佐紀は数値に疑問を浮かべ始めている。本当にこの数値は正しいのかと。



 夜月率いるCクラス。夜月は常に冷静で1年のころからいろいろな人物と付き合いがあるため結利や佐紀、満とも面識がある。満には理不尽な暴力を振るわれたが特に満を恐れることはせず普通にかかわっていたが今回の生徒会権限だ。

 夜月、そして友達の夕ともに無能力者。夕はCクラスに関してなら人望は高い。夜月はCクラス、他クラスですら人望は高い。夜月の人望の高さは能力によるものではなく正当な友好関係である。

 ただし他クラスとの友好関係は生徒会権限により崩された。

 夜月は特に恐れたり驚くと言ったことがまるでない。だからこそ頼りがいがあるのかもしれない。今回の生徒会権限時も特に動揺はしなかった。もし彼を怯えさせることができる人物がいるのならそれは能力によってくらいだろう。能力なしで怯えることはまずない人間。

 

「なんで夜月じゃなくて夕にやらせるんだ?」


「僕にも考えがあるんだよ。それに誰がやろうと生徒会権限は同じだろう?」


「夜月のことだから勝ち筋はあるんだろうな」


「そうだね、勝つ方法はいくらでも見いだせるからね。僕は様々な人間と繋がっている」


「夕や叶里はそのCクラスの中でも一番信用できる人物なんだな?Cクラスは全員お前についていくだろ」


「裏切られる可能性も考慮しなければならない」


「なら夜月が尚更生徒会長した方がいいじゃないか、何でしないんだ」


「別に夕じゃなくても構わないんだけどね」


「叶里か?夜月がやれよ」


 Cクラスにはわからない。夕以上に人望のある上に全員が夕ではなく夜月についていくのにもかかわらず夜月は夕を推薦する。裏切られることを考慮するならなおさら夜月本人がした方がいいだろう。にも関わらず本人はしないという謎。

 その会話をAクラスの偵察なのか千奈津に聞かれていたようだが夜月は動じない。


「千奈津かい?」


「うん…夕が生徒会長…?」


「そうだね、僕たちのクラスではね」


「ふぅん…」


 それだけ言うと千奈津は去って行ってしまった。


「どうするんだ夜月、作戦内容聞かれちまった。それに満たちのいるAクラスに」


「別に構わないよ、聞かれることにも意味はあるしね。隠すことは隠すけど」


 Cクラスは夜月の思考についていけない。



 AクラスはCクラスの生徒会長候補が深紅沢夕という情報を入手することに成功した。


「夕かよ、夜月じゃねぇのかよ、ますます敵じゃねぇな。夜月なら警戒する必要があったが」


 結利が満の元にやってくる。


「Cクラスの生徒会長候補は夕さんなのですね、夜月さんではありませんでしたか。つまらないですね。やりがいがありません」


「Cクラスは詰んでるな。夜月じゃない時点で、次はB組を探れ」


「わかった…」


 千奈津はBクラスを探る。


 結利は席に着きほっとする。


「どうせなら最強の人物、夢城夜月さんと一戦交えたかったですけどね、夕さんの時点でわたくしたちの勝ちです。満さんでもなく、Aクラスでもなく、わたくしたちの」



 どうやらBクラスにはリーダー格というリーダー格が存在しないため質より量で攻める作戦に出た。生徒会長の座、つまりかける2倍の座は捨てる。しかしBクラスは生徒数的に有利。生徒会役員、主将、副主将、あらゆる枠を確保する。これによりいくら生徒会の二倍があっても元が小さければ倍になっても恩恵が少ない。退学にならないためには生徒会長の座を取らなくても最終的にポイントで上回ればいいのだ。


「駄目だなこりゃ、まあいいか」


 佐紀は諦めていた。その考え方自体に。


「勝手にやらせとくか、逆なんだよな。これはゲームだ。そしてこのゲームは生徒会役員も主将も副主将も捨てていい。生徒会長さえ取れば勝利なんだよな」


「うむ…?」


「なんだ千奈津か、いや、あたしはどこを勝たせることもできるからな。B組は捨てるか。Bクラスは生徒会長以外の座を取るんだってよ」


「ふぅん…」


 それだけ言うと千奈津は去って行ってしまった。



 A組。千奈津が戻ってくる。B組の作戦内容を満に伝える。


「なるほどな、ポイントで勝つ気か。確かに生徒の数も多い。C組はそもそも夜月じゃなくて夕が候補で勝ち目しかねぇ。B組は生徒会長自体捨てた。生徒会長はA組のもんだな、問題は生徒会役員と主将か。副主将は捨ててやる」



 ほぼ生徒会長の座はA組のものとなった。

 そして生徒会役員、主将をB組とめぐることになるA組。

 生徒会長の座自体を捨て、生徒会役員など他の座に全力を注ぐB組。

 夜月により夜月自身ではなく夕を生徒会長に挙げる何を考えているのかわからないC組。


 どのクラスが勝ちあがるのか。




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