第2話 企む者たち

 生徒会権限は発令された。

 2年A組。天鳥千奈津のいるクラスだ。そこで動き出したのはリーダー格の男、赤口満(せきぐち みちる)。少し長めの染めた赤髪と不良そうなその男は圧倒的威厳を持つ。


「無茶苦茶だなぁ、あの生徒会長、何が目的だぁ?まあいい、俺たちが生徒会長の座も生徒会役員の座も手に入れる、B組とC組を潰す」


 満の隣にいる紫髪のツインテールの少女、側近だろうか、雄部舞(ゆうべ まい)。


「潰すと言われましても人数的にはB組が有利です」


「そうだなぁ、C組は数がすくねぇ、敵じゃねぇ。お前の数値見せろ、舞」


 舞は自分の数値を見せた。

・人間関係 B

・能力   E

・学力   A

・身体力  D


 人間関係と学力は優秀なものの能力と身体力、特に能力は最低クラスである。

 満は自分の数値と見比べ合わせる。

・人間関係 E

・能力   A

・学力   E

・身体力  A


 尖りすぎた数値、もっともよい数値と最も悪い数値しかない。


「いいかお前ら、絶対他のクラスに数値見せんじゃねぇぞ、1年前に見せちまったのは取り返しつかねぇけどな、これから見せたやつは俺が潰す、俺は能力A、正真正銘の能力的にも暴力的にも最強クラスということになるからな、これが証明だ」


 能力がAということは能力だけでなく暴力的な意味でも最強クラスということを意味してしまう。絶対的A組の権力者、満。

 満は一人の少女に目が行く。赤髪のロングのその少女は寝ているのか全く話を聞くそぶりすら見せない。天鳥千奈津だ。


「おい、お前話聞いてんのか?」


「ん?おー…すごいすごい…」


「お前は能力以外Eだったな、お前は捨て札だ。B組とC組を探ってこい。お前は数値を見せてもいい。お前は馬鹿だから勝手に見せそうだしな」


「あんたに言われたくない…」


「あ?」


「いや、なんでも…」


「早く行ってこい、お前の数値を交換条件に他のクラスの数値を把握しろ」


「はーい」


 2年A組による生徒会長を巡る作戦はリーダーを満にして開始されていた。



 2年B組、こちらは人数的には一番有利、しかしリーダー格と言えるリーダーが存在しない。よって混乱を迎えている。統計が取れていない。

 そんな様子を見守っていたのは佐紀だ。特に何か行動に移すわけでもなくただ見守っていた。焦るそぶりも見せない。彼女も不良の満のように威厳を持つため恐れられている部分があるため特に友達は作らない。彼女はぽつりとつぶやく。


「もしこんな制度がなければ夜月が生徒会長だったんだろうがな」


 B組、混乱していた中の一人、ベージュのロングの髪をした少女。世来静美(せら しずみ)。彼女は自分の数値を確認する。

・人間関係 C

・能力   D

・学力   C

・身体力  C


 自分の数値を見た彼女、静美は無力さを痛感する。


「私には良いところが一つもない…こんな私が役に立つなんてこと。それにもう夜月くんとも敵対関係になってしまった。私が憧れた人物に手を出すなんて真似…いっそのこと私が私自身に能力をかけてしまおうかな…」


 一人悩む静美であった。



 2年C組では夜月と呼ばれる男の指示によりその友達である深紅沢夕(しんくざわ ゆう)は動き始めていた。そんな彼の前にロングの赤髪の女性が現れる。千奈津だ。


「ん?お前はAクラスだったな、どうしたんだ?」


「数値見せて…」


「何か企んでるなAクラスは、見せないよ」


「私も見せるから」


 その質問に戸惑う。夜月というCクラスのリーダー格の人物は自分たちクラスの数値を他クラスを見せないこと、ただし相手の数値が見られる場合は見て報告することとの指示である。攻撃に徹すか防御に徹すか。


「わかった、ならお前が見せたら俺も見せよう」


 千奈津は躊躇なく数値を見せた。E、能力以外は。凹凸が激しすぎる数値。


「次はそっちの番」


「まあそうだな、俺が言ったことだしな」


 夕は千奈津に数値を見せた。

・人間関係 B

・能力   不明

・学力   C

・身体力  B


 千奈津は不思議そうな顔をしている。


「不明?」


「そうだな、俺は不明扱いにされてるな、信じてもらえてなくてな」


「ふーん」


 それだけ言うと千奈津はAクラスの方へと行ってしまった。


 夜月と呼ばれる人物の指示により1年の教室にやってくる人物。山下叶里(やました かなり)。ピンクでロングの髪をしている。彼女の目的は一年生の懐柔。あたしならできる、と夜月に対して言ったからである。生徒会選挙で投票権のある人間は2年A組、B組、C組、これだけなら全員が自分のクラスに投票して結果的に数の多いB組が有利、数の少ないC組が不利になるだろう。しかし1年生にも投票権はある。その投票権をCクラスに持っていく作戦だ。A組、B組、C組は敵対同士であるがそれはあくまで同学年に限る。


「あの、貴方は」


 叶里の存在に気づいた一年。オレンジのロングの髪をした少女。


「あたしは2年C組の山下叶里だよ、えーと、君は?」


「私は1年B組の美空礼香です」


 美空礼香(みそら れいか)と呼ばれるこの人物は1年生でも最も数が多いBクラス。


「数値見せてくれないかな?確かにあたしはC組でB組とは敵対関係、でも学年は違うから実質中立だからね」


「わかりました」


 礼香は叶里に数値を見せた。

・人間関係 E

・能力   B

・学力   C

・身体力  B


 人間関係はあまりよろしくないらしい。叶里はこの人物に能力をかけるのはやめた。


「なるほどね、でも能力は強そうだね」


「私は無能力者です」


 叶里は礼香の無能力者という言葉に嘘だと確信をする。無能力者はC組しかありえないのだ。


「どうしたのですか、礼香」


 そこにやってきたのは青髪短髪の少女。


「えーと、君は?」


「私は1年B組の射手川子羽です」


 射手川子羽(いてがわ こはね)。見た感じ礼香に慕われていそうな少女だ。同じく数値を見せてもらった。

・人間関係 A

・能力   D

・学力   B

・身体力  D


 人間関係が礼香に比べ圧倒的である。叶里は子羽に能力を使うことにした。


「子羽ちゃんは他の1年生全員に2年C組の深紅沢夕に生徒会長の投票権を使うように言わないとね」


 なぜか夜月という名前は出なかった。


「そうですね、私は2年C組の深紅沢夕さんに投票することを伝えなければなりません」


 叶里の能力、それは一種の洗脳。

 こうしてC組は1年生懐柔作戦に乗り出した。



 2年A組は赤口満、そしてその側近の雄部舞によって掌握されたかのように思われた、しかし実際は違った。


「野蛮ですね」


 お嬢様のように優雅に紅茶をたしなむ少女、長めの髪をしておりお嬢様のような彼女は特に従う気はなく他人行儀のように見守っていた。


「数値によるシステムですか」


 彼女は自分の数値を確認する。姫崎結利(ひめさき ゆいり)。

・人間関係 B

・能力   E

・学力   A

・身体力  E


 舞は身体力がDだがそれ以外は舞と同じ数値である。


「生徒会長はC組の夜月さんにしてもらいたいのですけれどね」


 この人物も夜月という人物を口にしている。しかし、C組に生徒会長を渡すということはポイントで負けるということを意味し、退学を意味する。


 結利の知らないうちに千奈津が結利を不思議そうにのぞき込んでいた。


「夜月…ふーん…なるほど」


「聞かれてしまいましたか、千奈津さんに。貴方はわたくし側ですか?それとも満さん側ですか?わたくし側ならB組を探ってきてください。まあ、いくら数値を探ったところで無意味なのですけどね。違うなら満さんの指示に従ってください」


 その言葉に千奈津はB組に向かった。A組には裏に満勢力と結利勢力が存在することを意味する。


「根本的に勘違いしていますよ?そして舞さん、なぜ貴方も気づかないのですか?こんな簡単なことに」


 満、舞と結利は敵対している。A組同士で。



 授業始まってもおかしくないが騒動のせいで未だに収まらない。佐紀はA組の生徒がやってくるのを見つけた。


「あいつはA組の千奈津か」


 佐紀は千奈津に自ら赴いた。

 千奈津は佐紀に気づく。


「数値見せて…」


「いいぜ」


 佐紀は千奈津が見せるよりも前に躊躇なく自分の数値を見せた。


「お前も見せろよ」


 千奈津も自分の数値を見せる。


「なるほどな、お前はどっち側だ?A組の連中共か?それともあたし側か?」


「佐紀側…」


 千奈津はA組の連中共、満、結利でもなく佐紀勢力に属し、A組を裏切ったことになる。それとも千奈津は全ての勢力に属し、全てを把握したがっているのかもしれない。


「わかった、なら貰うぜ」


 その会話のあと千奈津は満にはC組の夕の詳細を、結利にはB組の佐紀の詳細を伝え、満に向かって千奈津自身が言った。


「私はA組の全員の数値を把握したい…」


「なんだお前、馬鹿のくせにまともなこと言いやがるな」


「あんたにだけは馬鹿って言われたくない…私はB組でもC組でもない…だからA組の数値を把握する義務がある…」


 その千奈津の言葉に舞はごもっともな様子。


「確かに味方同士ですからね、情報を共有するのはありだと思いますよ、満さん」


「仕方ねぇ、裏切り者はいねぇだろ、そんな奴いたら俺がぶっ潰すだけだしな」


 満はA組全員の数値が記載された紙を見せる。


「おー…」


「おーじゃねぇよ、お前が聞いてきたんだろ」


「ふむふむ、なるほど…すごい…」


「他にばらすなよ、お前のはばらしていいがよくやったな千奈津。C組の詳細に不明か、これはC組は無能力者の集まりの線が見えてきたな」


 千奈津は席に着く。何者かと会話する。


「どう…?ふーん…そんなの馬鹿の私でもわかってた…B組はそういうことかー」


 千奈津はさらに何者かと繋がっている。



 ついに佐紀が動き出す。それは2年B組の生徒の混乱騒動を止めるためではない。目的地は2年C組。


「おい、夜月はいるか?」


 夜月という人物がついに明らかになる。C組の権力者。

 見た目は小柄で黒いフードを被っている。この人物は学費さえ乗り切れば問題ないと言われたその彼自身。彼こそ夢城夜月(ゆめしろ やづき)。


「なにか用かい?忙しいんだ」


「お前数値見せろよ」


「面倒くさいねぇ、まぁいいさ」


 夜月は数値を見せた。自らが数値を見せるなと言っておきながら夜月自身は躊躇いもなく見せた。その数値は以前と変わらない。佐紀、千奈津、そして彼の名前は…夜月、数値は明らかになっている。


「よし、返すか、そしてもらうぜ」


 佐紀は自分の数値は見せることなく去って行ってしまった。夜月だけ一方的にさらすことになってしまった。


「まあいいか」


 全く焦っていない夜月。


「僕はC組の生徒の全員の数値を把握しているからね」


 夜月は目を通していく。夜月は見えない何かと会話する。


「A組は凹凸が激しいクラス、B組はバランス型か…そして僕たちは不明欄があるんだね…なるほど、僕だけなのかい、人間関係がAの人物は2年生だと…A組の結利ですらBなのかい?僕は生徒会長はしたくないよ。夕に任せたからね」


 この見えない誰かは何者なのか。


 同組内でも勢力は存在した。

 A組の表の支配者、満、舞。

 A組の裏の支配者、結利。

 B組の何かを企んでいる佐紀。

 C組の圧倒的支配者、夜月。

 存在がわからないが千奈津や夜月と会話をしている何者か、これは千奈津と夜月の何者かは同一人物なのかすら不明、影すら見えない。

 どこに所属しているのか全く分からない全てを掌握しようとしている千奈津。


 生徒会長を巡る争奪戦は一筋縄ではいかない。


 生徒会長の座を手にするのは千奈津のいるA組なのか、佐紀のいるB組なのか、夜月のいるC組なのか。戦いはすでに始まっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る