最終話
屋敷の外に出たところで、クロエは足を止める。
「クロエ?」
クロエはアリスのことが気がかりだった。あの館に一人残してきて本当によかったのだろうかと。
「私……やっぱりあの子を説得してきます」
「危ないよ。きっとあの子、まだ洗脳が解けてないんだよ」
「そうだよ。何されるか……」
「村に帰りましょう。クロエ」
女性達はクロエを止める。洗脳されていた彼女達はアリスがリリムに洗脳されていなかったことも、アリスが神子であることも知らない。クロエも例外では無く、洗脳されていた頃の記憶は一切無かった。しかし、催眠をかけられる瞬間『ごめんね』と泣きそうな顔で謝られたことを、クロエは覚えていた。
「……やっぱり、行ってきます」
「クロエ!」
制止を振り切り、屋敷へと戻った。
「アリス!ごめんなさい!私やっぱり貴女が心配なの!村に帰りましょう!」
大声で呼びかけてもアリスの返事はない。クロエはリリムの部屋へ向かう。ドアの隙間から漏れ出た血はすっかり固まって床にこびりついていた。最初にアリスに声をかけにきた時と違い、部屋からは嗚咽も鳴き声もきこえない。ドアに耳を当てても物音一つ聞こえない。ノックをしても、ドアを激しく叩いても返事は無い。
クロエは嫌な予感が当たらないことを願いながら、ドアノブに手をかける。ドアが開き、目に飛び込んできた光景を見てクロエは固まってしまう。
そこには口元を血まみれにしたリリムの手を握って静かに眠るアリスの姿があり、そしてその側には小瓶が転がっていた。二人の脈はもうなかったが、手を繋いで眠る二人の寝顔は残酷なまでに美しく、穏やかだった。
吸血鬼と少女 三郎 @sabu_saburou
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