貴方が噂の勇者様ですか??

杉村つな

第1話ー青の王子と勇者育成キット(仮)ー

 この世界は、「勇者」と呼ばれる人間が数多くいる――




 国に功績を成し遂げた者、魔力がより高い者、優秀な者だと認められ者に「勇者」という勲章が与えられるのである――


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 誰にも邪魔されない太陽がちょうど一番高くに昇っている。

 一面鮮やかな緑の草原に心地よい風が吹く。


 春が近づいているのか生暖かく、横になって目を瞑ったらとても良い昼寝ができるだろう。




 激しい音をたてながら白い白馬に乗っている青年は倒れている少女のもとまで駆け寄る。


 少女の前に白馬を横に止め、飛び降り左手をに口に当て息を確かめる―――




「息はあるね。大丈夫?君、こんな所で昼寝してると悪い人に襲われちゃうぞ??」




「ん、ん~~」




 仰向けの状態になり目を擦りながら半目を開いた。




 ぐううう~~~~~~~~~~




 大きな腹音を少女が出すと青年は笑い、腰に着いているポーチから干し肉を取り出し少女に食べさせた。 


 口に入れた瞬間、目が完全に開き、干し肉を小さな両手で掴みガジガジと噛みつきながら喰らった。




「あはは、余程お腹が空いていたんだね。よく噛んで食べないと喉に詰まらせてしまうよ。


ほら、お水もお飲み」




 青年は水筒を取り出し、少女に渡した。




 渡された水筒が少女の視界に入ると、熟練されたスリ師のような速度で水筒を奪い取ると、口に当てると首を直角に曲げ、一気に飲み干した。




「ぷはあ~」




「すごい食欲だね、ご飯は食べていなかったの?」




 少女は空っぽになった水筒をそばに置き、息を整えると




「一週間くらいかな??ここが気持ちよくてちょっと寝ちゃってた」




「そ、それは凄いね、、偶然通りかかってよかったよ、、」




 青年は少女の予想外な発言に言葉を少し失った。こんな可愛い少女が一週間飲食なしで生きていたこと、この国の治安からして少女が一人で生きていけるとは考えられなかったからである。


 奴隷商人に捕まれば高値であられ、麻薬商人には薬漬けにされる。この草原にも魔物がいないわけではない。夜には魔物も活発し、少女をくらい尽くすであろう。




 もしくはーーー




 そんな思考の中―――




「実は探している人がいるの。貴方の名前はなんていうの?」




 少女の言葉により青年の思考は遮られ、少女に抱く違和感はなくなった―――




「僕の名前は、ソラ。この辺のギルドの冒険者だ」




「ソラ、、?どこかで聞いたことがあるような、」




「あ、あぁこの国では『青の王子』って呼ばれているね、、」




 少女はその言葉を聞くと目を光らせた、




「貴方が噂の勇者様ですか!?」




 その言葉を聞いてソラは目を丸くする。襟には勇者の勲章である青色と金色の装飾のされているバッチが着いている。ソラはそれを手で触り勇者という肩書きがあることに気づく―――




「そ、そうだね。この国ではそう呼ばれているね――― 君の名前を聞いてもいいかな?」




「私はハッピーだよ! その、あの、、話があ―――」




 ぐううううう~~~~~




 干し肉だけでは足りなかったのか再び大きな腹音が鳴った―――




「手持ちはもうないんだ、ここをすぐ行ったところに僕らのギルドがあるんだけどそこまで行かないか?」




「・・・・」




「そこにはご飯もあるよ」




 その言葉を聞くと目を光らせた―――




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 白馬に青年と少女が乗っている。少女は青年の腰に手を回して、青年がドキドキするような展開はなく、少女は両足を馬の胴に挟みしっかりと固定されておりびくともしない。両手は腕組みをしていてソラの背中をじっと見ている。


 この少女に聞きたいことをぽつぽつと考えながら、早くギルドに向かう。


 ギルド周辺に着くと、白馬を厩舎に入れ二人でとぼとぼと歩く。




 お世辞にも豪華とは言えないギルドに入るとウェイトレスに席を案内される。


 席に着くと二人の男女がすでに座っていた。ソラの冒険仲間である、緑髪のマリと紫髪のギメルである。




「おう、ソラ!・・・ってそんな幼女捕まえてどうしたんだ?まさか誘拐ではないよな!?」




 困惑している様子で疑問符をつける。 「違うよ!」っと反射的に答えた、




 少女と会った経緯、この娘がお腹を空かしていることを伝えると二人は納得した。




「なんだ、驚かすんじゃねーよ。っま、こんな優男にそんなことできねーとは思っていなかったけどな! お前もそう思うよな!マリ!」




「そうね、ソラに闇商売は似つかないわね。 それにしても、凄い勢いで食べるわね、


えっと・・・ハッピーだっけ?」




 物凄い勢いで次々と出された料理をたいらげている。


 伊勢海老ほどの大きなエビを一人でたいらげると、




「腹が減っているんだから当たり前だろう。それよりお前らと勇者様の話を聞きかせてくれないか」




 少女の声は、子供の声だが静かで、少し冷たい声だった。 大きな心の壁を感じ、『そこまで冷たくしなくても』と寂しくなる。


  ジョッキに入っているオレンジジュースを飲み干す―――




「ソラはずいぶんと気に入られているんだね~」




「あはは、僕でも理由はわからないんだけどね」




 『この天然は、、』っと思いつつ、マリは話を始めた




「ソラは私達の命の恩人でもあるのよねーーー」




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 薄暗い森の中、二人の男女が息を切らしながら必死に走っていた。二人の後ろからは、赤目で下顎の牙が異常に発達している体長3メートルはある巨大なオーガが追いかけていた。オーガの片手には平均男性と同じくらいの大きさのある棍棒を空気を切り裂きながら振り回している。




「ゥオオオオオオオオッ!!」




 自分の進路を邪魔している木々を次々と破壊していくーーー


破壊された木の破片が二人に飛んでくるが、他の木が障害物となりそれに当たり散らしている。




「ど、どうしようこんな所に変異種がいるなんて、、聞いてないわよ!!」




 魔物には変異種と呼ばれる強力な魔物が生まれることがある。変異種にも知能が発達したもの、魔力、性質、体格が異常に向上した者と多々いる。


 この変異種は普通の冒険者では全く歯が立たず、国が勇者に依頼をして討伐に行く。


変異種を倒すことが勇者の称号を貰うのに必要な条件である。勇者になるには最短の道ではあるがこれを成し遂げた者は誰も居なかった。




「はぁ、はぁ、、ここはなんとかギルドに連絡して応援を要請しないと、俺らだけでなはく他の村人も死ぬぞおおおおお!!」




「そんなことは知ってるわよ!! ど、うやってそこまで連絡するのよ!」




「そんなの、俺にわかるわけねええだろおおぉ!」




 全速力で逃げる二人は、薄暗い森の中の先に光が差し込んでいるのが見えた。




「マリ、森を抜けるぞ!! 抜けたら地面に火炎魔法を地面に打ち込め!」




 無言で頷くマリは持っている、出発前に奮発して買った木の杖の先端に魔力を込める。




 森を抜けると一面緑な草原に出たーーー




「マリ 今だっーーーー」




 ギメルから声を掛けられるとマリは後ろを向き森を抜けた草原の地面に火系の魔法をぶっ放した。




「シン’ゴース!!」




 放たれた魔法はオークの前の地面にあたり大きな土煙りをあげた。オークの範囲10メートルに土煙が覆った。




「今のうちだ!逃げるぞ!」




 再び全速力で逃げようと踏み込んだ瞬間、背後から物凄い重低音と烈風か吹いた。ーーー


身体が風に押し出されおよそ2メートル吹っ飛ばされた。




「ぐああっ、」




「きゃっ、」




 吹っ飛ばされた後、二人とも恐怖に怯えた表情で後ろを振り返ると、オークが馬鹿でかい棍棒を地面に叩きつけてその衝撃で土煙りを消しとばしたとわかった。




「も、もう終わりなの、、」




 マリが諦めの言葉を言った時、ギメルが持っている剣を支えに立ち上げったーーー




「マリ、お前は早くギルドに戻ってこの事を報告しろ、、その後は住民の避難の誘導をしてやるんだ、、」




「、、えっ?、、ギメルはどうするの?」




 この言葉はとても残酷だ。


 何年も一緒にパーティーを組んできているからギメルの考えは大抵の事は分かる。


 こういった危機的場面でギメルはどう行動するか。ーーー




 普段は私の事を雑に扱ったり、暇さえばあればいじめてくるくせに、たまに男らしいーーー




 ギメルは彼女に振り向くと、




「なぁに、心配する必要はねーぞ。 俺だってここで死ぬなんてごめんだからな。でも、こういうときは適材適所ってのがあんだろ。」




「で、でも、、」




 マリが口を出そうとするが、言葉を遮るそうにギメルは続ける、




「お前の得意な魔法でいち早く知らせてやれ、お前に出来るのはそれくらいなんだからよ。」




 巨大なオークがギメルに標的を絞り、目線を向ける。


片足で地面を思い切り踏み込み土煙りをあげながら突進してきた。




「マリ!!行け!!」




 泣き目なマリは風の強化魔法を両足にかけて全速力で広い草原に走り去った。




「絶対に助けるから、待ってて、、」




 心から漏れ出たことが言葉になり聞こえるはずも無いのに声を発した。




 オークのとてつもない突進を脚の間に全中をして辛うじて避けた。




「おりゃあああああぁぁぁぁ!!!」




 すぐ体制を立て直すと背中がガラ空きなオークに剣を振り下げた。ーーー




 ギメルは冒険者の中ではベテランと云われるほど腕が立つ人物であった。


 自身も剣術においては手を抜いたことは無かったと語れる自信はあった。




 しかし、ギメルの剣技でも剣先2ミリ程度しか刃が通らなかった。


 目の前の事に絶望感じ、すぐに後ろにステップをして離脱する。




 オークはギメルの攻撃が聞かないと理解したのか、ニヤリと笑っていた。




「クソッ!ニヤつきやがっって、、、」




「マリ、早く応援呼んでくれよな、、」




 泣き目になりながら、ポツリと本音を吐いた。






 ギメルが絶望した頃ーーー二人が別れてからほんの数十秒が経った頃、風を切りながらギルドに向かっているとこっちに向かっている十歳前後の少年を見つけた。


 マリは少年の下まで行き、




「ねえ、君!あっちにオークの変異種が現れたから、急いで村に帰りなさい!後、君の家族や友人にも避難してって言ってね!」




 オークがいる場所を指に刺しながら説明する。急いでいて早口で喋ってしまったのでちゃんと伝わっているか不安ではあったが、ギルドに向かおうとした。




 青髪で短髪な少年は、




「そうですか、ありがとうございます。」




 その少年は鮮やかな青色の瞳をしていたが、まるで光が射し込んでいなかった。


 声も十歳前後の幼い声をしていたが、暗い印象を与えた。




 よく見ると腰のところに大人用の長さはある剣を掛けていた。




 その少年を見て、マリはふと噂話を思い出した。ーーー


 最近、ギルドに加入した青髪の少年が次々と武功を挙げているという噂をーーー




「ね、ねえ、君ってもしかして、『青のおう、、、』」




 ぷすっ、




 マリが少年に噂のことを聞こうとした瞬間、その少年はマリが指差した方向に土を抉りながら弾丸のように超低空で飛んで行った。




「え、、、え?」




 状況が全く分からず、数秒の間混乱したが目の前で少年がいないくなっており、抉られている土の跡がオークの方に向かっっていることがわかった。




「もしかしてあの子が勇者候補の『青の王子』なの、、?」




 戸惑いながらも、少年が心配になり跡を追う事にした、




「もし、あの子が噂の子ならオークを倒せるかも、、!」




 少年が抉った道を辿りながら、全速力で追いかけた。ーーー












 「っあ、ぶねぇ!」




 倒れ込んでいるギメルに棍棒を叩きつける。それを当たる寸前でギメルは身を横回転させて躱す。


 回転の力を利用して再び起き上がり息を整える。




「あの野郎、遊んでやがるな、、!」




 変異種にここまで粘れているのは奇跡としか言えない。


 しかし、このオークは自分に攻撃が効かない事をわかったのか、必死に逃げているギメルの様を見て楽しんでいた。




「クソがぁ、なめやがって、応援が来たら打つ殺してやるからなぁ!!」




 怒りがマックスになり、剣先をオークの顔面に突きつけて、睨みながら叫ぶ。


 その行為をオークが見て怒ったのか、




「グオオオオオオオォオォォォ!!!」




 っと、怒りを買ってしまった。


 やばい、やってしまったと後悔しながらさっきとは比べものにならないほどの速さで振り下ろされた棍棒がなぜかゆっくりに見えた。


 そして、今までのことが脳裏に思い浮かんできた。




 なるほど、これが走馬灯というやつか。




 マリにも結局気持を伝えられなかったが、最後の最後で格好つけられたからいいかなと思いながら、


 死を覚悟して目を瞑った。ーーーーーーー




 ちゃんとマリはギルドにつけたのか、村人は避難がちゃんとできたのか不安になりながら、、、




 数秒間目を瞑っていたがいつになっても棍棒は直撃しなかった。


 いや、もしかしたら痛みすら与えられず一瞬で死んでしまったのではないのかと思っていると、




「あの、なぜ目を瞑っているんですか、?」




 なんだこの少年の声は、、これが死神の声なのか、以外にも子供の声なんだな、




「あの、貴方が異変種を食い止めていたんですね。その武力でよく頑張りましたね。」




 ああ、この俺を評価してくれるのか、死神ではなく女神なのかもしれないな。


 、、でも、なんか最後煽ったな、




「あの、いい加減目を開けてもらわないと困るんですが。後、早く離れて下さい。」




 なんだこの女神は、もっと優しくしてくれないのか?


 ゆっくりと目を開けると、、




「あ、やっと開けてくれましたね。この方を討伐しなくてはいけないので少し離れていて下さい。」




「え、え?なんで止められているんだ、、?」




 信じられない光景に驚きが隠せなかった、十歳前後の少年が変異種の本気で振り下ろされた棍棒を片手で受け止めている。


 少年の腕は年頃の男の子の細く白い腕であった。




 思考がまとまらなかったが、言われたとうりにオークから離れると。




「ありがとうございます。少し反応がなかったのでショック死してしまったのかと思いました。」




 いつもなら突っ込めるのだが、今回ばかりは混乱していて声が出なかった。




「それでは、変異種オーク、、、、の討伐を開始します。」




 そう言うと、空いている片手で腰に掛かっている剣に手をかけると、肉眼では到底追いつけない速度で棍棒を両断した。




「ッッッッ!!」




 武器をなくしたオークは一瞬戸惑ったが、両手でマシンガンのように連打を始めた。




「恐れて逃げればいいのに、何でむかってくるの、、、」




 一発一発が擦ればその部位が吹き飛びそうな威力であるのがギメルにも風となって伝わる。


 しかし、少年はオークの猛攻を意図もせず躱す。


 再び剣を強く握る、




「さようなら、、あなたは優しい方でしたね。」




 ギメルにはオークが殴っている豪音で聞こえなかったが、少年に闘気が溜められているのがわかった。


 このオークは一瞬にして倒されるのだと察した。




 肉眼では到底追いきれない剣の動きであるが、刃が太陽に照らされて銀青色の残像がオークを縦に真っ二つに光るのが見えた。


 甲高い鋼の音と烈風が同時に遅れてやって来る。オークの左右の身体は吹き飛び、ドス黒い血が雨の様に降り注いだ。




 オークが真っ二つになった時にマリが到着した。マリはその光景を見てギメルと同様に言葉を失った。


ギメルはマリの下まで駆け寄り事情を聞いた。


 マリの話によると、どうやら彼はここ最近にギルドに加入して『青の王子』と呼ばれているらしく、果たしなく強く勇者候補になっているらしい。


 剣の風圧で少年には、ドス黒い血糊一切付いてはいなかった。剣を鞘に収め目を瞑り下を向くと黙祷を始めた。




 なぜ、少年が魔物に対して黙祷をしているかなど、マリとギメルには知る由もなかった。ーーー






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「だいたいはこんな感じかな。それ以来ソラとはパーティを組んで一緒に冒険してるのよね。」




 話が終わるとマリはウェイトレスに飲み物のおかわりを頼んだ。


 ハッピーという少女の様子を横目で見ると、少女の紫色の瞳をキラキラと輝せながらソラの方を見る。当然だろう、年頃の少年少女にはこの手の英雄伝はとても受けるのだ。


 これでソラのファンが増えてしまったな。ただせさえこの国ではソラのファンが多く、たいしたクエストでもないのに帰って来るとファンからのパーティーが開かれ、お祝いの品などが送られて来る。


 私とギメル、ソラの部屋はファンからの手ずくりグッズでいっぱいだ。(なお、私たちの部屋にあるグッズの九割はソラの人形である。)




「やっぱり勇者様はすごいお方なのですね!」




 話が始まる前のマリに向けられた言葉とは対極な明るい印象を与える。やはり勇者と普通の冒険者ではここまで与えられる印象が違うのか。




「僕はそんな栄誉ある称号なんて本当はいらないんだけどね。僕は冒険者でもあるけど、主は兵士だからね。」




「ちょっと、ソラそんなことまで言わなくてもいいじゃない。ごめんね、たまにネガティヴなこと言うの。」




 ソラの本業はこの国の兵士である。そのことを知っているのはほんの数人しかいなく、出会ったばかりの少女にそのことを話たときは焦った。ソラが兵士ということが知られるとろくにクエストを受けられなくなる可能性があるからだ。


 この国は軍が最高権限を持っているため、兵士という役職は位にもよるが普通の国では貴族並みの権限はある。


 冒険者の職は農民よりの権限はなく、こんな職に就く奴なんて落ちこぼれか変わり者くらいだ。ソラの職業が他の冒険者に知られると嫉妬され殺されかねない。


 もし、そうなったとしてもソラが負けるはずないが。




「この子は平気だと思うよ。何となくそう感じるんだ。」




 何を根拠に言ってるのだろうか?そう疑問を持ったが言ったものは仕方ないと諦めた。


 ギメルとマリは頭を抱え、やれやれといった様子で、




「あのさ、ハッピーこのことは誰にも言わないでくれるか?俺らの命にも関わることだからさ」




 確かにハッピーという少女は無垢で愛らしく愛おしい。こんな子が秘密を漏らすわけはないと思うが、




「そうだな、私はまだ食い足りないんだが、、、」




「あのウェイトレスさん!!このテーブルにここで一番高い肉を!!」




 見事な手法だ。いや、この歳にしては出来過ぎな気がするが、




「ほう、気がきくな。」




 二人を光の通ってない紫色の瞳で見た。その瞳からは初めてソラと出会ったときと同じ感覚を感じた。不思議な感覚だ、見た目は普通の少女だが底が見えない。おそらくこの感覚は一度経験しているギメルとマリにしかわからない。


 全く別の生物だとも思わせる魅力が二人を見ている少女にはあった。ーーー




 再び少女の瞳に光が射すとソラの方に視線を合わせ、




「勇者様の本職は兵士だったのですね!でも、それだと魔王は倒せないんじゃないのですか?」




「うん、そうだね、僕では魔王を討伐しには行けないね。僕の役目はこの国の治安維持だからね。」




 マリとギメルは謎の汗をかいていた。なぜここまで空気が張り詰めているのか、二人の脳みそでは理解が出来なかったが、本能だけが理解していた。


 少女の左の瞳から光がなくなった、




「そう、なんですか、、それはとても残念です。ソラさんの秘密を聞いてしまったので私の旅の目的でも言いましょうか? ソラさんの秘密に比べれば比にならないですが」




 謎の緊張感からの解放され、二人の汗が引いた。呼吸をしていたことを忘れていたのは一気に吐息が出た。




「うん、是非こんな僕でよければ心してきくよ」




「ありがとう、、私の旅の目的は、魔王を倒せる本物の勇者様を探すことです。ただそれだけです。」




 ハッピーは透き通る幼い声でそういう。




「そうだったんだね、だから称号を持っている僕のところまでわざわざ来てくれたんだ。それは本当に申し訳ないことをしたね、僕にできることならこの国ではなんでもするよ。」




 ハッピーの目的を聞いたソラは自分では何も出来ないという申し訳ない気持ちでいっぱいになった。もしこんな立場ではなく、周りから勇者と呼ばれていたら魔王を討伐しに行くという気持ちはあった。




「いえ、目的はもう果たしましたし、私はそろそろ他の勇者様を探しに行きます。ここまでのおもてなし有難うございました。」




 ハッピーはそう言った途端席を立ち、スタスタとギルドから出て行った。


 ソラがマリとギメルを気まずそうに見つめると、




「あの子には申し訳ないことをしちゃった、、こんなにもこの称号が憎たらしいとは思はなかったよ。」




 また、ネガティヴ発言をしているソラを慰めるように、




「でもその称号のおかげ私達や市民が助かっているんだから、ありがとね」




「そうだぜソラ、お前のおかげで俺らの食い扶持が出来てるんだからな!誇りに思っていいぞ!」




 ギメルのは慰めているのかは謎ではあるが、二人の慰めによりソラの気持ちを少しだけ和らげた。




「ギメルは兎も角、ありがとうマリ。明日のクエストは僕も行くからね。」




 ソラは兵士という役職もあるのでいつもギメル達とクエストに行けない。なので、空いた休日にパーティーに加わっている。




「あれ、来てくれるの?今回のは簡単な配達のクエストだし、せっかくの休日なんだからたまには休んだら?」




「そうなの?じゃあ、お言葉に甘えて明日は休むよ」




「久々のデートを邪魔されたくはないんでなぁ!ガハハは」




 ああ、そうか、デートか、確かにここ最近は二人と一緒すぎたか。




 もう外は暗くなっていた、




「うん、楽しんでね。 今日はもう帰るね、また今度。」




 その日の夜はやけに静かだった。その違和感の正体はすぐに分かった。




『後をつけられているな・・・』




 ソラは背後には4~5人ほどの気配を感じる。恐らくギルドで聞き耳を立てていた冒険者だろう。唐突に現れた優秀な若者に嫉妬する中級冒険者は数知れない。ソラが兵士というたったそれだけの理由で殺しに来たのだ。




「いい加減出てきてくれないか?もう、周りには人はいないぞ。」




 後方に声を掛けると、何度かギルドで見かけた冒険者たちが現れた。全員がそこら辺の兵士よりは実力がある者たちだった。


 そのグループのリーダーが前に出てきた。




「イーシアさん、、なんでこんなバカなことをするんですか。」




 ソラがギルドに加入し始めたころ、親切にしてくれた人だ。一緒にクエストもしたことがあり、実のところ初めて兵士だということも告白した人物だった。


 魔力の感知ができるソラは初めからわかっていたので動揺は顔に出なかった。このまま、去って行ってくれと願っていたが、殺意を感じたため対応せざる得なかったのだ。




 眼鏡が似合うイーシアは唇が緊張から乾燥しているのか、少し下で湿らせ、暗い声で喋り始めた。




「バカなことですか、、、貴方にはそう感じてしまうのですね、、」




「だってそうでしょう。僕が兵士だからって理由で殺すなんて馬鹿げていますよ。まして仲間をなんて、、、」




 イーシアの殺意が確実なものになったのがソラは感じた。イーシアだけではない、他の冒険者たちも明確な殺意が芽生えた。




「友人ですか。面白いことを言うものですね貴方は。」




「稼ぎがいいクエストをすべて独占し、難易度が高ランクのクエストをやらせ、若い冒険者が飢えて死ぬか、魔物に殺されるかの選択を迫るのが友人のすることですか。」




 ・・・・




「貴方がやっているのは殺人と同じことだ。」




 ・・・・




 ソラは何も言わなかった。いや、言えなかった。ソラの行っていたそのクエストの数々は中級冒険者には荷が重すぎるからである。その情報を握っているのは上流階級の兵士だからである。




「だから、私たちが貴方を粛正する。剣を抜きなさい。」




 イーシアとその一行は鋼色の刀身を剝き出しにした。後方の一人は身体強化の魔法を掛けていた。




 ソラは銀青色の刀身少しだけ姿を現したその時、


 イーシアの合図により、一斉にソラに切りかかってきた。




 剣士としては最低な奇襲ではあるが、人を確実に殺害することに卑怯などという言葉は存在しないとその時ソラは思った。




ぶすっ




「国家兵士に剣を向けた罪として貴方たちを処刑します。」




 赤い液体が入っている注射器を首に打ちながら、ソラはその場にいる全員に声を放つ。






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「被検体19-98、この輩たちは我々が回収してよろしいのですネ?」




 鼻が赤く、耳がとんがっている、白衣を着た年老いたエルフの男が言う。




「しかし、バカ共ですネぇ~。私の最高傑作に勝てるはずがないでしょう二。」




 両腕が切り落とせれて、死なないように止血だけされている瀕死のイーシアがエルフの男に




「被検体だと、、、?何のことを言っているんだ?あの注射器に何かあるのか、、?」




「そのとーーーーーーーーーリ!あれは、我々が開発した肉体及び魔力超強化剤、その名も、、、」




「『勇者飼育キット(仮)』なのでーーーーーース!」 




 ふざけた声で、白衣のエルフがそう言っタ。


 ソラの眼には生気がなかった。










『勇者飼育キット(仮)』・・・人工的に飼育された変異種の血液を触媒とした身体能力の飛躍的な向上、魔力の増加を与える魔剤である。


ソラは幼少期孤児だった。そのため、国の研究材料として様々な被検体として扱われていた。それでも初めのころは、被検体の扱いはよかった。




武力が周辺諸国に比べ劣るこの国では、武力の向上をどうにかしたいと国王及び上位貴族たちは考えていた。そこで、何度も賞を取っている他国の研究者を高額で雇うことに成功した。




研究者は老いぼれていて、国王、貴族は騙されたと思った。しかし、武器、防具の強化により武力は飛躍的に成長をした。老いぼれエルフの権力もそれに比例して上流貴族に肩を並べるほどになった。




この国には孤児を被検体として、必要最低限の生活と国に貢献することが義務とされていることを知ったエルフはあることを思いつく。この被検体を利用してこの国を乗っ取ってしまおうと。








「結局最後まで耐えられたのは被検体19-98だけだったんですけどネ!まあ、失敗した後の廃棄物達は危険なのですべて森に捨ててますがネ!」




失敗した被検体達が、他国の農村を滅ぼしていることなど研究者や貴族たちは知らなかった。いや、興味がないのだ。




「だから、ソラはクエストを、、、、」




全てを察したイーシアはソラの方を見た。光の射していないソラの眼に映るものはなんなのだろう。


遅すぎた。ソラともっと話すべきだった。それももう、遅いのだ。




「クエスト??なんのことですかネ?そんなことより、数が少なくなってきている被検体の収穫ご苦労様でしタ!はい、ご褒美でス。」




白衣のポケットから取り出した小さな青い錠剤をソラに放り投げた。


ソラはそれを素早くキャッチし、飲み込んだ。少しづつ眼に光が宿りはじめ、身体に異常がないかを確認する。




「博士、僕はこれで失礼いたします。研究室に作業が残っているので。」




ソラはエルフに軽く頭を下げ、早々に去って行ってしまった。


その姿をエルフは目で覆い、ソラの姿が消えるとイーシアの方の向き、




「さテ、これから長い夜が貴方たちを待っていますヨ」




ケラケラと気持ちが悪い笑い声が夜空に響く。


その様子を見ていた紫色の眼には誰も気づかずに。

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