踏切
尾八原ジュージ
踏切
珍しい化石を手に入れた、と鉱石マニアの友人から連絡があった。その次の日曜日はたまたま暇だったので、彼の家を訪ねてみることにした。
何の化石かは見てのお楽しみだという。晩夏の日差しが照りつける中、私は少年のようにわくわくしながら、歩いて友人宅に向かった。
途中の踏切で、タイミング悪く遮断棹が下りてきた。遮断機の横には萎れた花束が添えられており、私は半月ほど前にここで事故があったことを思い出した。
腕時計をちらっと見る。約束の時間より少し遅れるかもしれない。
ここ数日降っていた雨が止んで、蒸されるように暑い。あちこちから湯気が立ち昇っているような気がする。遮断桿は下りたまま、しかしなかなか電車が通過しない。警報機のカンカンという音が、耳を殴るように迫ってくる。
早く電車が通ってしまえばいいのに。顔をしかめて警報灯を見つめていると、隣に誰かが立った。その途端、スッと警報機の音が遠のいた。
「○○さんちに行くんでしょ?」
聞いたことのない声が、突然友人の名前を告げた。
驚いてそちらを向くと、スーツを着た首のない人間が立っていた。
「それ化石じゃなくてただの人骨だよ。バカだねぇ」
どこから声が出ているのか、首なし人間はくっくっと笑った。顔もないのに、確かに笑ったということがわかった。
けたたましい音をたてて、私達の前を電車が通過した。
遮断桿がゆっくりと上がる。もう首なし人間はいなかった。一瞬のうちに消え失せていた。
風もないのに足元の花束が揺れて、包装紙がガサガサと音をたてた。その瞬間、何の前触れもなく吐き気がこみ上げてきた。私は花束から顔を背けて嘔吐した。
結局その日、私は友人の家には行かなかった。
当然訪問を中止する旨を連絡したが、一向に返事がない。私は次の週末、遠回りをして別の踏切を渡り、彼の家を訪ねてみた。
すべての窓が閉ざされ、玄関に「売家」という看板がかけられていた。
以来、友人は行方不明のままである。
踏切 尾八原ジュージ @zi-yon
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