第5話

 呟いてから、我に返りました。

 独りで勝手に傷心していたのです。

「あなたは、不器用なのね」

 女性は何かを思い出すように、ガラス戸の外を見つめます。

「色々考えるけど、なかなか口に出すことができない。私の夫と似ているかも」

「旦那様、ですか」

「ええ。お見合いの席で出会ってすぐに、わたくしを気に入ってくれたらしいのだけど、なぜわたくしだったのか」

「わかります!」

 口が滑りました。でも、わかる気がします。素敵な雰囲気ですから。

「そう? そうだと良いのだけど」

 恥ずかしそうに微笑み小首を傾げる様は、同性の私からも魅力的に見えます。

「夫は報われないことが多過ぎて、色々なことがままならないまま、いってしまった」

「大変……」

 大変でしたか。大変でしたね。

 どちらも言えず、中途半端に言葉を濁してしまいました。

 女性は嫌な顔をせず、懐かしむように目を細めます。

「大変だったわ。でも、幸せだった。夫と出会えて、幸せだった。娘達にも苦労をさせてしまったけど、今でも、幸せだと思えるわ。夫がいてくれて、良かった。だから」

 白魚のような手が伸ばされ、頭を撫でられてしまいました。

「あなたも、幸せの枝葉を見つけたら手を伸ばして良いのよ」

 すとん、と。しかるべき場所に何かが落ちた気がしました。鼻の奥が痛くなり、目頭が熱くなります。

 このような言葉を言われたかったのかもしれません。亡くなった母に味方になってほしかったのかもしれません。

 モモちゃん、と呼ぶ声が聞こえました。彼です。

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