第5話
呟いてから、我に返りました。
独りで勝手に傷心していたのです。
「あなたは、不器用なのね」
女性は何かを思い出すように、ガラス戸の外を見つめます。
「色々考えるけど、なかなか口に出すことができない。私の夫と似ているかも」
「旦那様、ですか」
「ええ。お見合いの席で出会ってすぐに、わたくしを気に入ってくれたらしいのだけど、なぜわたくしだったのか」
「わかります!」
口が滑りました。でも、わかる気がします。素敵な雰囲気ですから。
「そう? そうだと良いのだけど」
恥ずかしそうに微笑み小首を傾げる様は、同性の私からも魅力的に見えます。
「夫は報われないことが多過ぎて、色々なことが
「大変……」
大変でしたか。大変でしたね。
どちらも言えず、中途半端に言葉を濁してしまいました。
女性は嫌な顔をせず、懐かしむように目を細めます。
「大変だったわ。でも、幸せだった。夫と出会えて、幸せだった。娘達にも苦労をさせてしまったけど、今でも、幸せだと思えるわ。夫がいてくれて、良かった。だから」
白魚のような手が伸ばされ、頭を撫でられてしまいました。
「あなたも、幸せの枝葉を見つけたら手を伸ばして良いのよ」
すとん、と。しかるべき場所に何かが落ちた気がしました。鼻の奥が痛くなり、目頭が熱くなります。
このような言葉を言われたかったのかもしれません。亡くなった母に味方になってほしかったのかもしれません。
モモちゃん、と呼ぶ声が聞こえました。彼です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます