第4話

「珍しいわね。若い子がお着物を着てここに来るなんて」

「今日は大茶会なんです」

「あなた、お茶をなさるの?」

「いえ……」

 高校時代に、ほんの少しやっただけです。上手く答えられませんでした。

 手元から着信音が聞こえ、私は自分の携帯電話を確認しました。

 彼のお母様からのメールです。



『楓斗から電話があったよ。百花ちゃんが綺麗だったから、びっくりしたって。大成功ね!』



 『大成功です。ご協力ありがとうございました』と返事をして、携帯電話は風呂敷バッグにしまいました。

 女性は、きょとんした表情で私の手元を見ていました。

「彼のお母様からです。このお着物を見立ててくれて、彼を驚かせようって協力してくれて……」

 そう言っているうちに、むなしくなってきました。

 彼――佐倉さくら楓斗ふうとくんとは、1年近く前に知り合いました。

 私は杉並に住んでおり、気まぐれに近所の小さなカフェに入りました。そのカフェが、彼のお店だったのです。

 私なんかのどこを気に入ったのかわかりませんが、私が来店するたびに話すようになり、交際するようになりました。

 ご実家のご家族にも会い、何度もご飯をご馳走になりました。

 私が席を外したとき、彼がご家族に話しているのを聞いてしまいました。

 彼は、私と結婚したいと思っているのだそうです。ご家族も、大喜びで賛成していました。

 盗み聞きの罪悪感がありながら、私は胸の内が温かくなるのを感じました。

 彼は都内出身在住で、大学の経営学部を卒業して自分の店を持ち、茶道教室で茶の湯を学ぶエリート。両親祖父母も健在で、とても仲良し。交友関係も広く深い。

 それに対して私は。

 かつての同級生を深く傷つけ、唯一の家族だった母を自殺に追い込みました。

 高校の同級生だった、心が繊細な優しい女子が、私の姿を見るたびにパニックを起こすようになってしまいました。原因はわかりません。後で聞いた話によると、その子は中学時代に酷いいじめを受けており、いじめの加害者は私と容姿が似ていたのだそうです。学期の中途半端な時期でしたが、その子か私のクラス替えも検討されました。

 父は早くに亡くなり、女手ひとつで私を育ててくれた母は、私のことで思い詰め、首を吊りました。私は頼れる親戚もなく、高校を退学しました。

 田舎出身で高校中退、逃げるように東京に出てきて、知り合いも無し。彼と会う日以外は働き詰めで、その日生きるのに精一杯です。

「……私なんか、いない方が良いのに」

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