第四十三話☆夕飯




もう一度袖を付け直す気力の無かった私は女の子の様子を見に行くことにした。


「あ…。」


ドアの前の花瓶用の机に置いておいたお昼ご飯が空っぽになっていた。


「…よかった。やっぱりお腹空いちゃうもんね。」


私は食器を回収し、夕飯作りに取り掛かった。


大層に夕飯作り、と言っても、そもそも食材と、私の知識が限られているため、レパートリーが少ない。


とりあえず、お米を炊こう。塩おむすびでもしようかな。


おかずは鶏肉をハーブと塩と一緒に炒めたもの。ほうれん草とか他にもたくさん入れてみようかな、と思ったが、味がどうなるのか分からなかったため、今度1人の時に色々試してみよう、と思い、やめておいた。


後は、欲を言えばお味噌汁が欲しいんだけど、味噌がないため、野菜を適当に入れ、野菜塩スープを作る。


そうだ!豆腐とか作れるかな?…って思ったけど詳しい作り方は知らないや。


できた料理を次々にお皿に盛り付け、また2階の女の子の部屋へと運ぶ。



コンコン


反応は無いだろうな、となんとなく予想しながらも一応ノックをする。


「夕飯、作っておいたから、また机の上に置いておくね。好きな時に食べていいけど、出来るだけ温かい内に食べてね。」


極力優しく話すように心がける。



……やっぱりなんの反応もないな。


ちょっと寂しく思いつつ、私は一階に戻り、夕飯を取ることにした。


レアと一緒にゆっくり夕食を取り終わり、後片付けをしていると、音を立てないようにゆっくりと階段を降りてくる影に気がつく。


「あれ…?」


そこには、女の子が申し訳なさそうに自分の食べ終えた食器を運んでいる姿があった。


ぱちり、と目が合うと、急に女の子が慌てだす。


「…あっ…。えっと…。その、ご飯を…ありがとう。」


しどろもどろだが私にはしっかりと伝わった。もう、それで充分。


「うん、どういたしまして。」


恐る恐る、といった感じで女の子は私に食器を受け渡す。

その、空っぽになった皿を見て、私はじんわり心が温かくなる。

やっぱり、自分が一生懸命作ったものを完食してもらえるって嬉しい。


そんなことを考えていると、空いた両手をもじもじさせながら、女の子は小さな声でぽつり、と話し始める。


「あ…、えっと、その。お、お話が…したい…」


お!待ってました!!


…と言いたいところだが…今からだと途中で眠くなっちゃうだろうな。私も夜はしっかり寝たい。


「うん、そうだね。でも、明日ゆっくり聞くよ。今日はまだ疲れているだろうし、おやすみ。」


女の子は一瞬ビックリしたように目を大きく開けた後、小さく答える。


「お…、おやすみ。」


女の子がゆっくりと自分の部屋に戻る後ろ姿を眺めながら私は思う。




可愛いな、おい。ツンデレの次は照れ屋さんか。いいじゃないか。


この世界には美人さんしかいないのかな?素晴らしい。


パチンッ


「っ!いたっ!何するのぉ?」


「あ、ごめんなさいっ!顔がちょっと…。いや、あの、つい!」


またレアにデコピンをされ、ヒリヒリと痛むおでこを抑える。


顔がニヤけてしまっていたようだ。仕方ない。だってみんな可愛いんだもの。

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