第十二話 【王国】ギフト


 玉座の間を作った時には、使う事を考えていなかった。


 ここが、俺の最後の場所になるとは・・・。


 攻めてきた者たちは、玉座の前で休憩をしている。

 様式美として作ったセーフエリアで休んでいる。


 コアからの報告では、攻略を行っていた者たちは、セーフエリアで何かを見つけて、一人が戻っているようだ。


 抜けた一人が戻って来るまで、セーフエリアで休むと決めているようだ。

 時間が稼げるのは、俺たちとしてはありがたい。実際には、首の皮一枚で繋がっているような状態だ。3人で攻めてきても俺たちには勝ち目がない。


 でも・・・。それでも・・・。


 戦力差を考えれば、俺たちには勝ち目はない。

 セーフエリアで休んでくれている間に時間が稼げているが、別れの時間が出来た・・・。違う。抗ってみよう。

 負けるにしても、恥ずかしくない最後にしたいと考えている。覚悟は決まった。死にたくはないが・・・。


 隣にコアが居る。一緒に滅んでくれる。

 コアは言わないだろうが、俺には解る。


「コア」


「はい」


「残りのポイントを使って、魔物を召喚してくれ」


 攻め込んできた者たちの強さから、ポイントが入ってくる量が違う。

 王国の奴らが訓練で潜る一日のポイントが、数分で稼ぎ出されている。


 それも、攻めてきている4人の半数だけのポイントの様だ。

 二人は、魔物だと判定されている。誰の眷属になっているのか解らない。隠蔽されてしまっていて、俺では隠蔽を打ち破ることが出来ない。


「はっ。しかし・・・」


「解っている。見栄えがいい魔物を召喚して、玉座に並べてくれ、客人に手出しをしないように・・・。攻撃を控えるようしてくれ」


「わかりました」


「そうだな。10階層より深い場所に居る魔物を呼び寄せることはできるか?」


「可能です」


「手出し禁止に設定できるか?」


「可能ですが、ポイントを使います」


「そうか・・・。効率がいい方法はないのか?」


「玉座に繋がる部分を透明な壁で覆ってしまうほうがポイントの消費が少ないです」


「頼む」


「本当によろしいのですか?」


「あぁ様式美だ」


「承りました」


 コアが綺麗なカーテンシーを決める。


 最初に召喚して・・・。最初に見ただけだな。

 そうか・・・。俺を”主人”と認めてくれているのだな。


 眷属たちも、続々と玉座に集まってくる。眷属の部下たちも、俺に挨拶をする。コアが、場所を指定する。


 皆の表情は、どこか明るい。


 これから破滅が待っているのに・・・。不甲斐ない主人で悪かった。


「魔王様。10階層を除く階層主が揃いました。魔王様に挨拶を望んでいます」


 眷属は、全員が揃っていない。各階層を見て回っている者が居る。

 その者を除いて揃っている。


 階層主も、俺が設定をした者も居れば、コアに召喚させた者も居る。


「わかった」


 言葉がしゃべられるわけではないが、それぞれの階層主が俺に頭を下げる。

 状況が解っているのか、神妙な表情をしている者も居る。


 玉座を見回すと、階層主に連れられるように、魔物が整列を始める。


 壮観だ。

 そうか、俺はこれだけの者たちの命を預かっていたのだな。

 最後になって、大事な・・・。最初に考えなければ・・・。愚かだな。負けて当然だな。


 ダメ元で、交渉をしてみようか?

 俺の命を差し出す代わりに・・・。


「魔王様。愚かな事を考えないでください」


「え?俺、声を出していた?」


「いえ、声には出ていませんでしたが、魔王様の考えそうなことは解ります。ご自分の命を差し出す代わりに、眷属たちを助けるように交渉をしようとしていますよね?」


「・・・。ダメか?」


「ダメです。受け入れられる可能性はありますが、ダメです。眷属だけではなく、階層主も、魔王様と一緒に逝くことを望んでいます」


 涙が出そうだ。

 コアの言葉で、階層主たちが、玉座に向かって跪いている。俺からの命令指示を待っている。


 よく見ると、壁の向こう側に居る魔物たちも、跪いている。


「そうだな」


「はい」


 最初に召喚した眷属が、玉座に姿を現した。


 ブラックウルフだ。

 勧められるままに、召喚した。


 遊撃として、ダンジョンの中を部下のウルフ種たちを率いて、侵入者を屠っていた。


「魔王様?」


「ブラックウルフ!」


 呼ばれてびっくりしたような表情を俺に向ける。

 最後になってしまったのは、他の眷属や魔物たちが居ないか確認をしていた。


「コア。ブラックウルフに名付けをしたいが、ポイントは大丈夫か?」


「はい。まだ余剰があります」


 コアの笑顔で、俺が間違っていないと把握できる。


「コア。人タイプの魔物で、女性型を狙って召喚ができるか?」


「難しいと思いますが・・・。やってみますか?」


「ブラックウルフの名付けに影響がない範囲で頼む。戦闘力は・・・。必要ない」


「はい」


 召喚の魔法陣が展開される。


 持っているのか・・・。女性が召喚された。狙った召喚が出来るのなら、こんなに嬉しい事はない。


「魔王様」


 俺の前に跪いている。コアが立たせて、俺から見えない場所で、服を着せている。


 もう一度やり直すようだ。


「魔王様」


「お前の名は、舎人とねりの娘子おとめだ」


「はっ。私は、オオクチ。魔王様に忠誠を誓います」


「ブラックウルフ!最後の名付けになって、悪かったな」


”わふ”


「お前の名は、眞神まがみだ」


 二人とも真名は設定されている。呼び名の設定だけで大丈夫だ。


”ワフ!”


 眞神が吠えると身体が光りだす。

 進化の光だと思う。何度か、見ているが、ここで進化するのか?


 2-3分で光が収まった。そこには、二回りほど大きくなって、黒が漆黒というべき色に変わった、眞神が座っていた。


「舎人」


「はっ」


「コア。舎人に、従魔術のスクロールを渡してくれ、あと、残っているスクロールを、眷属たちに分けてくれ」


「かしこまりました」


 コアから、舎人がスクロールを受け取る。

 使い方は、解るのだろう。すぐに使った。


 これで、準備が出来た。

 眞神が俺の眷属のまま、舎人の従魔になる。前に、試した時には、これで、眞神の意思が舎人経由で解るようになる。


 舎人がスキルを使って、眞神を従魔にした。


”眷属の進化条件を満たしました。全ての眷属に祝福ギフトが配られます”


「え?コア!」


「はい。ダンジョン・コアからの声です。最下層に、眷属が集まった上に、魔王様を裏切る事で、進化条件が満たされたようです」


「え?俺?裏切られたの?」


「眷属だった、眞神が舎人に従属したので、”裏切られた”と判定されたのだと思います。眞神が、魔王様の眷属から外れています」


 よくわからないが、戦力が増したのなら・・・。


 コアを見るが、首を横に振っている。

 俺の考えている事が解るのだろう。それで、横に首を振るというのは、それだけの戦力差がまだあるのだろう。


 しかし、今の情報を・・・。

 ダメだ。対価にならない。


「コア。客人は?」


「はい。セーフエリアで休憩を・・・。終わったようです。準備を始めています」


 そうか、終わりが近づいてきているのだな。

 こうなるのなら、王国に恭順を・・・。違うな。最初から間違えたのかもしれない。次があるとは思えないけど、次があれば・・・。


 隣に居るコアが落ち着いた表情で俺を見ている。


 そうだな。

 俺が慌ててもしょうがない。


 ドアが開けられた。


 本当に、4人で来たのだな。


「招かれざる客人よ」


 一人の少女が、中央を闊歩してくる。

 堂々としている。


 狐人族か?

 そういえば、ダンジョンが出来たばかりの頃・・・。狐人族がダンジョンに逃げてきた。どうした?そうだ。王国に捕まると殺される可能性があると言っていたから、反対方向に逃がしたのだったな。


 それから・・・。


「貴方が魔王ですか?」


「そうだ。貴殿たちは?」


「魔王ルブラン領。カプレカ島から来た。ミア。魔王に聞きたいことがある」


「え?」


 聞きたい事?

 俺に?何を?

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