第十一話 ヒアとミア


 カンウ様と威力偵察という強行偵察で、王国を蹂躙している時に、モミジ様から連絡が入り、魔王様から新たな指示が伝えられた。


 ぼ、俺をとカンウ様は、このまま王国にあるダンジョンの攻略を行う。

 モミジ様とミアが合流する。


 その後は、モミジ様とミアの考案する作戦で、王国の砦を奪って、ダンジョンの攻略を行う。


 本当に、魔王様と同列の魔王なのかと思うくらいに簡単に攻略が進む。

 これなら、ミアが設定を行ったギミックハウスは・・・。もちろん、他の者たちが設定したギミックハウスの方が攻略の難易度は高い。


 ダンジョンの中でも、ミアが聖典にあるような軍師の役割を受け持っている。

 俺も、ミアは前線で戦うよりも、軍師として後方で全体を見ながら戦況を分析して、有効な手を考えてほしい。と、考えていた。


 以前に、ナツメ様に聞かれて正直に答えた。ナツメ様に肩を竦められてしまった。俺の答えでは、ダメだったようだ。


 何がダメだったのか考えてもわからなかった。

 魔王様に下った、魔王カミドネの眷属であるフォリに、歓迎の会で聞いてみた。


「俺の答えではダメなのでしょうか?」


「ダメではないですよ。魔王様の眷属として、配下として、戦力を配置するのなら、最適解ですね」


「そうですよね?」


「ナツメ様が、”何を”求めているのか、私にはわかりません。しかし、率直に聞きます」


「はい。なんでしょうか?」


「ヒアさんは、ミアさんの事が、仲間として、同僚として、そしてそれ以上の存在として大事なのですよね?」


「はい。大切な女性です」


「それなら、後方で作戦を立てる場所を進めるのは・・・」


「え?」


「私にも、眷属が居ますし、仲間が居ます」


「はい」


「私は、魔王様。あっ。カミドネ様の近くを離れません」


「はい。魔王カミドネの護衛兼軍師だと聞いています」


「そうです。軍師という役割はわかりませんが、作戦を立案します。戦いが始まれば、全体を見て、指示を出します」


「はい。過酷で大事な役割だと認識しています」


「そして、時には残酷な命令を魔王様に提案しなければなりません。それこそ、魔王様を逃がすために、生き残っていただくために、眷属と私自身を含めて、”死ね”と指示を出す必要があります。そうでなくても、戦いには絶対はありません。私の作戦が破綻して、相手の方が上手だったら、戦力は十分?それこそ、戦いが続いている間は、水も飲めません。緊張で、喉が痛いほどに乾いて、身体は睡眠を欲しているのに、頭が、心が、睡眠を拒否するのです。前線から連絡が来るたびに、胃の腑が捩れるような痛みを感じます。戦いが勝利で終わっても、戦死者はゼロには・・・。不可能です。怖くて、村を歩けません。魔王様のお力で、戦死者はゼロに近づいています。だけど、”減らせる”だけで、無くせません」


「・・・」


「魔王様が、ミアさんに・・・。過酷な状況を与えるとは思えませんが、貴方が、ヒアさんが望むことですか?」


 言葉が出なかった。

 考えてもいなかった。魔王様からの命令で何度か戦いに出ているが、仲間から”死”は遠のいた。楽勝とは思っていないけど、怪我程度で切り抜けられると考えていた。どこか、遊びの延長だと考えていたのかもしれない。


 フォリとの会話で、俺の考えは変わった。

 ミアが何を望んでいるのか考えた。魔王様の”助け”をする。魔王様の敵を屠る。その上で、仲間たちを守る。魔王様が庇護した者たちを守る。


 ミアには敵わない。でも、俺がミアを支える事はできるはずだ。ミアが負う荷物を俺が肩代わりをすればいい。

 聖典は、武術の技術や武器の取り扱いを主に読んでいたが、ミアが読んでいる戦い方や戦略や戦術の聖典も読もう。今からでは遅いかもしれないが、ミアの負担を減らすことが、魔王様の為にもなるはずだ。

 ミアが、魔王様の側近になる時に、ミアの隣に立てるように・・・。


---


 モミジ様の目線が気持ち悪い

 ニヤニヤしているのがわかる。あの目をしている時には、何を聞いてもごまかされてしまう。


 ヒアは本当に強くなった。

 もう、私では勝てないだろう。ヒアなら安心して、狐人族の部隊を任せられる。一人の死者も出さずに帰還してくれる。


 私たち、狐人族は、獣人族の中でも弱い種族だ。狩りも、集団戦が得意で一人の武勇では、人族と変わらないか、劣るくらいだ。訓練で強くなっても、国に属する軍隊では太刀打ちできない。集団戦で生き残る方法で戦うしかない。


 戦いに行くときに、狐人族のリーダーたちが集まって話をした。


「ヒア。頼みがある」


「何?」


「ヒアには、狐人族の族長として、戦いには出ないでほしい」


「え?でも・・・」


 私の考えは、違っていた。

 最初に魔王様に保護された者たちだけではなく、その後に保護されたり、集まったり、狐人族も増えている。もちろん、年長の者や、皆をまとめていた村長もいた。それこそ、名を持っている者もいた。私が、カプレカの族長である理由はないと考えていた。

 これからは、魔王様の為に命を使おうと考えていた。


「わかる。ミアの考えは・・・。でも、狐人族の中で、魔王様に謁見できるのは、ミアだけだ。この意味を考えてほしい」


 確かに、言われて考えてみた。

 ルブラン様には皆が謁見できる。しかし、魔王様には決められた者たちだけが会う事が許されている。私は、その中の一人だ。各部族の族長や村長だった者たちには、魔王ルブラン様と魔王カミドネ様の上に魔王様がいると説明されている。


「ミイがいます」


 絞り出すような声になってしまった。妹に、族長の責務を押し付けてしまう。妹には自由に生きてほしい。


 村長たちが納得したのかわからないが、私が戦いに出るのを承諾してくれた。


 王国と神聖国と連合国が同時に攻めてきた。

 魔王様は、即座に撃退を指示された。魔王様からの指示だと言われれば、村長たちが折れるのは当たり前だ。出征の前に、私が倒れた場合の族長はミイを指名した。村長たちがミイをサポートすれば大丈夫だろう。それに、魔王様がいらっしゃれば、狐人族は大丈夫だろう。


「ミア!」


「はい」


 モミジ様とカンウ様の指示で、王国にあるダンジョンの階層主と一人で戦う事になった。モミジ様の見立てでは、ロイやベイが一人で倒すのがギリギリだと言われた。二人がギリギリなら、戦術を工夫すれば勝てる相手だ。それに、魔王様のダンジョンでは階層主としてではなく、徘徊している魔物と同種だ。戦い方もわかっている。


 モミジ様の見立てよりも、階層主は弱かった。

 いろいろな策を考えていたが、最初の攻撃で腕の破壊ができてしまった。そこからは、力技による攻撃で綺麗ではないが、無駄に体力と時間を使うよりはいいだろう。次の階層主が私でも倒せるような魔物なら、また私が戦いたい。


 私は、魔王様の盾で剣。


---


 もうダメだ。

 最強の守護者があんなに簡単に・・・。


 眷属たちが全員で立ち向かっても勝てなかった階層主を、一人で瞬殺している。


 戦いが始まって、目を逸らしたわけでもないのに、腕が飛ぶまでわからなかった。


 そのあとは、蹂躙だ。倒れるまで、切られて蹴られて殴られていた。


 もう、助かる手段がない。


 せめてもの抵抗に、眷属たちを呼び戻した。でも、意味がない。

 眷属たちが、故郷の文字を覚えたいと言ってくれた。そのために、準備していた物を眷属たちに渡して・・・。


 最後は、威厳がある魔王として、急遽作った玉座で侵入者たちを出迎えよう。


「玉座に移動する。皆、ついてきてくれ、それから、客人には手出しをしないように・・・」


「魔王様!」


「わかっている。しかし、最後くらいは魔王らしく、居させてくれ・・・。お前たちがいてくれたおかげで、俺は楽しかった」


 立ち上がって、玉座に移動する。

 間違って、招かれざる客人が間違えてこちらに来てしまうのは本位ではない。案内に、おいていくことにした。

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